57.コラボ!
「あの話、本当なんだな……?」
「だから言ってるでしょ? コラボするって告知もしたし、相手の人とスケジュールを合わせてやるつもりよ。一緒にプレイするゲームだっていくつか候補が出ているし、これから細々と調整していくつもり」
櫛引のご自宅にて。
一階のリビングで俺と櫛引はいた。
俺は特別快速並みの速さで櫛引のお家まで駆けつけたせいで、ドバドバと大粒の汗が溢れ出ている。
櫛引はびしゃびしゃの俺と距離を取っているが、そんな細かいことがどうでもいいくらいコラボの件で頭がいっぱいだ。
しっかりとタオルで汗を拭きながら、『星宮アズサ、初コラボ!?☆』について話し合っていた。
俺のような大ファンからすると聞き捨てならない話。
星宮アズサの初めて、か。ちょっと意味深に聞こえるかもしれないが、ただの初コラボの話だ。
「そ、そうか。ついにアズチーもコラボするよになったのか。パパは嬉しいよ。ぐすん」
「汗をダラダラ流しながら親面しないでくれる? すっごく汗臭いから死んでくれる?」
「ふっ。櫛引。俺はお前の家に来る前にシャワーを三回ほど浴びてきた。もちろん、入念に、な。だから、そこまで匂うはずがないだろう? ニヤリ……」
「キモイキモイ! なんでそこまでするの!? も、もしかして……」
「そうだ。ふっ、俺に言わすなって」
俺が決め顔で言うと、櫛引が椅子を持ち上げて俺を撃退する気満々になったので、素直に土下座して謝りました。調子乗ってすみませんでした。
「冗談だ。ちゃんとマナーをわきまえているんだ。そんなにあれならシャワー借りていいか? ちゃんと汗を流すからそれで勘弁してくれ。それだったら文句ねぇだろ」
「ダメ! 橘君の汁がお風呂に付着するの嫌だもん」
「人を汚物と一緒にしちゃダメだぞ? 傷つくからね?」
今日も櫛引の舌は絶好調のようだ。
「そんで。ただ普通にコラボするんだろ? 俺はただの部外者だから力になれることなんてたかが知られていると思うが」
どうでもいい話で話が脱線したが、ただのコラボでわざわざ俺に連絡し、ここまで呼び出したでは理由として弱い。
櫛引の真意は別のところにある。そう俺は読んでいた。
「えっと……」
櫛引は言うか言わないか迷ったが、背に腹は代えられないのか溜息を一つ吐いてからスマホを操作し始めた。
「コラボ相手がね……橘君も一緒に、と言ってきているの」
「俺!? なんで俺?」
「その子が偶然、私の配信のアーカイブを見たらしいのよ。そうしたら、なぜか橘君のことを気に入ったみたい。丁度、橘君が出演している配信を見て、ぜひともってことで」
「あー……」
あの俺の声が星宮アズサの配信に入ってしまい、お兄ちゃんと偽ったあの事件。
本来であれば大炎上してもおかしくない放送事故だったが、リスナーのみんなは本物のお兄さんであると一応信じてくれたおかげで助かった。
普段からアズチーがリスナーたちを調教……ごほんごほん。
アズチーが普段から配信ルールに厳しくしているおかげで、大騒ぎに発展することなく受け入れてくれた。
事故っちゃたよね~。で終わる話。
なのに! なぜか、お兄ちゃんと一緒の配信が面白かっただの、お兄さんが苦しんでいる様子とそれを応援するアズチーが可愛いとか。
好評? だったこともあり、櫛引の要請もあって数回ほど配信に同席させてもらっている。
どれも我慢を強いられたり、ストレスが溜まるゲームばかりで俺の精神が立ち直れなくなるほどダメージを負ってしまった。
しかし、アズチーこと櫛引はお礼としてアズチーボイス(俺だけの)を貰い、なんとか学生生活と日常生活に復帰できている。
まあ、そりゃ当然だよな!
俺だけのアズチーボイスなんだから、どんな苦行もクソゲーも耐えられる自信がついてきた!
あ、やっぱり限界があるんで、ほどほどに……でも、アズチーのボイスが……。
「いや、二人でコラボした方がいいだろ」
「そうなんだけど……もう話が進んで今夜、お兄ちゃんも一緒って告知画像も作っちゃったし……」
「既定路線かよ。はあ……わーったよ。一緒にやりゃいいんだろ。んで、主役はアズチーとその子だから、俺はあまり邪魔にならないよう立ち回ればいいんだな?」
櫛引はスマホを操作しながらうん、と頷いた。
「一応、三人で出来るゲームを彼女が提案するって。ホラー系かパーティーゲームか。他にも色々と」
「ふーん。で、お相手さんは誰なんだ?」
「それも今夜発表。だけど、橘君は知っておいた方が良さそうよね。この子よ」
櫛引がスマホを見せてくれた。
スマホの画面にはコラボ相手と思われるSNSのプロフィールが表示されている。
えーっとなんだ。
お相手の名前は……来ヶ谷マリリン。あなたのハートをズッキューーーン、と狙い撃ちしちゃうぞ♡ か。なるほど、サキュバス系か。これまた衣装も露出がきわどいなぁ。
「来ヶ谷マリリンって、デビューしたばかりなのか?」
「そうみたい。自己紹介動画をアップロードして、配信も初配信の一回だけ。本当にデビューしたばかりの子が私に声をかけて、とんとん拍子に話が進んだのよね」
「ふーん。来ヶ谷マリリンねぇ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます