ハロウィン編

120.あっという間に時間だけが過ぎていく

 ハロウィン。ここ最近の日本ではコスプレして暴れるというのが一つの文化になっているらしい。一部の人の間ではだが。


 ま、大体の人はハロウィン関連のスイーツを買って美味しくいただくか、友達と一緒に遊ぶかパーティーをする。または他の日と変わらない日々を過ごしていることだろう。


 ルールやマナーを守って、コスプレして街中を歩く分には俺からすると楽しそうでいいなくらいの感覚。

 だが、最近はどこかの街や場所に人だかりができ、そこで痴漢行為や窃盗、暴行事件やその他諸々の犯罪も怒っているとニュースで聞く。


 ただ最近はそういった迷惑行為が多数発生していることもあってか、規制する自治体も増えているらしい。以前のような無法地帯はなくなっただろうが、あの悪いハロウィンのイメージは衆目の目に晒され、印象が悪くなったのは否めない。


 バカじゃねぇかと思う。

 そんな不特定多数の人間とワイワイするくらいだったら、どっかの会場を借りて知り合いだけでコスプレパーティーだの、そういうことをすればいいのにと思ってしまう。


 仕事や学校の帰り、買い物や食事で行きかうはずの道路で意味もなく集まり、騒いでごみを捨てることが文化になることは大いなる恥だ。

 つまり何が言いたいかというと、ハロウィン本来の楽しみから逸脱して、街や周辺住民に迷惑をかけ、ごみをまき散らすハロウィンが嫌いだ。


 そういう連中は嫌いだが、節度を守って楽しんでいる人は俺は楽しんでほしいと願うばかり。迷惑をかけずしっかりと楽しんでいる人らをディスるほど、俺はそこまで堕ちていない。


 海外だと子どもたちがお家を訪ねてトリックオアトリート、と言ってお菓子をねだる映画やドラマをよく見る。


 そうだよ、こういうのでいいんだよ。

 ま、日本ではアメリカみたいに近所の人にお菓子を貰うことはないが、そういう微笑ましい楽しみが今後も浸透して言ったらいいと思う。


「橘君はハロウィンってどうするのかな?」


 ふと高橋が訊いてきた。修学旅行が終わり、平常の高校生活が始まったが、もうそんな季節になったのかと時間経過の速さに驚かされる。


「なにも。ハロウィンには苦い思いでしかねぇからな」


「え?」


「中学生の時。俺たちの学年でハロウィンパーティーをしようってなったんだ。もちろん、学校の体育館を借りて大々的にやった。先生たちも協力して、それはそれは楽しいパーティーだったと聞く」


「? 橘君ももちろん参加――」


「……俺は招待されなかった。つーか、俺は張り切って鬼をビシバシ倒す例のアニメの主人公のコスプレをオーダーメイドして、みんなを驚かせようとしたんだが……結局、俺は自宅で一回着て、それっきりだ。つまり何が言いたいかと……ハロウィンはクソ。特に街中で騒ぐやつらは全員家に帰って大人しくハロウィンのケーキでも食ってろ!!!」


「あはは……」


 高橋は苦笑い。


「つーか。もうハロウィンか。ついこの間まで高校生になって、中学と全然違うなと慣れるのに必死で。それで長い夏休み。そんで文化祭に修学旅行。今年もあと少しか」


「そうだね。気がつけば一年が終わろうとしているんだよね。感慨深いね」


「ああ」


「本題に戻るけど、僕たちでハロウィンパーティーを開催しようと思っていたんだ。ちょうど休日にハロウィンがあるから橘君もどうかな?」


「悪い。俺はハロウィンの日はハロウィン関連の映画を観ることが一種のルーティンになっているんでな」


「なにそれ?」


「俺は訊いたんだ。俺、誘われていないんだけど……って。そしたら悪意のない顔で忘れていたって言われて。そうだ。俺という存在自体がハロウィンでいうところのゴースト。つまり平時からコスプレしているということだ。だから俺はパーティーに行かない」


「まあまあ。僕はちゃんと橘君のこと誘ったよ?」


「それでもだ。俺はパス。休日は自分一人の時間を過ごしてぇんだ。お前らで楽しんでこい。俺は受験に向けて今から準備を始める予定だ」


「まだ早いと思うけど、橘君が受験に向けて頑張るのだったら僕は邪魔しないよ」


「ああ。悪いな。ハロウィン、楽しめよ」


「うん」


 ハロウィンで浮かれるのもいいが、年が明けて三年生になれば受験という言葉が嫌でも視界に入ってくる。就職する人には関係のない話だが、大学進学も珍しくなくなった現代では受験は大きな難関になることだろう。


 俺はしっかりと一年時から勉強をコツコツと積み重ね、今年の夏も予備校体験をしてみっちりと高校範囲すべてを終わらせた。


 推薦やその他の方式で受験する気はなく、一般入試で挑む予定だ。

 これだったら内申は見られることなく、純粋な点数のみで合否を判定される。

 ある意味公平だ。


「橘君は参加しないの? なぜ?」


 どうやら俺の不参加を知った綾瀬たちご一行が俺の席までやって来た。


「受験に向けて勉強をしたいだけ」


「学校。それも私たちの教室でやろうと思っていたのだけど」


「悪いな綾瀬。俺は再来年の受験の方が大事だ。貴重な時間を無駄にしたくねぇんだ」


「そう……」


 綾瀬は受験を出されて強く言えないのか、これ以上は喰いつかないようだ。


「え~。受験ってまだまだ先だよね? 一日くらい、羽目を外してもいいと思うけどね~」


「櫛引。ちっちっち。そうやって羽目を外しまくって志望校に合格できず、苦渋の選択を取った卒業生の話を聞くと、そんなうかうかしてられなくなるぜ?」


「あー……あの先輩たちの話ね。あれはちょっと……うん」


「お前らで楽しんでこい。俺は勉強優先だからな」


「むー……」


 櫛引も綾瀬と同じく受験を盾にされると強めに出て来れないようだ。


「本当に……来ないんですか?」


 くっ……柊の本当に来ないんですか?

 と、明らかに元気なく落ち込んだ様子絵見られると、保護欲と後ろめたさでついそんなことねぇ、と参加をしてしまいそうになる。


「柊に言われるとダメだ。なぜだ……意思がぐらつく」


「「うわー……」」


 綾瀬と櫛引。そんな汚物を本心から毛嫌いして遠ざけようとするような目で俺を見るな!

 まったく……あの二人のおかげで冷静になれたのは幸いだ。


「わりぃ。勉強優先してぇから行けねぇわ」


「そうですか……残念です……うぅ……」


「ああ! 柊のことが嫌いになったわけじゃないからな! そこは違うから!」


「はい……」


「なーんでしょう。桃ちゃんにだけやけに優しいのね。橘君」


「ねー? 桃子を特別扱いしているのはなーぜなーぜ? うふふ……私のことは下の名前で呼んでくれないし、冷たくなったし……嫌われちゃったのかな……あはは、そんなこと……」


 なんだろうか。あの理不尽な茶番裁判以降、俺に対する風当たりがやけに強くなった気がする。あと櫛引。暗黒面に落ちんじゃねぇ。


 はぁ……。

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