SS(ショートショート)気持ち悪い橘
櫛引明日葉はドン引きしていた。
なぜなら、彼女のクラスメイトの橘千隼が櫛引に要求したボイスにあった。
『勉強がんばれ♡ がんばれ♡ ボイスが欲しい』
橘は櫛引の勉強に協力した見返りにボイスが欲しいと連絡してきた。
櫛引はスマホを投げ出してしまうほど気持ち悪がり、急いで洗面所に行って顔を洗った。
なぜそのようなボイスが欲しいのか。なぜがんばれなのか。
彼の要求を理解できず櫛引は全身に鳥肌が立った。
「ほんっとうに気色悪い。縁切りたいんだけど……」
そんなひとり言が漏れてしまうほど櫛引は橘に対して嫌悪感が湧いてしまう。
だけど、櫛引は口で悪く言っても橘に対して感謝をしきれないほどの恩がある。
橘のお願いを無下にも無視するわけにもいかない。
仕方なく櫛引は音声録音することにした。
橘の要求は勉強ががんばれるようなボイスが欲しい、とだけ書いてある。
櫛引はひとまず、星宮アズサになりきってボイスの収録を行った。
全てを取り終わり、改めて聞いてみると、
「……なーんか物足りない気がする」
あれほど気持ち悪がっていた櫛引だが、橘のために真剣に取り組み手を抜かない。
櫛引が星宮アズサとして活動していることも関係しているが、果たして……。
「あいつが喜びそうなこと……うっげ。今思いつたセリフ言いたくないな……」
櫛引は顔を引きつらせながらマイクをオンにする。
「千隼♡ 勉強がんばったら……いいことし・て・あ・げ・る♡」
櫛引は収録が終わり、すぐにゴムボールを手にして思いっきり壁に向けて投げ込むのであった。
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