28.勉強会
放課後。俺たちは教室に残って勉強会を開くことになった。
目的は細なんとかと櫛引の勉強を見てやることが主な目的となっている。
この二人は壊滅的なほど勉強ができないというのは、なんとなく言動や風の噂で聞いている。
残った面々は、俺と高橋、なぜか綾瀬にバスケ大好きの加藤まで居る。
そして、主役となるなんとか川と櫛引を入れて六人で勉強会をすることに。
ちょっとした大所帯となってしまったが、問題の二人が相当危機感を持っているから大丈夫だろう。本番まで一週間しかないのだから。
「橘ぁ。面白そうなことするんだったら俺にも早く教えてくれたらいいのにな」
むくーっとふくれっ面を作りながら俺に文句を言う加藤。無意識のうちにやっているかもしれないが、加藤もイケメンなためその顔でいくら女の子を撃ち落としたんだか。こいつはバスケ一筋なせいで、女子からの告白すべて断っているが。
俺は加藤を宥めながら耳打ちする。
「加藤。無理にあいつらに付き合わなくていいからな」
「無理してないって。テスト一週間前で部活もないし、たまには青春っぽいことも悪くないでしょ!」
「いや、うん。まあ。お前がいいって言うんだった俺はこれ以上は言わんが……」
加藤が誰よりも勉強会を楽しみにしているんだったら、俺からは何も言うまい。
ただのバスケ大好き小僧に見える加藤だが、実際は勉強面も大変優れていると聞く。
英語はペラペラに喋ることができ、他の科目も一〇〇点近い点数を取るとのこと。将来的にアメリカの大学を目指し、そこからプロを目指していると聞く。
アメリカの大学は文武両道。そのために勉強も怠らずにやっているらしい。
すげぇな。加藤は絶対に将来日本を代表するバスケットプレイヤーになれる。
そんな予感がする。
よくありがちな、スポーツだけに打ち込んで語学や勉強面がダメダメなスポーツマンでないことに好感を抱く。
「よーっし! それじゃあ勉強会始めようか!」
高橋の掛け声に同調するように、細なんとかと加藤、そして櫛引がえいえいおー! と声を上げて勉強を始めるのだった。
教室内は未だにシャーペンを走らせたり、消しゴムでゴシゴシと文字を消す音だけが聞こえてくる。今のところ、健全な勉強会が続いている印象だ。
俺と綾瀬は自分の席で黙々と自分で勉強を進めている。俺たち二人はただやるべきことを実践している。
他の面々はと言うと、教室の真ん中で輪を作って高橋と加藤が細なんとかと櫛引の勉強を見てやっている。
やっぱり主人公なだけあって高橋は全科目を高水準にこなすことができる。
ただ勉強ができるだけではなく、教えるのも上手なため細なんたらと櫛引は真剣に楽しそうに聞きながらノートを取っている。
一方、加藤に至ってはネイティブレベルで英語ができることもあり、英語に関して言えばこれ以上ない適任。細なんたらと櫛引は英語をペラペラしゃべる加藤に感動しているようだ。
さて、そんなこともありつつ順調に勉強ができていると思ったが、やはり本番一週間前に一からスタートすることは大変。
「っべーっべーよ。本当にテストまで勉強できっかわかんね~よ……」
当然ながら授業も受けずノートを取っていない細〇は終わらない勉強に絶望してしまう。
「大丈夫だ! コツコツとやっていけば問題ないはずだから頑張ろう!」
「ひろっち……もう大好きになっちゃう!」
「あはは! ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ。さあ、地道で大変かもしれないが僕も一緒に手伝うから頑張ろうね!」
「おうよ!」
という感じに男同士の暑苦しい友情劇が開演している。一方、櫛引は加藤と共に勉強をしているが、二人の顔は対照的。
加藤は片耳にイヤホンを挿しながら小刻みに顔を上下に揺らしているが、櫛引は顔を引きつらせながら教科書とノートを交互に睨めっこしている。
「櫛引さんはわからないところあるのか?」
「え、ええ……英語ワカラナイ」
「どれどれ……ちゃんと単語の意味を覚えていけば楽勝だ。テスト範囲は教科書の英文のを理解できるようになれば解ける筈。まずは単語からやったほうがいいと思う」
「単語……単語……」
加藤は加藤でふざけるつもりもなく、真剣にかといって厳しくならないように優しく櫛引を導いているようだ。
この様子なら勉強は問題なくできるし、俺が危惧しているようなどんちゃん騒ぎにならないだろう。
「橘君」
「悪いが綾瀬。俺は自分の勉強で手一杯だからわからないことがあるんだったら、高橋か加藤に頼む」
「あら。橘君は優秀と聞いているけど」
「誰情報だ?」
「高橋君。橘は結構勉強できるんだよな~と言っていたけど」
「あいつか……」
高橋と俺は一応一年生の時からの仲であるため、お互いのテストの点数や成績を知っている。
「勉強できるって言っても、俺は評価が三以下にならないようにしているだけだ。あまりハードルを上げられても困る」
「そう? 三以下にならないようにしっかり勉強している証拠でしょ」
「……口じゃなくて手を動かせって。テストの点が悪くなっても知らねぇからな」
「ふふ。素直じゃないな」
素直じゃなくて悪かったな。綾瀬は面白そうに微笑んでいるが、俺としてはまったく気に喰わない。俺は頑張っているんじゃなくて、ただ単に三というボーダーを超えるように勉強をしているだけ。
勉強をしっかりしていればこれから控えている大学受験にも好影響を与えるかもしれない。内申点は大事だ。推薦があればそれで大学に行くことに越したことはない。
仮に推薦がなくても今から勉強する習慣をつけておけば、大学受験に向けて抵抗なく迎え撃つことができる。俺としては今年の夏から、大学受験に向けて動き出す予定だが。
「……よし。ちゃっちゃと終わらせるか」
俺としては授業を受けて家でも予習復習をしているため、今さら勉強するまでもない。が、やはり本番に向けて不安材料を減らすことは大事なこと。
理数系科目を中心に俺は勉強をするのだった。
結局。彼らの集中力は一時間しか継続しなかった。
「うっひょ~。これで終わりだ~!」
細ウェーイは持っていたトランプのカード一枚を場に出した。
「残念。僕の勝ちだよ」
高橋は狙っていましたと言わんばかりにカードを出し、場を流して一着で上がる。
「え~まじっすか~!? うっそ~俺っちの勝ちだと思ったのに~!」
頭を抱えて悔しがる細さん。しかし、まだ勝負は終わっていない。
「うわ~すっご~い。高橋君ってトランプも強いんだ~♡」
高橋を褒めながら櫛引は残り一枚のカードを出して二着で終了。
櫛引の奴、高橋を褒めながら自分も次にあがるなんて。ちゃっかりしているな。
「やるな。流石クラス一の、学年一のイケメンなだけあるな」
加藤は不敵に笑いながらカードを切り三着。ビリは細うんたらさんに決まったようだ。
「また俺かよ~!!?」
こいつらトランプの大富豪で滅茶苦茶盛り上がっている。
勉強はどうしたんだ、勉強は。
「ダメだったようね……」
「ダメも何も、最初っからわかっていたことだろ……」
綾瀬は痛む頭を押さえながら嘆くが、俺は想像した通りに四人が遊んでしまったことに呆れてしまうのだった。
ちなみに、細……さんは一〇回連続で大貧民になってしまうのだった。
ある意味運がいいなぁ。
まあ、想像通りの結果となったが……。
はあ……どうしたもんか。
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