49.元中のほとんどは卒業すると関わらなくなる

 ある日の休日。今日は珍しく晴れている。

 梅雨本番となり、曇り空や雨の日が多くジメジメとした日が続いていたが、本日から一週間ほど晴れ間が続くらしい。


 もちろん、にわか雨の心配もあるらしいが一日中降らないというだけでもありがたい。というか、最近の梅雨って言うほど梅雨じゃねぇ。


 梅雨のイメージと言ったら雨が降るか曇りか。肌寒い日もあれば蒸し暑い日もある。着る服に迷ってしまう日もある。梅雨に対して漠然としたイメージがあったが最近は違う。


 晴れたら夏のように熱いし、降水量も減ってんじゃないかってくらい雨の日も少ない。これも気候変動のせいなのか。


 俺はそんなことを思いながら、自分の部屋で読みかけのラノベを読みながら休日を満喫していると、急に電話がかかってきた。

 扇風機の音に負けず、ブーブーとスマホが主張してくる。


「誰だ?」


 スマホを手に取って送り主の名前を見て、俺はスマホを落としてしまった。

 長谷部乃唖。彼女とのかかわりは中学卒業と同時になくなったはずが、この前本屋で再会したことがきっかけなのか、こうやって連絡してくることが増えた。


 大半はどうでもいいことの報告であったり、元中の○○が高校の先生と付き合ってる、という心底興味が湧かないものばかり。


 今回は突然の電話を寄越してきた。

 どうせ長谷部の猫のような気まぐれだろうが、俺は通話に出るか迷う。

 

 ここで無視をしても俺が出てくるまで長谷部は連絡してくる。

 長谷部はそんな人間だ。


「もしもし」


『あ、遅いよー! レディからの電話は三コール以内に出ないとダメだよ?』


「新入社員が最初に教えられる電話の応対のルールかな?」


『そうそう。社畜の才能がある橘はちゃんと憶えておかないとね!』


「誰が社畜だ。まだまだ現役の高校生だ。で、何の用だ?」


『橘って今暇?』


 この聞き方に嫌な予感を覚える。

 十中八九遊びの誘いだろうが、長谷部のことだから数合わせで声をかけた可能性が高い。もしくは気まぐれか。


「いや、全然。悪いな。これからやることがあるから暇じゃねぇんだ。またな」


 俺は通話を切り、スマホをベッドに置いた。

 時間を置かずにまたバイブレーションが鳴り、スマホを手にするとやっぱり長谷部からの電話。


「もしもし。あの、本当に忙しいんで」


 また一方的に通話を切り、機内モードにした。

 これで電話もメッセージも届かない。誰にも邪魔されない休日を一人で過ごすという、俺の信念のためなんだ。すまんな。


 しばらくラノベを読んでいると、インターホンが鳴った。

 両親は共にでかけており不在。現在この家には俺しかいない。


 俺は読みかけのラノベにしおりを挟み、一階へ下りて行った。

 ここで訪問者が誰なのか、モニターで確認すればよかった。


 てっきり俺は通販で頼んだものか変な勧誘のどちらかだと思い、何も疑問に思わずそのまま玄関のドアの鍵を解除して開けると、


「おっす~。やっぱり暇そうじゃん!」


 おーい、と手を振って満面の笑みを浮かべる長谷部が玄関前に立っていた。

 以前会った時は制服だったが、今日は当たり前だが私服だった。


 ジーパンにシャツというシンプルかつラフな格好だったが、長谷部が着るとモデルのように似合っている。不思議なもんだ。


 俺がジーパンとシャツという組み合わせでもこんなに絵になることはない。

 ああ。これがキャラ格差というやつか。

 平等に見えて全然平等じゃない。ああ、世の中は不公平だ。


「……あ、や。暇じゃねぇんだ。これから出かけようと思ってたところだ」


「えー? パジャマなのに?」


「ぐっ……これからなんだよ」


「ほんと? じゃあ、私待ってるから~」


「待たなくていいから。ほら、近所迷惑になるからどっか行ってくれ。頼むから」


「わかったー。じゃあ、橘のお家にお邪魔してもいい? 近所迷惑になるんでしょー?」


「……わーったから! 着替えるから外で待っててくれ」


 長谷部はやったーと喜び、手を振って待っていると言って俺はドアを閉めた。

 俺は長谷部の行動力を侮ってしまった結果、まさか俺の家まで突撃してくるとは。


 突撃ー! って、どこのイルカさんだよ。

 あの技めっちゃ強いらしいな。俺は格ゲーやったことないからわからんけど。


 俺は髪の毛をぐしゃぐしゃにして溜息をつき、背中を丸めながら自室へ向かった。

 無駄な抵抗だとわかっているが、わざとゆっくり外着に着替えていく。


 一応、母親に一言連絡を入れて家の戸締りをしっかりと確認。

 さて、外で待っている長谷部が実は幻で……だったらいいんだが。


「おっそーい! ナニ、やってたのかな~このこの~!」


 うっぜぇ……。ナニもやってねぇよ。

 長谷部はジト目で肘を使って小突きながらダル絡みしてきた。


「なんもやってねぇよ。それで、俺の家まで来てお前は何がしてぇんだ?」


「よくぞ聞いてくれました! それは……ジャカジャカジャカジャカ……ババン!!!」


 どこぞの番組の司会者のように身振り手振りでそれっぽいことをし、最後は両手を広げていざ結果発表!


「カラオケでーす。ちなみに、元中の人二十人くらい呼んでパーッと遊ぶんだ! 久しぶりに莉子と橘に会ったんだからついでにどうかなーって!?」


「はあ?」


「私は行くつもりなかったんだけど、岸が来い来いうるさくてさー。だけど、莉子と橘のこと思い出して行こうかなーって。二人が来たら絶対に面白そうだもんねー。しっしっし」


 悪魔めいた笑みを浮かべながら詳細を話してくれた。

 なるほどね。これは新手の拷問かな?


「やっぱり俺はやめて――」


「いいのー? 莉子が一人っきりになっちゃうよー? 岸の他にも二階堂とか浜田とかいるのにー?」


「お前――」


 岸と二階堂と浜田の三人。

 俺が通っていた中学では超有名な三馬鹿と呼ばれている男たちだ。

 プライドもなく道行く人を平気でナンパし、成功した試しのない残念なトリオだ。


 他校の女子をナンパに誘って無理やりカラオケに連れて行ったときがあったが、その女の子は警察高官の娘さんだったらしく、かなりの騒ぎにもなった


 他にも飲みかけのペットボトルや空き缶を見知らぬ通行人に手渡して、ゲラゲラ笑う究極の悪ノリをして楽しみ連中だ。

 何が面白いのか理解できないし、他人を巻き込んで迷惑をかける姿から俺は三人を三馬鹿と呼称している。


 常に一緒に居るし、バカみたいなことをして騒いで喜ぶ。

 あいつらがいるんだったら事情が変わる。

 長谷部のやつ、俺を連れ出すために綾瀬を人質に取ったというのか?


「わかった。行けばいいんだろ。行けば」


「そーそー。素直が大事! そんじゃレッツ・ゴー!!!」

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