59.コラボスタート
コラボ配信はとんでもない展開を迎えてしまった。
俺としては女の子同士、てぇてぇしながら楽しくゲームをするもんだと思ったが、まさか来ヶ谷が俺を求めてアズチーに勝負を仕掛けてきた。
初コラボで男を取り合うって、普通に考えたらファン発狂ものだろこれ。
絶対に怒ってる。いや、絶対炎上してるって。
あーSNS見たくねぇ……。
アズチーの兄、万死に値するだの、あれやこれやの批判や暴言が飛び交っているに違いない。
俺は怖くて二人の配信のコメント欄を直視できなかった。
滅茶苦茶だよ、もう……。
『いいなーお兄さん』
『おい。お兄さん俺に代わってくれや』
『万死に値する』
『さす』
好奇心に負けてコメントをチラ見してしまったが、怒りの矛先は案の定俺に向けれていた。
いくら漢字じゃなくて平仮名で言ったとしても物騒なこと言っちゃダメだからね!
冗談でも今の時代、大変なことになるからみんなもコメントするときは気をつけてね!
「負けないんだからね~!!!」
アズチーこと、櫛引はやる気満々。
というか、いつも以上に張り切り、モチベーションも高い状態だ。
ここまでアズチーが負けん気を前面に押し出しているところは初めて見る。
腕をグルグル回したり首をコキコキ左右に傾けて準備に余念がない。
あの、ゲームの対戦をするんですよね?
格闘技じゃないよ?
『しっしっし。アズサちゃんに勝ってお兄さんをいただきま~す!』
おい、来ヶ谷マリリンこと長谷部乃唖。
俺を召し上がっても美味しくねぇぞ。橘の因子が体内に取り込まれて、遺伝子を改変してひねくれものになるぞ。
「ちっ……」
あのー櫛引さん?
アズチーはそんな敵愾心丸出しの舌打ちはしませんからね?
やめてくれ。俺の中のアズチー像が瓦解して崩壊しちゃうから……。
二人が話し合って決めたゲーム、先程のメインクラフトワークではなく、『メリモ・エンジョイ・パーティー』という俗に言うパーティーゲームだ。
メリモという元郵便配達屋の顎髭おじさんたちが個性豊かなキャラクターたちとすごろくでフラッグを集め、最終的に一番フラッグを持っていたものが勝者となるシンプルなゲームだ。
他にもとまるマス目によってお金が増減したり、アイテムを獲得できたり、イベントが発生するなどパーティーゲームの名の通り、リアルやオンライン上の友達と遊ぶゲームとなっている。
すごろくをしてミニゲームをして遊ぶゲームと言えばわかりやすいだろう。
最大で四人でプレイできるということもあり、なぜか俺も参加させられてしまう。
「あのさ。これって俺がいる意味ってあるのか?」
二人の対決だよね?
俺が勝ったらどうするんだ?
そんな疑問が思い浮かんでくるが、来ヶ谷マリリンこと長谷部はいいのいいの、と言って参加を強制してきた。
『いいじゃんいいじゃ~ん。これでお兄さんと一緒にプレイできるんだから、マリリン嬉しいな~てへっ♡』
うっわ……。
長谷部の本性を知っているということもあり、わざとキャラを作って言っているのが丸わかり。
頬がぴくぴくと痙攣して引きつってしまうが、アズチーこと櫛引はいつも以上に不機嫌で貧乏ゆすりをしていた。
「とっとと始めましょう。ねえ……お兄ちゃん」
配信中なんでこっちを向くのやめてもらっていいですか?
あの、だから俺と長谷部の間に何もないからな?
お兄ちゃんモテモテ~あはは……。
全然嬉しくねぇ……。
メリモ・エンジョイ・パーティーが始まった。
俺はメリモ。アズチーは恐竜がモチーフのドッソー。マリリンはタケノコがモデルのタケムーのキャラクターをそれぞれ選んだ。
CPUは普通の強さで、四人パーティーモードでプレイ。
俺たちが遊ぶステージは、夏ということもあり常夏の南国をイメージとしたリゾート地のようなステージ。
どうやらイベントマスに止まると、イルカのイルミンがギャンブルを勧めてくる。
なんだろうな……イルカのイメージが悪くなるんだよなぁ。キャラは可愛いのに。
順番はアズチー、マリリン、CPU、俺で決まり、スタート。
まずは順調にキャラクターを進めていき、最初のフラッグを目指す。
「まずは私! 行け~!!!」
ルーレットが回り、一で止まる。
アズチーの操作するドッソーがスタートから一マスしか進まず、いきなり所持金がマイナスとなってしまう。
『あらあら。アズサちゃんは運が悪いのね。しっしっし』
「うっさい! あんたの番だよ!」
『はいはい。私にかかれば一位なんて余裕よ!』
自信満々に言うマリリンこと長谷部だったが、ルーレットは無情なものだ。
アズチーと同じく一が出てしまい、二人揃って所持金がマイナススタート。
「え~だっさいんですけど~笑」
『まだまだ始まったばかり。たかが一ターン目に一喜一憂しているちんちくりんで猫を被った化け猫と一緒にしないでくれるかな~?』
「はあっ!? 誰が化け猫よ!!! ムカつく~!!!」
あ、いや。猫を被っていることは否定しねぇのかよ。
あーあ。アズチーのキャラが崩壊している。俺のようなファンがどんどん離れていってしまわないか心配になってしまう。が。
『なんだろうな。今のアズチーのクソガキ感は』
『ああ。興奮するな』
『わ、悪く、ねぇな』
おいおい。コメント欄のファンのみんなよ。
騙されてはダメだ。クソガキじゃなくて、ただのガキだ。ああ。
「いたっ!?!」
「お兄ちゃんの番。早くしてよ」
櫛引に足を踏まれた。
こういうところがクソガキってリスナーに言われる原因なんだよ?
「へいへい。わかりましたよ」
さて。主役は星宮アズサと来ヶ谷マリリンの二人。
二人の勝負になぜか俺も参戦しているが、勝負の邪魔にならないようにゲームをしていかないと。
俺が目立ってしまったが元も子もない。
みんなにわからないように手を抜いてやらないとな。
俺の番が来てルーレットを回すと、六のところで針が止まり誰よりも先に進んでいってしまう。
アイテムゲットマスに止まり、トリプルタケノコをゲット。
これを使えばルーレットが三つとなり、移動距離が増えるという。
「……」
まあ。序盤だから。始まったばかりだからいいんだ。
四人それぞれ行動が終わると、ミニゲームが発生。
今回はアズチーとマリリン、俺とCPUの二対二のゲームになりそうだ。
ランダムで選ばれたゲームは「二人三脚!障害物レース!」に決まった。
二つのチームに分かれて、それぞれ表示されたボタンを正しく押していき、障害物レースをしていくというシンプルなゲーム。
これだったらアズチーとマリリンが勝利してマネーをゲット。
よし、わざとゆっくりやって二人をおぜん立てしよう。
『アズサちゃん、ちゃんとボタン押せるの~?』
「そっちこそ、大丈夫? さっきから操作がおぼつかないようだけど平気なの~?」
二人のコンビネーションは最悪だった。
俺とCPUはのろのろとしながらも堅実にレースを進めていく一方、アズチーのマリリンは口喧嘩をしながらミスを繰り返す。
そして、俺とCPUが先にゴールしてゲーム終了。
俺とCPUにはマネーが送られ、仲違いをしている二人には報酬ナシ。
「……」
なんだろうか。今後の展開も予想できてしまうのが怖いんだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます