修学旅行?編

107.文化祭の次は

 秋が深まり冬が見えてくるはずの十月……のはずがまだまだ夏が出張ってきている。

 朝晩はひんやりしてきたが、日が昇ってくるとブレザーを着ていても暑いと感じる日がある。


 あの……秋はどこに行ってしまったんですか?

 今の日本って小春・夏・夏・夏・小秋・冬……になってないか?


 このまま冬という概念もなくなってしまったら、いよいよ住むところを考えないといけなくなるが、それは本筋に全く関係ないのでここで終わり。


 文化祭が終わり、すぐに中間テスト。徐々に気温が下がり、冬に向けて着実に時間が進む……わけない。

 俺たち高校生のビックイベントの一つが待っている。それは……。


 修学旅行。


 学校によっては海外に行くということもあるらしいが、円相場次第では天国と地獄にもなりえるので、できれば国内の方がいいかもしれない。


 自分の住んでいる国を全く知らず、海外に行くのもなんだか勿体ないと思ってしまう。そう思うのは俺だけか?


 文化祭の余韻が収まらない中、着々と修学旅行が近づいていった。

 あー。でもその前に中間テストがあるんだった。俺は全然問題ないが、果たして……。




「橘。もうすぐ修学旅行だね」


 お昼休みの時間。俺たちはいつものように集まってお昼を食べていると、高橋がそう聞いてきた。


「ああ、そうだな」


「それだけ? もっとこう……楽しいとかないの?」


「そりゃあ楽しみだけどな。小学生じゃねーんだから、そこまではしゃぐことでもなんでもないけどな」


「相変わらずだね。君は」


 高橋は苦笑しながらおかずのブロッコリーを口に運んだ。

 俺と高橋はいつもと変わらずだが、女性陣は修学旅行の話で大いに盛り上がっているようだ。


「京都と奈良、ね。奈良は一日目しか行かないから、自由時間は京都内を回るしかない。そこを忘れずにね」


 綾瀬は事細かく修学旅行のスケジュースを把握しているようだ。

 顔つきはいつもの表情の変化が乏しいが、彼女の口ぶりからして楽しみにしているのだろう。


「そうだね~。できれば歩き回らない方がいいかな~。人もいっぱいいるから疲れちゃうし」


 櫛引はいつものぶりっ子キャラを維持しつつ、歩きたくないと主張していた。

 このちょっとめんどくさい性格をしている櫛引も綾瀬と柊との移動が楽しいらしく、常に俺に話している。


「わ、私は……どこでも大丈夫です」


 柊はあまり乗り気でないらしい。ま、修学旅行に行ってなんだかんだ楽しんじゃう系のタイプだろう。綾瀬と櫛引が付いているなら安心だ。

 とはいえ、俺と高橋。綾瀬と櫛引と柊の五人の班で行動するため心配無用だ。


 自由時間のスケジュールは高橋と綾瀬が立てているので問題なし。

 あの二人なら無茶なスケジュースを立てる心配もなく、俺たちの意見も聞いて反映させてくれるだろう。


「俺は一人で行動してぇんだけどな」


「ダメダメ。橘が一人行動したら帰ってこないかもしれないだろ?」


「高橋は俺を何だと思っているんだ?」


「あなたは集団行動が苦手ものね」


「おい綾瀬。俺はこう見えて協調性抜群だぜ? 静かに気配を消して後を付いていくのは大の得意だ!」


「え~ストーカーみたいでキショ~イ」


「わ、私も得意です……」


「柊。いつも俺の味方でいてくれたありがとうな」


 柊の必死のフォローに助けられている。俺は出てこない涙を拭きつつ、照れる柊にサムズアップする。


「うわー……桃ちゃん。この男の味方しなくていいんだよ~?」


「明日葉ちゃん……私は……あの……」


「櫛引。柊が困っているからやめておけ」


「ほら! そうやって味方する!」


 櫛引はへそを曲げてしまう。


「まあまあ。橘も櫛引さんもそこまでにしておきなって。五人グループで動くんだから喧嘩はしないでよ」


 高橋はいつものように仲裁に入る。この男が間に入れば言い争いが止まってしまう、不思議なものを持っているらしい。


「なあ、高橋。自由時間ってどうする予定なんだ?」


「そうだね。みんなの意見を訊きながら細部を詰めている段階かな。残念だけど、みんなの希望通りに行かないことは忘れないで」


「知ってるっつーの。ま、話が進んでいるんだったらいいや」


「そう? だけど、修学旅行まで残り僅かだから体調に気をつけてね。特にここ最近になって急激に気温も下がってきているから。あとは例年に比べてインフルエンザも流行っているってニュースになっているから、特に橘は尚更注意しないとね」


「なんで俺を見ながら言った?」


「だって」


 高橋は苦笑いしてしまった。他の女性陣も高橋の意見に同調のようだ。

 うわー四面楚歌じゃん。項羽ってこんな気持ちだったのかな?


「君は言うほど頑丈な体をしていない。風邪になりやすい体質というか。去年も今の時期に風邪を引いていたからね。それに夜更かしだってよくしているって言っているから心配なんだ」


「夜更かしは……配信を最後まで見ちゃうからさ」


 櫛引がビクッと体を震わせてこちらを睨んできた。

 安心しろ。どんな配信かは綾瀬たちが聞いている前で言ってないから大丈夫なはず。


「配信?」


 運が悪いことに綾瀬が喰いついてきてしまった。


「あ、ああ。宇宙の誕生について話している人がいてな。それは動画なんだけどな」


「宇宙? あなたが宇宙に興味を?」


「そうだ。宇宙の誕生の謎。ダークマターの正体。ブラックホールとは一体何なのか。案外面白いもんだぜ?」


「そういうものなのね」


 セーフ……なのか?

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