SS(ショートショート)高橋のひとり言

 授業中のこと。高橋はいつものように授業を真剣に聞き、しっかりとノートを取っていた。彼にとっては当たり前のことであり、苦痛でもなんでもない。


 真面目に授業を聞いていたが、先生の雑談が始まり授業が中断。

 先生の自慢話が始まり、高橋はシャーペンを置いて小休憩に入った。

 小休憩とはいえ、軽く体を伸ばして外の景色を見るくらいだ。


 ふと、高橋の視線にある人物が映る。彼の友達の橘千隼だ。

 一年生の時から同じクラスでたまたま席が近かったので声をかけ、それがきっかけで友達になった。


 高橋からすると橘は少しひねくれているが、決して悪い人ではない。そういう認識だった。

 しかし、ある日を境に橘の様子がほんの僅かだが変化したことに高橋は気づいていた。


 なにが変化したかは言葉で言い表せない。ただ、高橋にとってはこの上なく嬉しいことであり、更に好きになった。


 以前の橘は他人に対して興味を持たず、切れたナイフのように気に喰わない人に悪態をついたり、悪口だって平気で言っていた。


 転機は転校生の綾瀬が来た日に遡る。

 本来の橘であれば転校生に一ミリの興味を抱かず、高橋が興味あると迫ると本気で怒り、下手をしたら拳が飛んでくる。


 橘は自分のテリトリーに他人が入り込むのを極端に嫌い、侵略してくるものなら実力行使に出る。

 それは一年生の時からの付き合いでわかったこと。高橋は一年をかけて橘の触れていい所とダメな所を理解していった。


 転校生のことを執拗に聞いて頃合いを見て引き下がる。

 高橋はそう身構えていたが、その日の橘は敵意がなくどこか転校生を気にする素振りを見せていた。


 あれはいったいなんだったのか。

 気が変わったのか。それとも改心したのか。

 それは高橋にはわからない。だけど、高橋は昔の橘より今の橘の方を気に入っていた。


「……ふふ。かわいい欠伸してるな」


 大きく口を開き欠伸する橘を見て、高橋は頬が緩み目を細めるのだった。

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