55.映画のご感想は?

 映画館を後にした俺たちは近くのファミレスに来ていた。

 目的は休息を兼ねているが、実質あの映画の感想会となっている。


 映画を観た後、誰かと感想を言い合いたいものだ。

 ○○のシーン、よかったよな~とか。

 △△のあれって、どういう意味なんだろうな? という考察だったり。


 俺みたいなぼっちはSNSやネットの感想や考察、その他諸々のネガティブキャンペーンを見てしまう。


 あの映画はクソだの。あの映画は興行収入がうんぬんかんぬん。

 わかるよ。人によって映画の評価が分かれるのも仕方ないし、期待を大にして観に行って期待以上のインパクトが無かったら思うことあるもんな。


 内容が酷かったとしても、好きな俳優やタレント、芸人やアイドルがいることで気にならない人だっている。


 俺だって、あのムキムキマッチョマンの変態俳優さんが出ていたら面白いと思ってしまうから、映画の良し悪しなんてさじ加減でしかないと。


 その俳優さんは変態じゃないからな?

 ある映画の吹き替えであるキャラが言ってたんだもん……。


 クソだのゴミだの言われている映画にだってファンがいる。

 そういうものだと思っていたが。


「なんなんだよあの映画。現代日本と戦国時代がごっちゃ混ぜになっているし、戦闘シーンは学生の戯れにしか見えなかったし、なんでカウボーイが登場するのかいみわかねぇし。なんでサメが次元の裂け目から出てきて、人間を支配して。なんで忍者と侍とカウボーイが最後、魔法少女になって倒すんだよ……意味わかんぇよ」


 俺はあの映画に苦しめられていた。

 内容もさることながら、今までに見たことのないようなストーリー展開。


 唐突にいい年したおっさんたちが魔法少女になり、俺の脳内で理解しようとすることを拒否している。


「そうですかね? 私は本当に楽しくて楽しくて……夢中で最後まで熱中して鑑賞できましたよ!」


「まあ、うん……柊が楽しめたんだったらいいよ」


 柊の目は星のように眩い光を放ち、暗く淀んでジメジメしている俺を明るく照らしてくれている。


「細かいことを気にしてはダメなんです! B級映画やZ級映画は、常人では考えもつかなかったアイデア、クソさ、ハチャメチャな展開、CG、低予算を楽しむものなんです! これがわかると橘君もきっとファンになれます!」


「褒めてるのかバカにしているのか、わかんねぇよ……」


「本当に凄かったですよね! あの魔法少女になったシーン、すっごく盛り上がりましたよね!」


「ああ。あれはすごかった。いい年したおっさん三人が魔法少女の格好をして、どれもピチピチでスカートの丈が足りてないから、股間部分がポロリして言葉を失ったからな……」


 なんで股間部分を執拗にアップにするんだよ!

 すっげぇもっこりしてたし、折角のバトルシーンなのに股間がパンチラしてしまうから気が散ってしまった。


 あとカウボーイ。てめぇはダメだ。

 多分、ポロリしたけどリテイクできなかったせいかモザイクが入っていた。

 次からはちゃんとポロリしないようにしろ! まったく……。 


「あの映画の監督さんのこだわりを感じましたね!」


「……待て。そんな有名な監督なのか?」


「はい! これまで海外の世界で一番クソで見る価値もない映画賞に五年連続で受賞している、世界的な監督さんなんですよ! 橘君、知らなかったんですか!?」


 そんなえーっ!? 橘君知らないんですか!? みたいなリアクションされても困るんだが……。

 なんだよ、その世界で一番クソで見る価値もない映画賞って。

 映画本編よりもそっちの賞が気になってしょうがない。


「初耳だし、そんなやばそうな世界的な賞があるなんて知らなかったんだが」


「本当ですか!? ぜひ、橘君はその監督さんの作品、十六作ありますからDVD貸しますのでぜひ観てみてください」


「十六もあるのかよ!? いや、そこまでいくと名監督なんじゃないかと思ってくるが……。柊、お前の厚意はありがたいが、お断りさせてもらう。今さっき見た映画でお腹いっぱいなんだ」


「そんな……」


 柊はこの世の終わりのような絶望に包まれた精気を失った表情に早変わり。

 なんだろうな。俺が悪かったんじゃないかって思ってしまう。


「あー……なんだ。帰ったらサブスクで探すわ」


「サブスクにはないんです……」


「あ、ない……」


「……」


「じゃあ、借ります……」


「ほんと?!? やったぁ!!!」


 柊は大喜び。俺は十歳も老けてしまった。

 俺は柊が悲しむ顔だけは見たくない。

 こうなったら腹をくくるしかない。


「では、月曜日に持ってきますからね! ぜひご感想を教えてくださいね!」


 でもまあ、柊のこの憂いも悲壮感もない笑顔が見れたんだから、映画がどんな内容であれ楽しめることだろうか。


「ちなみになんだが、どんな映画というか作品が多いんだ?」


「そうですね。えーっと確か……サメ映画が半分」


「半分!? なんでB級映画ってサメ映画が多いんだよ……頭が増えたり飛んだり。ゾンビになったり幽霊になったり。タイムリープしたり巨大化したり。バリエーションが豊富過ぎじぇねーか!」


「よくご存じで! 最近は人間と一つになって戦う映画もあるんですよ!」


「なにその少年漫画みてぇな展開は? すっげぇ気になるんだが」


「ですよね! 他には惑星ゾンビVS人造人間ダイダVer0.228とかも面白いですよ!」

 

「惑星ゾンビってなんだよ。火星にテラフォーミングしたゾンビなのかな? それと人造人間ダイダってなんだよもう……バージョンも中途半端だし……」


「あとは……地底昆虫ゴキブリンVS次元超越電池マンも傑作です!」


「地底昆虫ゴキブリンってなんだよ! 次元超越電池マンって、なんでその二つが戦うんだよ……というかVSシリーズばかりじゃねぇかよ……」


「いいえ! ちゃんとドーナツシャークというホラー映画もありますよ!」


「理解できねぇよ……なんなん。ドーナツシャークどういうこと……ドーナツからサメが出てくるのかよ……どういう発想したらそんな映画が出てくるんだよ……」


「はい! ドーナツの輪からサメが出てきますね!」


「だと思った! あー……はぁ……」


 もう考えるのがしんどくなってきた。

 でもまあ……こんな楽しい柊が見れたし、彼女も充実した一日を過ごせたみたいだし、これでよかったのかもしれないな。


 まあ、そのせいでB級映画を浴びるように見ることになるが、それはまた別のお話ということで。

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