第49話

 息苦しさと共に、エレンは目を覚ました。

 試験前日の早朝。いつも通りの日時。いつも通りの薄暗い、女子寮の自室。


(アレス……)


 ぎゅっと拳を握り締め、エレンはベッドの上で、立てた両膝の間に顔を埋める。

 大丈夫、大丈夫、大丈夫。

 いつかきっと、解決方法は見つかる。

 だから、大丈夫。





 それからエレンは何度も死に戻った。

 時には何もせず、戻った事もあった。ろくな確認もせず死に戻ってしまった一回目――アレスが最初に死んだときの状況を、詳しく確認するためだった。

 その結果、エレンは貴賓室の奥側にあるガラス張りのサンルーム。その天井に、丸く切り取られた部分があるのを見つけた。丁度、人一人が通れる大きさだった。

 おそらく暗殺者の一団は、ここから室内に侵入したのだ。


 確かにサンルームは植物が生い茂っていて室内からは見づらく、出入りの扉があるため音も聞こえづらい。外界と中を隔てるのはガラス一枚で、総合的に考えても侵入もしやすい場所だった。


 それから、ガラスは縁を熱で溶かしたように、綺麗に切り取られていた。このことから、相手がただ闇雲に定型魔法を使うのではなく極めて実践的――かつて前線に立ったエレンたち魔法兵のような思考を持っていることも分かった。


 行動を変え、『運命の歯車』をずらすことで、次第に情報は集まっていった。

 現時点で分かっている情報をまとめると、次のようになる。



一、アレスは襲撃によって死亡する。

二、襲撃犯は金の目を持った手練れの相手である。

三、また、将来リーゼロッテを殺害する犯人と同一の手の者である。

四、おそらく帝国の人間ではない。



 四番目は、アレスの推測だった。

 戦争をするにあたり、帝国は大義名分を得たい。

 であれば、アレス、リーゼロッテ双方殺害に関して、帝国が分かりやすく自分たちがやりましたと主張するわけがない。

 つまり、リーゼロッテ殺害犯が持っていたという認識票は、あからさますぎるのだ。

 これに関しても、アレスは調査中だと言っていた。



 ――それから、アレスの死期に関しての条件が二つ。



 条件一、アレスが本国に連絡を取ろうとすると死期が早まる。

   (理由)王国内に内通者がおり、アレスに情報を掴ませないため、早期排除に踏み切るため。

 条件二、アレスが人目に付くところで過ごした場合、死期は遅くなる。

   (理由)暗殺者が己の存在が公になるのを避けているため。



 けれどどれだけの情報が集まっても、アレスが死ぬのは避けられなかった。

 エレンは次第に、アレスに一人死に戻ったことを打ち明けなくなっていた。

 話しても話さなくても、アレスが死ぬことは変わりないからだ。


 エレンは死に戻る。

 何度でも何度でも何度でも。

 アレスを助けるため、何度でも死に戻るのだ。

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