79.ホラー映画は深夜に観よう!

 ホラー映画。夏といえばホラーと言われているがなぜだろうか。ゾクッとするから、寒気がするから。確かに。


 ホラー映画のジャンルにもよると思うが、化け物や人間が怖い~的なものでなければ怖いのかもしれない。


 だって、物理的に倒すことが出来てしまったら怖くない。

 まあ、いつの時期に見てもホラー映画は面白いからみんなも観てね!!!


 ゾクッとするから。寒気がするから。

 それだったら鍾乳洞に行けばいい。あそこは年中気温が安定しているから、夏は涼しく夏は暖かい。


 そんな戯言は置いておいて本題に入ろう。


 ということで長谷部の提案でホラー映画を観ることになった。

 どれを見るかは彼女任せ。俺は映画も見ないことはないが、好きな人に比べて詳しくない。


 長谷部のノリノリの様子からしてホラー映画が好きなのだろうか。

 どうせ興行的に成功した大作ホラーでも選択することだろう。

 その方が安定して面白いしハズレも少ない。


 大作がゆえに表現がマイルドであったり、ストーリーが物足りなかったりするが大丈夫なのだろうか。


「これなんてどうかな?」


 彼女が契約しているサブスクを俺のPCでログイン。

 それであれこれ検索したり、スマホでおすすめを探して見つけたようだ。


「ん? どれどれ――って、俺の秘蔵ファイルを覗いてんじゃねーよ!? ちょ、おまっ!?!」


 案の定、俺のPCの秘蔵ファイルを探し出して見ていた長谷部。

 ニヤニヤと俺とモニターを見比べて笑っていた。


「いや~。千隼ってこういうのが好きだったんだ~。私も獣耳にメイドの格好した方がいい? おっぱいは大きいから好みにドストライクかな?」


「そんな趣味ねーよ! 一部だけを切り取るな!!! 人の性癖をいじらないで映画を探せ、映画を!」


「しっしっしっしっし! はーい♡」


 いつになったら嵐は止むんだろうか。後で気づいたことだが、長谷部は俺の秘蔵ファイルをUSBにコピーして持ち帰ることになる。なにやってんだよあいつ……。


 長谷部はこれはどうだろう、と俺を呼んで作品を見せてきた。

 なるほど。まったく聞いたことも見たこともない作品。


「すっごく面白そうじゃない? わかんないけど」


「わかんねーのかよ! まあ、いいんじゃねぇの」


 ということで俺たちはモニターの前で陣取って見ることに。

 長谷部は俺がいつも使っている椅子に。俺は中学生の時ある授業で作った自作の椅子に座った。これ結構頑丈でクッションを置けば何ら問題なく着席できる。

 背もたれがないのが唯一の欠点だが。


 長谷部がおすすめした映画はどんなものなのか。楽しみ半分不安半分といったところ。


「……」


 映画本編が始まった。舞台は現代アメリカの田舎。映像を見るに何十年以上前の作品だろう。登場人物たちが持っている携帯がスマホではなかった。

 ごくごく平和な田舎町である事件が起きた。突如として太陽が真っ暗になり、日中でも暗黒の世界に包まれた。


 当然ながら主人公のマイケルはビックリ。一人息子は学校に行っており不安を抱えながらマイケルは迎えに行く。しかし、道中で謎の化け物に襲われてしまい、必死になって近くの警察署へ逃げ込んだ。


