病院猫のお仕事

 ソラノとセンセーが話した日から、何事もなく毎日が過ぎてる。みんなの雰囲気も変わらない。

 でも、ソラノとセンセーは確実になにかを話して決めたのだけはわかってるの。

 けど、センセーの部屋で話してたから全然聞き取れなくて、あたしにはどうなったのかわからないまま。


「わかりました。すぐに来て下さい」


 そんな考えにふけっていた時、センセーの緊迫した声が聞こえてきた。


 ***


 緊急手術が始まるんだと思っていたら、慌ただしくソラノが入ってきた。


「ミミ、出番だよ」


 あっそ。

 ほら、早く連れて行きなさいよ。


「ありがとう、ミミ」


 久々の病院猫としてのお仕事。

 抵抗するわけないじゃない。

 でもほんの少しだけ、心臓がドキドキするのは許して。


 大人しく連れて来られたのは診察室。そこにはセンセーをはじめとしたみんながいた。

 診察台に乗せられたあたしを動かないように保定するのはソラノ。

 すぐ、ハラノに首の毛が切られていく。カミソリはくすぐったい。

 でも急に首筋がひんやりしたら、センセーが血を抜くために針を刺してきた。


 今日のご飯、なにかしら。

 お仕事頑張った日は、美味しいものがたくさん食べれられるからね。


 針を意識しないようにソラノの顔を見る。なんであんたが辛そうな顔してんのよ。ま、他のみんなも似た顔してるけどね。


 あー……。

 ふらふらしてきたわね……。


「ありがとうミミ! 絶対助けるからな!」


 もう限界と思った時、センセーが優しく頭をなでてくれた。気合十分でなによりよ。

 すぐにみんなが持ち場に移動する中、ソラノがあたしを抱き上げた。


「ゆっくり休んでね」


 そうするわ。

 もう眠たいし。


「えらいね、ミミは。全然嫌がらなくて」


 当たり前よ。

 それが、この動物病院に捨てられたあたしのご恩返しなの。

 赤ちゃんの時の記憶なんてないけどね、今日まで生きて来られたのはセンセーのお陰なんだから。


 部屋につけば、ソラノがいつもよりも優しく降ろしてくれる。


「大丈夫?」

「ミャァ」


 ふらふらしてながら歩いたあたしを支えてくるソラノに、返事しておく。慣れてんだから大丈夫よ。それにほら、手術もあるんだから早く行きなさいよ。


「待っててね。タオル、もう少し増やすから。のども渇いたよね? 綺麗なお水準備するからね」


 そっか。今日はソラノがあたしの献血後の様子を見るのね。

 いつもなら経験を積みたいからって率先して手術の補佐に入るのに、なにしてんだか。


「ミャ」

「しんどい?」


 もう寝るから、どっか行きなさいよ。


「おやすみ、ミミ」


 このあと、しっかりぐっすり寝ていたあたしに、ソラノは『ミミのお陰で手術成功したよ!』って声をかけてくれた。

 それを聞いてあたしは満足して、また寝たわ。

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