139.頼りない生徒会長

「橘。ちょっといいかな?」


 放課後。俺はダル絡みして櫛引を挑発する長谷部を払いのけ、高橋の下へ行き教室を出た。


「なんだ?」


「ちょっと僕に付き合ってくれるかな?」


「ああ」


「ごめんね。頼めるのは橘しかいないから」


「照れるな。で、生徒会室に行くのか?」


「あはは……橘はエスパー? それとも超能力者かな?」


「俺は残念ながら平凡な男だ。朝のアレ、きっと生徒会が絡むと思ったからだ」


「どこからその情報を?」


「ちょっとな。とっとと行こうぜ」


 俺と高橋は生徒会室に向かった。生徒会室はそこまで距離があるわけでもないので、すぐに到着。高橋がドアをノックすると、向こうからどうぞの声がした。


「失礼します」


 高橋が先陣を切って入ると、生徒会の面々が揃っていた。

 それぞれが指定の席に座ってくつろいでいるように見える。


「あ、高橋君! 来てくれたんだ!!!」


 一番奥の席に座っていた男が嬉々としながら立ち上がった。

 あいつが現生徒会長の河村。やはりどこか頼りない風貌をしている。


「うん。河村君と少しお話がしたくて」


「そっかそっか! ぜひぜひ座って! えっと……そちらは?」


「俺はこいつの連れ。安心しろ。俺は一切邪魔しねぇから」


「あ、そう……」


 なんだろうか。居心地の悪さが半端ない。

 高橋は河村含めた生徒会面々から歓迎されているが、俺は部外者が何勝手に入ってきているんだ、と無言の圧力を感じる。


 とはいえ、生徒会長の河村が俺に出て行けと言わない以上、他のメンバーは納得するしかないようだ。逮捕されたらメンバー呼びされるのだけは勘弁だ。


「高橋君。君が来たということは手伝ってくれるということでいいのかい!?」


「いや。僕はその件でお話を聞きたいんだ。ごめんね」


「いやいや! とんでもない! クリスマスの件でちょっとな……」


 河村は苦笑いしながら頭をかいた。


「俺たち生徒会は十年ちょっと前からクリスマスパーティーを主催していること、知っているか?」


 俺と高橋は揃って首を横に振る。初耳だった。


「昔の生徒会が地域のために何かしたいってことで始めたらしい。それで、学校近くの公民館。そこで近くの幼稚園の子たちと一緒にクリスマスパーティーをすることになっているんだ。で、その幼稚園の親御さん、俺たち生徒会、うちの学校の有志の人たちが主催やら準備をすることになっている」


「だったら問題なさそうじゃねぇか。生徒会と有志が中心なんだろ? そこに大きな障害があるとは思えないんだが」


「えっと……」


「橘千隼」


「橘君? えっと、それが問題で……」


「わかったから話してみろ」


「うん。それが……」


 河村は他のメンバーの顔色を窺う。他の生徒会のやつらは一同に何とも言えない微妙な表情で会長を見ていた。


「俺が頼りないせいでちょっと……」


「具体的には?」


「えっと……なんだっけ?」


 ポカンとする河村。彼に代わって生徒会副会長の清水さんが口を開く。


「来月のクリスマスに向けて現在、私たち生徒会は有志のメンバー集めと保護者会の代表者との話し合いが行われています。が……この人のせいで難航しているんです」


「清水さんごめんって……」


 平謝りする河村に清水さんはむすっとしている。


「彼が話し合いに遅刻。更には余計なことを言って何人かの保護者を激怒させて話し合いは中止。次回は未定になってしまった。有志のメンバーは私の他、生徒会で数人集めたのに対し、この人は未だにゼロ。他にも公民館側と日程やその他諸々の調整が必要ですが、一向に話が進んでいない。まったく……」


「ほ、ほら! 高橋君を連れてきたじゃん!」


「それは先輩のおかげでしょ? あなたの功績ではない」


「……」


 清水に一喝されて落ち込む河村。それを見て俺と高橋は目が合ってしまう。

 ああ、なんとなくわかった。俺と高橋の心情が一致した瞬間だった。


「あの……ちなみになんだけど、河村君は何を言ったのかな?」


「え? 別に大したことじゃないと思うけど……」


「この人は保護者の方々に暇があっていいですね、と言いました。あの方々も暇でないのにもかかわらず、無神経な発言をしたことに間違いありません」


「だって――」


「言い訳はいいから。あなたは早く保護者の方々に謝罪してください。今すぐに」


「えー!? どうやって?」


「なあ、高橋」


「なに?」


「もしかしてだけど、ハロウィンのときもこうだったのか?」


 俺は一方的に叱られている河村に聞こえないように高橋に耳打ちする。


「まあ……あはは」


「……」


「でも、ハロウィンは清水さんが中心になってくれたから支障はなかったんだ。河村君は……主にやらかしても大丈夫な、雑用中心だったから」


「……なんで生徒会長に慣れたんだよ、あいつ」


「ノリと勢いで立候補したら当選したんだって。対立候補はやる気なかったし、河村君は知名度だけはあるからね。目立っていたのは河村君だけ」


「日本の未来が心配になる……」


 でもまあ、生徒会って創作では権限があったり華やかなイメージがあるが、現実はそうはいかず、どちらかというと地味だ。


 例えば高速を変更できるほどの権限も権利もなければ、生徒会だけで独自イベントや大会を開くことは不可能。生徒会だからすごいだの、カッコいいだの。それは創作で作られた幻想。現実はやりたくないけど誰かがやらないといけない。だから、やってくれないか?


 みたいな感じで先生に言われることが多い。

 河村はノリで会長になったが、マジで適性のない人選だったのだろう。


 まあ、同級生の間ならまだしも、三年と一年生はあいつのこと知らねぇもんな……。校内放送の生徒会選挙の演説も紙見ながらできるし。


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