 警察署では警察官と多くの市民が集まってパニック状態。外に化け物がいる。

 息子が――妻が――


 という感じで映画が始まった。

 まあ、いわゆるモンスターパニック系の映画なのかな、と思った。


「海外ってCGのクオリティすごいよね。十五年前の映画なのに見劣りしないし。流石に大作の映画に比べたらチープだけど」


「まあ。日本と違ってアメリカは映画にかける予算が段違いだからな」


「ねえねえ。せっかくのホラー映画なんだからもっと近づいて見ようよ。私、怖い……」


「全然怖そうに見えないんだが……」


「え~。こんないたいけな女の子を一人にするの? うえーん!」


「……」


 嘘泣き&演技乙。と言いたいところだが、俺は映画の導入が気になったということもあって、映画のために彼女の言うとおりにした。

 肩がくっつくくらい、俺は椅子を持っていき着席。すると、長谷部も椅子を移動して密着してきた。やけに上機嫌なのはきっと俺の気のせいだろう。


 主人公たちはあの暗闇に化け物がいるということでバリケードを作って警察署に立てこもり始めた。

 しかし、主人公は息子と妻の行方が心配。警察署から出て二人を探しに行こうか迷っていると、化け物の存在を信じない一部の人らが外に出て行く。


 しばらくして一人の男が警察署に引き返し、お腹の中から大量の未知の生物が飛び出して警察署は大パニック。

 化け物は次々と人間を襲っていき、体内を食い散らしていく。

 主人公らは警察署にある防弾シールドを使って化け物を包囲。最後は警察官によって射殺されて事態は沈静化。


 しかし、複数名の死者と重軽傷者を出してしまい、警察署内に重い空気が流れていく。


「……」


 俺は腕を組みながら映画に見入ってしまった。初っ端からクライマックス。かと思ったら波乱の展開続き。物語の中盤で絶望感が半端なく、終盤はどうなってしまうのか気が気でない。


「ウェ~イ! ビビってる?」


 長谷部が案の定ちょっかいをかけてきた。それも酔った大学生のようなダル絡み。うぜぇ……指で突くな。


「おい。映画を見ろ。映画を」


「もちろん見てるよ? でも、真剣な橘ってなんかウケるな~って思って」


「どこが面白いんだよ……」


「しっしっし。このこの~」


「やめーい。いいところなんだからストップ。後でおやつあげるから」


「ペット扱い酷くな~い? この時間に食べると太っちゃうもん」


「はいはい」


 映画は意外な展開を迎える。最初は市民の頼りになる警察官だったが、次第に銃という暴力を用いて身勝手な行動が増えていく。

 化け物の存在。黒くなった太陽。死体があちこちに散乱。異常な事態が立て続けに起こったことが引き金となり、精神に異常をきたしてしまい、暴走していく警察官たち。


 ホラー映画あるある。化け物よりも人間が怖い。そんな感じになってきた。とはいえ、外の化け物たちの脅威も消えておらず、変な路線変更なくて一安心。

 主人公は自分と意見の合う数人の仲間たちと一緒に警察官に反抗。


 多くの死者を出す銃撃戦となり、パトカーを強奪して脱出。

 真っ暗闇の中、パトカーを進ませていくと外は地獄が広がっていた。


 道路は人間と思わしき血で染まり、あちこちにバラバラの死体が転がっている。

 まだ生き残っている人間も化け物に四肢を切断され、おもちゃのように弄ばされていく。


 あまりにもグロテスクで人によっては吐瀉してもおかしくないシーンが続く。

 最後、人気も化け物もいない森の中に入り、現実世界に絶望した主人公らは自殺。

 その後、警察署に残った警察官たちは化け物の襲撃に合い、この世の地獄のような一方的な虐殺劇が繰り広げられ、断末魔が反響して物語が終わる。


 最高のバッドエンド。ほほう、これは面白いな。


「……」


 なんだろうか。この映画をお勧めしてくれたことはありがたいが、果たして夜中に二人で見るようなものだっただろうか。


「へ~。これ結構有名な作品だったから見てみてけど、ラストが衝撃的ってそういうことなんだ~。へー原作とは違う終わりらしいね」


「そうなのか?」


「そだよー。あれ? てっきり読書家の千隼のことだから知ってるかなーって思ったけど」


 というか長谷部のやつ、いつのまにか俺を下の名前で呼んでいる。まあいい。


「あのな。俺が読んでいるのは主にラノベと日本の文学が中心だ。海外のはカタカナが多くて苦手。ま、えり好みしないで色々読んでいるが、この映画の原作は知らん」


「ほお。では少年よ! 原作も読んで私に感想を教えてくれたまえ!」


「なんでそこを他人任せ何だよ。長谷部が読めばいいだろ?」


「むーっ! なんで苗字なの! ちゃんと下の名前で呼んで!」


「はあ?」


 長谷部はプリプリに怒ってしまった。なぜ、呼び名でそこまで怒るのか理解できない。


「長谷部は嫌。下の名前がいい」


「はぁ……乃唖。これでいいだろ」


「えー……もっと、バカップルみたいに呼んでくれないとやーやー」


「死んでもやらん!」


 やっぱりこいつと一緒にいると疲れるわ……。

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