134.成功? それとも……

 高橋は俺と語り合った翌日からハロウィン本番に向けて奔走した。

 本来は高橋が計画した、俺たちのクラスだけのハロウィンパーティーがどこぞの誰かさんのせいで全校生徒や他校を巻き込んだイベント事になってしまった。


「君はとんでもないことするね」


 苦笑交じりにそう俺に抗議するように言った高橋。こうでもしねぇと渡部が納得してくれないと思ったからしたまでのこと。


 有り得ない数、全校生徒の半分や三分の一がハロウィンイベントに参加するとなれば、その数を退学させてしまったら学校としては困るはずだ。


 それに不祥事を起こしたわけでもないのに生徒が主催となって、一つのイベント事を先生が潰すなんて教育的にも自主性を育むという点において、こちら側が擁護されるべきだ。


 そんな大人のくだらねぇの一言で若者、高校生の行動を蔑ろにすることはただの大人のエゴでしかない。




 綾瀬たちはビックリしていた。いつの間にか規模が大きくなり、いきなり大忙しになったのだから。いつにも増して高橋たちは連絡事や備品の買い出し、生徒会や有志のメンバーたちの打ち合わせが続いたそうだ。


 バスケ一筋の加藤も惜しみなく協力しているらしく、主に他校の生徒たちのパイプ役をしているとか。流石加藤。その視野の広さとリーダーシップはバスケだけでなく、こういうところにもいかんなく発揮されている。


「――という感じだ。本番の明日間に合うかどうか微妙だが、まあ大丈夫だそうだ」


「ふ~ん」


 俺は近所の公園のベンチにいた。もちろん、隣には長谷部が座って紅茶缶を片手に俺の話を聞いていた。なんでこうなったのか。わかんねぇ。


 自然と体がこの公園を目指し、ベンチに座ってぼーっと空を眺めていると長谷部がやって来た。


「よかったじゃん。成功しそうで」


「一時はどうなるかと思ったけどな」


「いいの? 千隼は手伝わなくて」


「俺はいい。わざわざ休日の土曜日に学校に行ってあれこれしたくねぇんだ」


「一日くらいいいんじゃないの~?」


「嫌だ。俺は人が多い所が苦手だし、ハロウィンなんていい思い出がねぇんだよ。ハロウィンだからっつーて、昔コスプレして学校に行ったらみんなから総スカンをくらった。あの時の恥ずかしさと肩身の狭い気分は昨日のことのように思い出す……」


「自業自得じゃん。で、どんな格好で?」


「……」


 俺は声を大にして言うのを憚られたので小声で長谷部に伝えた。


「えっ!?! 嘘っ!?! それはちょっと……!!!」


 長谷部は瞬間移動したんじゃないかと錯覚するほどの目に見えないスピードでベンチの端に行ってしまう。そこまでドン引きされるとめっちゃ傷つくんでやめてもらっていいかな?


 あれ? おかしいな……目が濡れてきた。天気予報で今日は雨が降らないって言ったのにな……。


「千隼があの超有名怪獣のコスプレって……え? ガチじゃないのよ?」


「ガチだったらやべぇだろ。あれだよあれ。続服の怪獣で……フード付きだった」


「……」


 長谷部は固まってしまう。俺はおーいと長谷部の眼前で手を振るが反応がない。


「あの時の俺は純粋だったんだ。小学生。純粋無垢でハロウィンの日はコスプレして登校するのがいいと思ったんだ」


「……いい」


「あん?」


「めちゃ可愛いじゃん!!! え~!!! なんてキュートなの!?! いくら小学生でもわかるじゃん! でもでも! それでも心から信じて……あ~♡」


「……」


 彼女は一人で俺の過去を妄想して鼻血をまき散らしている。それは噴水のようだった。つーか、長谷部の性癖がやばそうで不安になる。子どもの時の俺の純度百パーセントの頃が可愛いだけなんだよな?


「ねえ! なんで今はこんなひねくれものの、女ったらしになったのかしら……私以外に不潔な関係を持ってるしぃ、もうまぢ無理……」


「おいおいおい!!! 誰が女ったらしだ! 勝手な印象操作すんじゃねーぞ!」


「えー? あっすーの家で(規制ピー)したのに?」


「してねーよ!!! 一ミリたりとも手を出してねーよ!!!」


「……ひねくれものは否定しないんだ」


「ああ。俺のアイデンティティだからな!」


「堂々と言うことかな? でも、今の千隼も好きだよ♡ 昔も今も、違う魅力があるって、いいよね~!」


「……」


 こいつの好みはわからん。ショタコン疑惑が初めて出てきたが、疑惑の段階で終わりそうでひとまずはオッケーだ。


「話を元に戻すけど、ハロウィンの日。せっかくだから音ノ内に行ってみない?」


「だから言ったろ。行かねぇって」


「だったら、私の付き添いで来てよ~。その日のためにコスプレ容姿しちゃったからさ~。てへ☆」


「……お前、元から行くつもりだったんじゃねぇのか?」


「ん~わかんにゃ~い」


「はぁ……どうで俺が行かねぇって言っても強引に連れて行くんだろ?」


「うん! 私のパパって元々空手やってたんだ~。全国でも有数の空手家だったらしくて~」


「あうん。行くわ」


 娘の言うことなら機械のように実行するほどの親バカの長谷部パパのことだから、冗談抜きで俺を半殺しにしても連れて行くことになるだろう。


「即答あんがと! じゃじゃ! 私が迎えに行くからよろしく~」


「ああ……せっかくの休日が……」

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