SS(ショートショート)彼女の気持ち
長谷部乃唖は夢を見ていた。彼女は自分が夢を見ていることはすぐにわかった。
夢の内容は単純なもの。乃唖と橘、櫛引の三人で遊園地にいるからだ。
「遊園地は家族連れと恋人の聖地という。なのになんで俺を無理やり連れてきてんだよ。俺みたいな陰湿でひねくれてて、インドア派の異物が混入したら周りも不快になるのにさ」
相変わらずひねくれている橘。乃唖はいつもと変わらない彼に安心して笑う。
「そんなこと言ってるのはあんただけ! 純粋に遊園地を楽しみなさいよ! バカ!!!」
プンプンに怒る櫛引。まるでカップルのようなやりとりと距離感に乃唖は面白くない。二人の間に割って入り、わざと櫛引に見せつけるように橘と距離を詰める。
「ねえねえ。せっかく遊園地に来たんだから~観覧車に乗ろうよ。あ、普通に乗るとつまらないからじゃんけんで決めよ。一人で乗るか、二人で乗るか……どする?」
「ふん! 面白いじゃない」
「いや、勝手に何を言ってんだよ。俺はベンチでゆっくりしたいんだが……」
「みんな賛成ね! それじゃあ~……じゃんけん――」
他の人が見ればただの日常の一部に過ぎないという感想を持つと思う。
しかし、乃唖からするとそうでない。彼女はこういう当たり前のようで友達らしい、遊びというのが心から待ち望んでいることなのである。
「……夢か」
ちょうどこれから面白くなる場面でいつも目が覚めてしまう。
乃唖は少し意地悪な寝起きに苦笑して起き上がるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます