33.燃えたぎる絆のしょしょしょうりだ!ー!
運命のラストドロー。このワンドローでどうにかなる状況じゃないが、阿藤正義はこれまで神がかり的なドローによってたくさんの勝利へ導いていた。
果たして俺こと阿藤正義が引いたカードは……。
「俺はスペルカード、復讐の呼び笛を発動するぜぇ! このカードにより、エンドゾーンにある所定のカードをバトルから外し、デッキからこのカードを召喚する!」
「な……ここに来てそのカードを引くだと!?!」
俺自ら劇中で勝利BGMと呼ばれるものを口にしながら、デッキからDBCのもう一つの顔と呼ばれるモンスターを召喚する。その名も――。
「スカーレッド・New・ドラゴン降臨!」
スカーレッド・New・ドラゴン。このモンスターはブラック・ジャスティス・ドラゴンによて全身に数えきれない傷を負ってしまい、復讐の機会を虎視眈々と狙っているという設定を持つドラゴン。
傷だらけの体。復讐に燃えその身を焼き尽くさんばかりの炎に身を任している姿に多くのファンを獲得。原作がカード化されて十年以上経過するが、この二体のモンスターを超えるカードが出てこない。
いや、看板モンスターということでこれ以上のカードは出てこないと言われている。何度も再録されたり、強化を貰ったり。
「な、なんだと!?! まさか絶体絶命のこの状況をひっくり返すカードをドローするとは……くっ」
このタイミングで切り札となるスカーレッド・New・ドラゴンを召喚し、数歩後ずさる海原玄(高橋)。これで形勢逆転。この勝負、俺の勝ちだ!
「スカーレッド・New・ドラゴンの能力発動! このモンスターの攻撃力はエンドゾーンにいるモンスターの数、プラス五〇〇アップ。その復讐心を力にし、すべて焼き尽くせ!
「ふっ……やるではないか。それでこそ、俺様の
ブラック・ジャスティス・ドラゴンは爆炎に焼かれ破壊。海原(高橋)のHPはゼロとなり、俺の勝ちとなった。勝負が決し浅野(加藤)が手を上げバトルを終了へ声を張り上げた。
「勝者、阿藤正義!!!」
歓声(俺のセルフ歓声)に迎えられた俺は拳を握り締めて天井へ突き立てた。
これから原作で超有名なセリフを言うため、綾瀬と櫛引らと目を合わせて打ち合わせ通りいっせーのーせで――。
「「「これが……燃えたぎる絆しょしょしょうりだー!!!」」」
……。
…………。
………………今、セリフが合わなかったな。
俺と綾瀬と櫛引の三人による決め台詞のはずが、タイミングが外れてしまい音声がバグったようになってしまった。
静まり返る教室。最後の最後にやらかしてしまい、固まってしまう綾瀬と櫛引。
海原(高橋)は苦笑い。加藤と細山は声を上げないように必死に笑いを堪えている。
「……まあ、なんだ。最後はちょっと息が合わなかったが、こんなもんだ。なあ後藤」
俺はカードを近くの机に置き後藤に近づいた。後藤はまるで珍獣でも見るような目で俺を睨んでいた。
「お前もこっち側にくるか!?」
「誰が行くか! そんなガキじゃあるまいし。お前らそんなカードゲームは小学生間にしておけ。いい年して恥ずかしいと思わねぇのか?!」
後藤の言うこともわからなくはない。
このDBCは主に小学生の間で大流行したカードゲーム。
当然ながら、年齢を重ねていくにつれて離れていく人も多く、すでに俺の周りでプレイしている人はごく少数。
今はコレクション目的で収集している人も多く、カードを買う理由や目的も多様化している。もちろん、高校生や大学生、社会人になってもカードを買い楽しんでいる人だっている。
今では幅広い年齢層に愛され、プレイされているカードゲーム。一方で後藤のように恥ずかしいと思う人がいても不思議じゃない。
「全然。好きなことに全力で何が悪いんだ? お前にあれこれ言われる筋合いはねぇよ」
「あ? 舐めてんのかてめぇ。さっきから調子乗って好き放題言いやがって。このウジ虫が!」
「好きに言えばいいさ。お前みたいに虚勢を張って威張り散らかし、自分らと違う世界を生きている人を馬鹿にし、いつまで経っても群れることでしか強気になれない。そんな奴にあれこれ言われたくねーよ」
「ああ?」
「高橋はお前らのとは仲良くするつもりはない。今目の前で見ただろ? お前からするとちんけなおままごとかもしれねーけどが、高橋は他の誰よりも楽しんでいた。高橋は自分の意志で俺たちと一緒に居たいと願い、ああやって笑顔を見せてる。だから……お前はもう二度と高橋に関わるな。以上」
「さっきから好き勝手言いやがって……てめぇみたいな性格が歪みまくったやつに言われたかなぇよ!」
「褒めてくれたのか? ありがとう。俺の性格が歪んでいるのは知って――」
危ない危ない。後藤が俺の顔面目掛けて拳を振るってきた。
暴力の気配を事前に警戒していたおかげで避けることができたが、今のをまともに喰らっていたら痛いだろうな。
「暴力はダメでしょ? ママに教わらなかったのかな?」
「てめぇ……」
「や、やめろって! 二人とも冷静に――」
高橋が介入して仲裁に入ろうとするが、俺がやめろと手で制した。
「ここは任せておけ。なーに。あんな雑魚相手に負ける俺じゃねぇって」
「いや、そういう問題じゃないだろ!? 後藤もやめろ! 暴力はよせ!」
「黙れ! こいつを俺をコケにしやがった。一発殴った程度で収まりがつかねぇ。病院送りにしない限り腹の虫がおさまらなねぇからな!」
「ちょ! 後藤! 流石にやりすぎっつーの!」
後藤の取り巻きである赤井が止めるように声を上げるが無視される。
いつも一緒に居る赤井でさえ後藤の突然の暴力に疑問があるのだろう。
「結愛の言う通り。後藤君。もうやめよ」
赤井の友達であり、普段からやる気がなくダウナーな感じの蒼井でさえ、これ以上ヒートアップしないように注意している。
「るせぇ! お前らは黙ってろ!!!」
「「……」」
後藤に一喝されてしまい、黙り込んでしまう赤蒼コンビ。
あの様子を見るに、あの三人の中にもピラミッドが出来上がっているようだ。
後藤を頂点とした支配があり、それに対して彼女たちは口出しできない。
なるほどな。すべてのガンになっているのはこの男か。
こいつが改心しない限り、誰も幸せにならない。説得しようにもこの男に言葉はもう通じない。
というか、俺が挑発しまくってそれどころじゃないが。
はあ……余計なことに首を突っ込み過ぎたか。
こんな予定じゃなかったんだけどな……。
「やめろ、後藤。お前一人で何ができるって言うんだ?」
「俺が手ぶらでいるとでも?」
後藤は制服のポケットからメリケンサックや金属の棒を取り出した。
昭和のヤンキーを彷彿とさせる武器の数々に閉口してしまう。
「死ねぇ!」
後藤の突進を身を投げ出して回避。ちょっと武器は卑怯じゃないっすか!?
こっちは丸腰だし、何よりも喧嘩なんてするつもりがない。
穏便に済ませようとしたが、ここまで後藤を逆上させてしまうと説得もクソもない。
どうにかして取り押さえないとこっちの身に危険が生じてしまう。
だからといってどうすりゃ……
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
やばい。これは顔面直撃コースだ!
なんとかギリギリしゃがんで直撃は逃れたが、後藤が放った右ストレートは俺の頭上を掠めた。その際、俺が被っていたカツラがふわっと宙を舞った。
ふわりと浮かんだカツラが後藤の顔面に見事着地する。死期がカツラで防がれてしまい、殴った勢いを急に止めることなどできず、机や椅子がまとめて置かれた場所に飛び込んでいってしまった。
バンっ! という音と机と椅子をかき分けて後藤は転倒。
主に腹部や顔面、脚を強打したせいかすごく痛そうだった。
「大丈夫……か?」
ド派手な転倒だったせいで後藤の身が心配になる。声をかけると、後藤はフラフラと立ち上がり、カツラを剥がして投げ捨ててそのまま俯いたまま教室を出て行ってしまった。
赤井と蒼井が慌てて後藤の後を追い、教室には俺らとバスケ部員のみとなった。
これは……解決でいいのか?
後藤の自滅で終わったこの騒動、後に暴れ過ぎた俺たちは先生たちからこっぴどく注意されるのだった。ちゃんちゃん。
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