SS(ショートショート)彼女の気持ち

 長谷部乃唖は夢を見ていた。彼女は自分が夢を見ていることはすぐにわかった。

 夢の内容は単純なもの。乃唖と橘、櫛引の三人で遊園地にいるからだ。


「遊園地は家族連れと恋人の聖地という。なのになんで俺を無理やり連れてきてんだよ。俺みたいな陰湿でひねくれてて、インドア派の異物が混入したら周りも不快になるのにさ」


 相変わらずひねくれている橘。乃唖はいつもと変わらない彼に安心して笑う。


「そんなこと言ってるのはあんただけ! 純粋に遊園地を楽しみなさいよ! バカ!!!」


 プンプンに怒る櫛引。まるでカップルのようなやりとりと距離感に乃唖は面白くない。二人の間に割って入り、わざと櫛引に見せつけるように橘と距離を詰める。


「ねえねえ。せっかく遊園地に来たんだから~観覧車に乗ろうよ。あ、普通に乗るとつまらないからじゃんけんで決めよ。一人で乗るか、二人で乗るか……どする?」


「ふん! 面白いじゃない」


「いや、勝手に何を言ってんだよ。俺はベンチでゆっくりしたいんだが……」


「みんな賛成ね! それじゃあ~……じゃんけん――」


 他の人が見ればただの日常の一部に過ぎないという感想を持つと思う。

 しかし、乃唖からするとそうでない。彼女はこういう当たり前のようで友達らしい、遊びというのが心から待ち望んでいることなのである。


「……夢か」


 ちょうどこれから面白くなる場面でいつも目が覚めてしまう。

 乃唖は少し意地悪な寝起きに苦笑して起き上がるのだった。

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