140.前生徒会長は心配性
ということであまりの河村のダメダメさに俺は見ていられなくなって高橋に追随する形でクリスマスパーティーのイベント事に参加することを決めた。
高橋と生徒会副会長の清水さんが不憫でならないと感じたし、他の生徒会メンバーも河村に対して思うことがあるらしく生徒会室の空気は重苦しかった。
「えーっと、今どうなってるんだっけ?」
呑気に炭酸ジュースのペットボトルを片手にくつろぐ河村。あいつ一人だけクリスマスの件を全く把握していないらしい。お前、本当に生徒会長か?
「どこかの誰かの発言の件で保護者の方々と調整が必要になってる。それに有志のメンバーが集まりきっていない。他にも公民館側から参加人数や予定等々の提出を求められていますが、未だに白紙。少なくとも来週中には送らないといけないことになっていますが?」
「あ、うん。そうなんだ」
「そうなんだ、ではないでしょ!? あなたがいつまでもそんな呑気な態度でいいとでも?」
「ごめんって! やろうと思っているんだけど、イマイチよくわからなくて……」
「だったら! 私や他の生徒会の面々に話せばいい! いつまでもそのような――」
「二人とも! 落ち着いて!」
高橋が二人の仲裁に入る。清水さんは爆弾が爆発寸前で危険状態。
一方、河村は本気で申し訳なさそうに小さくなっている。
「……はぁ」
昨日からこんな感じで河村と清水さんとの間で度々衝突。
それを高橋が仲裁して空気が悪くなり……を繰り返してばかり。
俺は他の生徒会のやつとクリスマスの件を話し合ったり、調整をしたりするがそれらを取りまとめて交渉するべき会長と副会長がこのざま。
頭が痛い。というか頭痛が痛い。
つーか偉いわ。二人が衝突していることに慣れているのか、他の生徒会の人らは淡々と自分の仕事をしている。
「まずは保護者会の件と公民館側とコミュニケーションを取って、それから――」
案の定、高橋を中心となって話を進めることに。
清水は最早河村を捨て、外部の人間である高橋を全面的に頼るようになったようだ。
「え? 俺は?」
「河村君はまた別に。今はこの二つをどうにかしないと話が進まないからね」
「そ、そうか」
おい河村。高橋がやってくれるからって安心すんなっつーの。
本来はお前がやらねぇといけないんだからな。
「……いいね。生徒会。それも生徒会長なのにただのお飾りでなんとも羨ましいことで」
清水さんが皮肉を口にした。
「清水さん! そういうのはダメだからね?」
「高橋君。あなたはどっちの味方なの? 私? それともそこの男?」
「僕は――」
二者択一の選択を迫られる高橋。河村につけば組織として崩壊を意味するし、清水につけば生徒会長である河村はきっとへその緒を曲げてしまう。
高橋としては両者のバランスを整えながら綱渡りしたいと思っていたが、現状難しい事態になってしまった。俺にどうしようと目で訴えかけているので、俺も重い腰を上げようとしたその時だった。
「どうした? 喧嘩か?」
生徒会室に我が物顔で入ってきた一人の女子生徒。
彼女こそ、河村が会長になる前の会長である白雪奏音。
彼女の登場で生徒会室の重苦しく沈殿した空気が一瞬で霧散してしまう。
「白雪先輩!? なんでここに?」
現生徒会長の河村が白雪奏音の登場に一番驚いていた。
「後輩を心配して悪いのか? 案の定、まとまりを欠いて言い争っていると見えた。清水。高橋君。それに……」
「橘です。橘千隼。俺はよく名前を忘れられるか、憶えられない人間らしいんで気にしないでください」
「すまない。君とは一瞬のことで忘れてしまった。しっかりと記憶したから安心してほしい」
「あ、はい」
白雪先輩はしっかり謝罪してくれた。これだけで印象はいいのだが、この先輩の問題点がここで浮上することになるとは、この時俺は予想だにしていなかった。
「河村」
「は、はい!」
「この騒ぎの説明をしてくれ。手短にな」
白雪先輩にそう言われ、河村は事情を説明していく。
しかし、河村の説明はあまりにも下手くそで要領も悪く、所々自己保身的な発言が多く、清水さんや高橋さんに突っ込まれながらも話した。
「なるほど」
俺はてっきり白雪先輩が河村のことを叱咤激励、もしくは一発生徒会長として責任のある言動をするように注意するものだと思っていた。
しかし……。
「まったく……しょうがない後輩だ」
……
…………
………………それだけ?
「いや、ほんとすみません! これから頑張りますんで!」
「その心意気が大事だ。次は他のみんなに迷惑をかけないように」
「はい!」
「ということだ。清水、この河村はまだまだ至らない部分がある。彼をしっかりとフォローしてやってくれ。それと高橋君。君は生徒会でないにもかかわらずご協力感謝する。ぜひ、一丸となってクリスマスパーティーを支えてやってくれ」
「……わかりました」
清水さんは白雪先輩には歯向かうことなく、不満はあるが牙を引っ込める。
「はい」
高橋もこの人に言われたら頷くしかない。それほど彼女の言葉は反論の余地を許さないほどの迫力であったり威厳がある。
「白雪先輩。ちょっといいっすか?」
「ん? 橘君か。なにか?」
「ここだとあれなんで、ちょっと外に行きましょうか」
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