SS(ショートショート)櫛引と長谷部は仲がいい?
「なんであんたが橘君の家にいるわけ? しかも……なんで下着姿?」
櫛引の顔は引きつっていた。平静を装っているが、顔中のあちこちに青筋が立っていた。
「想像通り……きゃっ♡」
「……」
櫛引さん。こっちを睨むんじゃない。
「そいつの言葉を鵜呑みにするな」
「そうそう。あっすーは妄想し過ぎだってー。たかが一緒に寝たくらいで怒るかな〜?」
「おまっ!?」
「一緒に……寝た……?」
プツン。
櫛引の何かが音を立てて切れた。
「正座」
「「え?」」
「正座をしろと、言ったんだけど」
それはまさしく伝承や物語によく出てくる、鬼そのものだった。
禍々しくも強大であり畏怖の存在でもあった。そんな鬼となってしまった櫛引に俺と長谷部は素直に従うほかなかった。
「一緒に寝た……どういうことか説明してくれるかな? もちろん、真実を伝えず悪ふざけをしたり、私をおちょくるような言動をした場合、わかっているよね?」
「「はい」」
俺と長谷部はそれからやく一時間ほど正座で説教を喰らった。
こちら側からの弁明や言い訳、説明すらの許可を得ることができず一方的に。
長谷部は人権無視だー、と騒いだが鬼となった櫛引の前では意味をなさず。
そして、なぜか俺は自宅を追い出されてしまった。
二人で話したい、とのことだったが別のところでやってくれませんかね?
ということで、俺は痺れる脚を無理やり動かしながらクソ暑い外に放り出され、それから二人がどんな話をしたのか、俺にはわからない。
「なんで乃啞ちーが橘君の家にいるわけ?」
櫛引は橘の家に上がり、氷の入ったお茶を飲みながら長谷部に聞いた。
長谷部はシャツを着ただけで下半身は下着のみという格好でソファであぐらを組みながら痺れた足を労っていた。
「なんでって。泊まらせてと私が言ったから」
「なんで?」
「えー言わないとダメなの?」
「もちろん」
「はあー。どうなっても知らないからねー」
長谷部は半ば諦め痺れがおさまった脚を伸ばしてソファに寄りかかり天井を見つめた。
「母親が浮気してたらしくってさ、それで両親二人で大揉め状態。元から母親はクソみたいな人だったけど、そんな争いごとが朝から晩まで繰り広げられて光景を想像してよ」
「本当に……?」
「嘘ついて得することある? で、あの家に居たくないからちょっとした家出を模索したの。暇つぶしも兼ねて同じ中学だった男子数人にお泊まりのお願いしたら、みーんな飛びついてきてさ。私じゃなくて別のところしか見てないし、みんな右に倣って俺が話を聞くってアホらしいなーって思って失望していたけど、千隼だけ他の人とは違った」
長谷部は少しだけ口角が上がった。
「私のために怒ってくれて、私のために彼は何一つ手を出さなかった。それに私に深入りもしなかった。そんなことしてくれるのは千隼しかいなかったもの」
「……」
「私は千隼が好き。だから、奪われても恨みっこなしだからね!⭐︎」
長谷部は子供のように笑い、櫛引に向けて先制のウインクをした。
「はぁっ!? ちょっと言ってることわかんないんだけど!?」
「私には隠し通せないからね〜? アポなしで千隼の家にまで来て、お化粧だってバッチリ決め込んで、その服だって買ったばかりのものでしょ? 一万円以上するブランドものだし、デートの誘いなんでしょ〜?」
「ち、違うしっ!!! これは、あれ、あれよ! たまたま友達の所に遊びに行ったついでに寄っただけで……」
「ふ〜ん。あっすーがそう言うんだったいいよ? だって、私は千早と一緒のベッドで……ぽっ♡」
「なによ!!! そのムカつくアピールなんなの!? あんた、最初に会った時はいい子だと思っていたのに、だんだんと本性を表しやがって……」
「あら。あなたこそ、千隼に対する想いを隠しながら彼を無理やり家に呼んで、ナニを……しているのかな〜? しっしっしっし」
「は、配信しているだけだし!!! 別にあんたと違ってやましいこと何一つしてませんよーだ!!! べーーーーーーー!!!」
「え〜? 配信スペースが狭くていつも密着しながら配信してるのキモいんだけど〜って嬉しそうな顔しながら私に遠回しに自慢していたのに?」
「はぁっ!?! 違うもん! あ、あれは別に……」
「お前ら……いつまで喧嘩してんだよ。しかも他人の家で」
「橘君は黙ってなさい!!!」
「千隼は本当に空気の読めない子。でも、そこがいいのよね♡」
「は、はぁ……」
こいつらって実は仲がいいんじゃねぇかって。
何を喧嘩していたのか知らねえけど。
その後、二人は文字通りあーだこーだ口喧嘩をしながら、二人仲良く並んで歩きながら俺の家を後にするのだった。
後で聞いた話だが、長谷部からファミレスに行って櫛引のお家に数日間、お世話になったとか。めっちゃ仲良いじゃん。もはや親友じゃん。
余程趣味が合うのか、それとも馬が合うのか。ま、いいことなんじゃねぇかと思う。
と、ぼっちの俺が言うと虚しくなるだけなのだが……。
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