第3話 イベント発生!?
綾瀬の自己紹介は簡潔に終わった。。
それから、田中先生によって連絡事項が伝えられていく。
不審者情報もなし。提出しないといけないものもない。すぐに話が終わった。
「朝のHRはこれで終わりだけど、実は綾瀬さんの机と椅子を用意するの忘れちゃって……。本当は昨日用意するはずだったんだけど、先生さ忙しくて忘れちゃったんですよ……綾瀬さんごめん!」
田中先生は手を合わせて綾瀬に謝罪。
綾瀬は苦笑ともとれる顔をしながら全然と言い、クラスメイトの何人かが先生を非難するようなヤジを飛ばした。もちろん、田中先生の人柄もあり、愛あるいじりだ。
「これから綾瀬さんの机と椅子を取りに行ってもらうけど誰にお願いしようか」
あーはいはい。恒例のアレね。
机と椅子用意してないから誰か綾瀬さんと一緒に取りに行ってください的な展開ね。
あれ? こんな展開だったっけ?
漫画にはない展開となり少し混乱してしまったが、話の流れ的に高橋が挙手するか先生に指名されて取りに行くことになるんだろう。だって、あいつが主人公なんだから。
「先生!」
元気よく挙手したのは高橋。ほら、俺の予想が的中した。
授業が始まるまでふて寝でもするか。
「どうした、高橋」
「橘が机と椅子を持ってくるって言ってまーす」
……ん?
おかしいな。橘って俺のことじゃないっすかー。
あそうか。別の橘さんかな? うん。きっとそうだ。そうに違いない。
「そうか。いい心がけだ。じゃあ、橘。綾瀬さんと一緒に机と椅子持ってきてくれるか? 本当は僕がやらないといけなかったんだけど、色々と立て込んでて忘れちゃって。お願いできる?」
ちょ先生、本気で言ってる? というか高橋さん? ご乱心ですか?
ちょ、ほら、ここは主人公である高橋自らがクラス委員としての責任を果たすべく、挙手して名乗り上げるはずじゃないの?
ほらほらー、綾瀬がすっげぇ嫌そうな目でこちらを睨んでるじゃん。
高橋の奴、一体何を考えているんだ?
「え、あー……はい」
頼まれたら断れない日本人の悪い所が出てしまった。
きっぱり断れる人になりたいが、こんな人目のあるところで堂々と拒否できる度胸なんてない。
安易に断らないですべて引き受ける橘君やっさしーい!
うん。まさに都合のいい人間とはこのことだ。悲しいな……。
あ、いかん。橘の闇の部分が……落ち着け俺。橘に飲まれるな。深呼吸して…………よし。落ち着いた。
俺は立ち上がってクラス中の視線を集めながら教卓の方へ。
綾瀬さん、ゴミを見るような目で見ないでくれませんか?
初対面だし気分を害するようなことしていないのに、初っ端から好感度がマイナススタートだ。
流石嫌われサブキャラ。哀れだ……俺が。
あと、俺を殺すように睨んでくるクラスメイトたちもめっちゃ怖いんだけど。
あれか。超絶美少女転校生とイベント発生!
橘のやつ……的な嫉妬の的になっているんだろうか。
ふぇぇ……。誰でもいいから代わってほしいよ。
「机と椅子は体育館の傍にある備品室にあるから。よろしく!」
「あ、はい。りょうかいです。備品室ってどこでしたっけ?」
「体育館のところにあるから行けばわかると思うよ」
「りょうかいです。そんじゃあ、行くか」
「……」
綾瀬は全無視。今ので精神にかなりのダメージを負ってしまった。
後で回復魔法を自分にかけておかないと。
俺と綾瀬は教室を出て階段を下りて下駄箱へ。
ローファーに履き替えて体育館の方へ向かうが、俺を先頭に一〇メートルほど離れた距離から付いてくる綾瀬。
そんなに俺のこと嫌いなの?
そこまで離れなくてもよくない?
制服は匂わないし、体臭も臭くないはずだ。多分……。
幸いなことに体育館の場所はすぐに分かったし、その近くに備品室を発見。
ちょっとした倉庫のようで、校舎とは少し離れた場所にあった。
先生から預かった鍵で開錠しドアを開けて入る。
「さっさと机と椅子持ってきて」
「持ってくるよ。机と椅子の両方持っていくと危ないから椅子だけ頼む」
「はあ。めんどくさい。なんで私があんたなんかと……」
「文句があるんだったら高橋浩人に言ってくれ」
「……」
綾瀬は少し逡巡したがこれ以上俺と会話するつもりがないのか黙ってしまう。
備品室に入った傍に証明のスイッチらしきものがあったのでつけると、備品室に照明がつき全容が明らかになった。
ダンボールの山や文化祭で使うと思われる看板、その他諸々が乱雑に置かれていた。備品室と言っているけど実際は物置のようだ。
机と椅子は……奥の方にあった。
「埃臭いところね。私はここで待っているから」
「お前も少しくらいは手伝えよ」
「嫌よ。新品の制服が汚れちゃうもの」
「少しくらいだったら平気だっつーの。わがまま言わないで手伝えよ。いつまでも埃っぽいところに居たいか?」
「……ちっ」
舌打ちしたな。俺にはハッキリと聞こえたからな!
