SS(ショートショート)彼女の思惑

 あの人はここにいる。

 夏祭りに来るかどうか、私は彼が行かないと踏んでいたけど嫌な予感がした。


 私の勘はよく当たる。例の夏祭りに彼はいた。

 目つきが悪く、人を寄せ付けないオーラを放っていた。

 正直なことを申し上げると実物は大した人でも魅力を感じない。


 学年によくいる、目立たない人の一人。

 話してみたけど浩人さんが言うほど面白いと思わなかった。


「あの人の周りに彷徨く害虫を排除していかないと……」


 彼がずーっとあの凡夫と仲良くするようになってから変わってしまった。

 以前の彼は積極的だった。誰よりも輝いて誰よりも正義感溢れている人だった。


 私はそんな彼に惹かれて彼と同じ高校に進学した。彼から私を見つけてくれるのをひたすらに待った。


 だけど、私に会いに来ることはなかった。

 彼はあの害虫と仲良くしているらしい。

 彼らしくない。なぜ、いつも彼の周りにあいつがいる?


 ああ。私が彼を正常に戻していかないと。

 そのために私は行動を始めるのだった。


 私の嫌な勘は当たった。

 夏祭りにあの男がやって来た。

 私からすれば視界の隅にいるような、平凡で面白みがなさそうな男。


 なぜこんな男と仲良くして、あんなに私に自慢してくるのだろうか。

 私が彼に連絡を取るたびにあの男とのツーショットやクラスメイトらしい人たちの写真を送られる。


 以前の彼はこんなふざけたことをするような人ではなかった。

 私が変えなければ。彼を元の彼にしなければいけない。


 私は笑顔の仮面を被り、あの男に声をかけた。


「はじめまして。橘先輩」

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