文化祭編

84.文化祭は目前に!

 文化祭。これを聞いてまず思い浮かべることはなんだろうか。

 よくありがちな展開としては主人公らが文化祭実行委員となるか、もしくは協力したりする流れとなり、よくわからない会議が続いてまとまらなかったり、本番に向けて全然まとまらなかったり等々。

 また、人間関係で揉めたり……みたいなことはない。


 創作作品内ではそうかもしれないが、実際の文化祭というのは淡々と進むだけだ。

 それぞれのクラスで出し物は何がいいのか話し合い、特に人気のある食べ物を扱う出し物は抽選となる。


 抽選に外れた場合、教室で出来る出し物にしないといけない。そうなると化け屋敷や輪投げ、ボーリングや演劇といったものが主流になってくるだろう。


 文化部は文化祭に向けて色々と作ったり展示したり。まあ、そんなものだ。

 バンドを組んで演奏するのはごく一部。俺や高橋は楽器の心得はない。

 ま、大学になるともっと規模が大きくなって自由度が広がるだろうが、俺たちはまだ高校生という未成年でありガキだ。


「それではお化け屋敷について詳細を詰めていきます。何か案がある人がいましたら挙手してください」


 長い長い夏休みが終わって、学校が再開してすぐ目前に迫った学校行事。

 文化祭。実は夏休み前から色々と詳細を詰めていたが、九月になると本番はすぐそこということでこういう話し合いが増える。


 放課後。部活動がある人は教室を後にし、それ以外の生徒は教室に残って来月に迫った文化祭についての話し合いが始まった。

 教卓の前には文化祭実行委員の佐藤と一ノ瀬さんがいる。

 その二人が挙手を求めるが、誰一人手を挙げようとしない。


「え~っと。なんでもいいんです。些細なことでもいいので教えてください」


 佐藤がそう提案するが、やはり皆の答えは沈黙。

 ああ。日本人の悪いところが出まくっている。

 誰でもいいから手を挙げて適当なことを言って話し合いを進めて終わらせてくれ。


 こういう人任せ、他人任せ思考がよくないんだろうが、まあいい。


 こんなくだらないことに時間を取られたくない。

 夏休みが終わって自分の時間が少なくなった。はあ、夏休みちゃん行かないで……。


「はい」


 そんな重苦しい空気を祓ってしまう救世主が現れた。

 高橋浩人。この世界の主人公であり、このクラスの中心人物。


「高橋君。どうぞ」


「お化け屋敷にプラス調味料を加えてみるのはどうかな?」


「調味料?」


「うん。まずは僕たちの教室がお化け屋敷の舞台になると思うけど、それだと他のクラスと差別化ができない。だったら入ってすぐにビデオを見せる。なんてどうかな?」


 高橋の案に佐藤は顎に手を添えて頷いた。


「それは面白そうだね。ビデオって具体的には?」


「この教室で起きた悲劇。もしくはお化け屋敷のコンセプトに沿った呪いのビデオはどう?」


「えーすごく面白そう!」


 文化祭実行委員の一ノ瀬は誰よりも乗り気だった。


「高橋君の案に異論がある人いますか?」


 佐藤は教室にいるクラスメイトに聞くが、誰一人文句も意見がないのか静まり返っている。それを同意とみた佐藤は黒板にビデオ作成と書き込んだ。


「よし。では、高橋君の案を基にお化け屋敷を作っていきます。後日、役割分担をこちらの方で決めますので、都合が悪い人は僕と一ノ瀬さんに言ってください。本日は以上」


 という感じでこれから文化祭に向けて動き始めるだろう。

 ああ、なんでお化け屋敷になったんだよ。

 本来だったら外の売店を希望していた我がクラスだったが、当然ながら外の売店の人気はすさまじい。


 毎年のように抽選となり、残念ながら外れてしまい教室での出し物になってしまった。で、どうせやるんだったらお化け屋敷がいい。という意見でまとまった。

 という経緯がある。ああ、なんでよりによってお化け屋敷なんだよ。

 一番大変で手間がかかるものをどうして……。


「橘。ちょっとだけ教室に残れるかな?」


 高橋は俺の肩をがっしりと掴んできた。

 放さないぞ、もちろん付き合ってくれるよな、という圧を感じる。


「なんだよ」


「僕がビデオの件を提案した。そうしたからには僕が責任を持って作ろうと思っている。橘も手伝ってくれると助かるんだけど、どうかな?」


「……他の連中を誘えばいいじゃねぇか」


「僕は君とがいいんだ」


「新手の告白か?」


「そういうことになるのかな。お願い」


 高橋は両手を合わせてお願いしてきた。

 だが、今回ばかりはお断りさせてもらう。お前はぜひヒロインたちとビデオを作って仲を深めてこい。俺は不要だ。


「嫌だ。綾瀬たちと作ってくればいいだろ」


「どうしても?」


「ああ。無理無理。用はそれだけだろ? 俺は帰る」


「橘!」


「俺は他のクラスメイトと一緒にダンボール集めたり工作する方が性に合ってる。お前は自分が言い始めたことなんだから、一人で何とか完遂しろ。俺はお前の乳母でも上司でもなんでもねぇんだからさ」


「君がいないと――」


「俺がいなくても問題ない。文化祭実行委員の佐藤や一ノ瀬さんがいる。そいつらと協力すればビデオなんてすぐに出来上がるだろ。今回ばっかりは面倒事は嫌だ。関わりたくもない」


「……」


 俺は言い過ぎたかなと若干後悔するが、今さら発言撤回するほど覚悟がない訳じゃない。

 いい加減、お前は主人公様なんだから主人公らしくヒロインたちやクラスメイトを引っ張れ。


 いつまでも俺が傍にいると、この男は全く成長すらしない。

 ここは突き放してあいつの成長を促す時だ。


 まあ、大丈夫だろう。

 なんだかんが言って、腐っても主人公。

 主人公補正やらアシストがついてくるだろう。


 俺は一般市民を目指すんだ。

 放課後は甘いスーツを食べて……やっべ、俺推理力ないから無理だ。

 それに俺と同じく一般市民になろうと協力する人物すらいねぇ……これだからぼっちは最高だぜ!


 やっべ、何かのエンディングソングが流れてきそうだからやめておこう。


 苺タルトもいいが、俺はショートケーキが一番好きだ。

 やっぱり王道が一番だ。

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