ったくよ。俺の知ってる綾瀬はこんなきつそうな性格じゃないはずだが。
もしかして、これが綾瀬の本性……なわけないか。
改めて目当ての机と椅子を見る。
備品やらダンボールに囲まれているが問題ないだろう。
多少なりとも埃はかぶっているが状態は良く綺麗だった。
「綾瀬、目当ての物見つけたから手伝ってくれるか?」
「だから嫌と言ったでしょ? 私はここにいるから」
「頼むから言うこと聞いてくれよな。いくつバッジがあれば言うこと聞いてくれるんだ?」
「なに? 私を持ち運びできるモンスターと一緒にしないでくれる? 本当に最低」
うっわー辛辣! ドMだったら今の一言で快楽を得てそうだ。
綾瀬は口では嫌々言いながらも備品室に入り、渋々といった様子ながら来てくれた。
「ここに机と椅子があるから引っ張ってくれるか?」
「ちょ……埃がついてるじゃない。最悪」
「あとで拭けばいいだろ。そんじゃあ、俺がこれを押さえるから頼む」
「はぁー……わかった」
俺は段ボールや使用用途不明な木材やらの山をかき分け、なんとか机と椅子が出せるような状態をキープ。
綾瀬が俺に触れる距離まで近づき、机と椅子を引っ張って取り出していく。
しかし、机と椅子という支えがなくなり、天井近くまで積まれていた備品たちが雪崩のように崩れ落ちてきた。
破砕音やドカンという音を立てながら、ありとあらゆる物がぶつかりながら俺たちに襲いかかってきた。
「きゃぁっ!?」
俺はすぐさま綾瀬を押し出した。
押し込む際にふわっといい匂いが鼻腔をくすぐった。
シャンプーなのか、コンディショナーなのか。それとも柔軟剤の匂いかわからないけど。
何でこんな時に変なことが気になってんだよ、俺は。
綾瀬は俺に押されて尻もちをつくが、雪崩に綾瀬が巻き込まれることはなく無事だった。が、当然だが逃げられなかった俺はありとあらゆるものの雪崩に巻き込まれてしまった。
幸いなことに脚だけに物が重なり、大きな怪我無く済んだことは僥倖。
そこら中を舞う埃と塵。俺と綾瀬は口元を手で押さえてせき込んでしまう。
「くっそ、脚が……綾瀬、助けを呼んできてくれ」
「わ、わかった」
綾瀬がドアまで流れ込んできた備品たちをかき分けて開けようとするが、ビクともしない。
「開かない。このゴミを片付けないといけないかも」
「まじか。だったら、脚が挟まれて動けねぇから、少しどかしてくれるか?」
「え、ええ」
綾瀬が俺の脚の上に載っている物をどかしてくれ、なんとか自力で脱出に成功。
俺と綾瀬はある程度物を片付けドアを開けようとするがびくりともしない。
「もしかして、さっきの衝撃でどこかぶっ壊れたのか?」
「え……閉じ込められたの? 私たち」
「ああ。でも、誰かにヘルプすれば来てくれるんじゃ――」
そこで俺はあることに気づいた。
現代では肌身離さず所持していないと日常生活で不便な文明の利器を持っていないことに。
そういえば、高橋にスマホの画面を覗かれて反射的に机の中に置きっぱなしにしてしまったんだ。
「なあ、綾瀬。スマホ持ってるか?」
「スマホ? 持ってい――あ」
とてつもなく嫌な予感がする。綾瀬のやっちまった、と申し訳なさそうな顔が可愛いから許しちゃう!
「なによ。スマホはカバンの中。先生にカバンを預けてここに来たから今は持ってない。あんたは?」
「残念だけど俺のスマホは机の中だ」
「はあ? じゃあ、どうするの? ここで大人しく待てと?」
「そういうことになるな。俺たちが帰ってこないことに気づいて誰かが助けに来るまで大人しくするしかねぇみたいだな」
「えー……本当に最悪なんだけど。はあ……」
綾瀬はその場で膝を折って丸くなってしまう。
俺も机の埃を手で払い、その上に腰かけて溜息をついた。
あのさ。こういうイベントって主人公とヒロインの二人で起きるものじゃないの?
なんで俺が綾瀬と……おいおい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます