118.修学旅行が終わった。俺も終わった

「いえーい♪ 私の勝ち~!」


 櫛引はこの日一番のガッツポーズをした。

 モニターを見るとリアル調で有名なレースゲームで櫛引が勝利。

 俺はというと散々櫛引に妨害された挙句、最後は櫛引によってクラッシュされてしまった。


 つーか。櫛引の奴ってこんなゲームもするんだな。

 まあ、某レースゲームも面白いけど、こういうリアル調の方も悪くない。


「つーかレースをしろ、レースを! お前のやってることは悪役がやることじゃねーか!」


「ふっふっふ! 勝負だというのに千隼はそんな甘いこと言って~。そんなんだから雑魚なんだよ~うへへ~!」


「……」


 なんだろうな。腹立つこいつ~って言うべきなんだろうけど、こうもテンプレ的なクソガキムーブをされると賞賛の言葉を送りたくなる。


「これで初戦は私がとったんだけど~! どうする? もう一戦する?」


「ああ。もちろん」


「あ~。もしかして私にボコボコにやられることが嬉しいのかな~。きっも~ドМじゃん」


「好きに言ってろ」


 なるほど。この一戦でわかったことがある。

 操作方法。挙動、雰囲気。車選びの重要性もわかった。

 それに櫛引はゲーム全般が下手くそだ。天賦の才といってもいい。


 よし。本気を出しますか。

 今日と明日は休日。月曜日から学校が始まるが、そんなことはどうでもいい。

 今は櫛引をボコボコにして格の違いを見せてやるとするか。


 俺はポキポキと手の骨を鳴らし、首をグルングルンと回してコントローラーを握る。




「俺の完勝だな」


 二戦目は他の追随を許さぬほどの圧勝だった。

 ゲームに慣れた俺からするとへたっぴな操作の櫛引は敵でない。

 あまりの惨敗に櫛引は言葉もないほど悔しがっていた。


「まだまだ……だな。どうする? もう一戦やるか?」


「やる! 次は絶対にボコボコにしてやるんだからぁ!!!」


 そして三戦目。隣の櫛引のプライドをへし折ってやろうと、徹底的に懲らしめることにした。

 櫛引の妨害に徹し、一度も俺の前に出すことなく嫌味たっぷりの勝利で終わった。

 レースが終わった瞬間、櫛引は持っていたコントロールはベッドに投げ捨て、空になったペットボトルを握って俺の頭を叩いた。


「なによ! 私のことが嫌いなの!?!」


「なにって。お前が一戦目にやったことを真似しただけだが?」


「おちょくることばっかりして……次こそ絶対に勝ってバカにしてやるんだからぁ!!!!」


 四戦目、五戦目も俺の勝利。

 某レースゲームのようにアイテムで一発逆転が起きない分、純粋なテクニックであったり戦略が求められる。


 櫛引は徐々に俺の動きを真似たり、見事の観察眼で肉薄してきたが結果は変わらず。負けに負けた櫛引は不貞腐れて立ち上がり部屋を出て行ってしまった。


「どこに行くんだ?」


「別に! 私の勝手でしょ?」


「待て。他人の家でお留守番は嫌だから付いていく」


「……好きにしたら」


 ムスッとした様子だが満更ではないようだ。

 俺と櫛引は靴を履いて外に出た。見事な快晴。出歩くにはいい気候だった。


「な、なんだよ」


 俺は雲一つない空を見上げながら太陽光を全身に浴びて気持ちよくなっている最中、櫛引が俺の左腕に抱き付いてきた。

 その柔らかな双丘が腕に当たり、不覚にも心臓が口から飛び出そうになってしまう。


「……」


「放してくれるか? これだとちょっと……」


「別にいいでしょ? 私がしたいからしてるの!」


「はぁ……」


 なんだろうか。昨夜から櫛引は感情を隠すつもりがないらしい。

 積極的になったと言えばそうかもしれないが、逆にこうでもして周りに見せつける意図があるのかもしれない。もし櫛引の真意が後者であれば、中々に腹黒い人物であろうか。


「ん」


「なんだよ」


「ん!」


 どうやら早く歩こうと言いたいようだ。

 そんな目が泳いで口もあわあわさせ、顔はいつ爆発してもおかしくないほどオーバーヒートさせた状態で歩いて大丈夫なのだろうか。


 そんな無理して腕に抱き付かなくてもいいのにな……。

 というか放れてほしい。こっちの自制心がいつまで持つかわからねぇからな。


「どこに行くつもりだ?」


「そっちが考えてよ!」


「俺? じゃあ……本屋行っていいか?」


「えー……ちょっと空気読んでくれない? せっかくので、で、で……デート。なんだからもっとこう……わかるでしょ?」


「デートねぇ」


 デートで戦争でもするつもりか?

 いや、俺が櫛引をデレさせたらきっと暴走が止まらなくなって人類は死滅してしまうだろう。ああ。恐ろしい。というのは冗談で。


 デートっつっても櫛引が喜びそうなことってなんだ。

 普通に考えて定番の映画館が鉄板か。高校生のデートといったら映画館は外れないだろう。


「映画館行くか」


「そう、それ! も~わかってるじゃないの~このこの~!」


「うっぜー……ほら、さっさと行くぞ」


「うん♪」


 という感じで俺たちはまるでバカップルのように体を密着させながら映画館に向かうことにした。俺と櫛引は今流行のアクション映画を観たが、これがいけなかった。


 なぜなら俺と櫛引のデートを目撃した人物がいたらしく、それが後々ちょっとした騒動に発展してしまうとは。この時誰も予想していなかったのだった。


 嘘だろおい……。

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