新入りの新しい家族

「おはよー、みんなー!」


 相変わらずうるさ……、ん?


 ソラノが元気よく入ってきたけど、いつもと違って大荷物じゃない。今日ってなにかあるのかしら?

 そう思ってじっと見ていたら、大きな黒カバンがゴソゴソ動いた。


「あっ、ごめんね! 早くあっち行こっか」


 なんなのかしら、あれ?


 よくわかんないけど、あとで見に行けばいいことだし、いっか。

 そう思いながら、あたしは毛繕いに勤しんだ。


 ***


「おねえちゃん、ボクと同じ白だね!」

「そうね」

「お名前はなんていうの?」

「ミミよ」

「ボクはソラだよ! よろしくね、おねえちゃん!」


 見に行くまでもなく、部屋を出たらちっこい毛玉が体当たりしてきたわ。


「トリマーB級に合格したので次のクラスに進学しました! なので、この前もお話しした通り、これからは自分の子でショーカットの勉強もすることになりました。一緒に病院にも通っていいって言ってくれて、本当にありがとうございます!」


 ソラノがみんなへニコニコしながら説明してる。

 で、連れてきたのがこの白いトイプードル。生後二ヶ月過ぎだってさ。次のクラスは自前でトイプードルを準備するのが決まりなんだって。


 なんでもここから先は、先生育成段階に入るみたいでドッグショーにも参加するそうよ。ハンドラーの資格も取ったみたいだけど、ほんとに大丈夫?

 あんたの目的ってなんだったのかしら? なんて思っちゃったわ。ま、やりたいならやればいいけどね。

 

「なんでもいいけど、もう少し離れなさいよ」

「うん! 遊ぼ!」

「ちょっと、聞いてんの? 離れなさい」

「うん! 遊ぼ!」

「取りあえず、鼻でつつくのやめなさいよ」

「うん! 遊ぼ!」


 こいつ!!

 飼い主に似るっていうけど、バカ女そっくりのバカ犬じゃない!!!


 部屋のすみに追いやれているあたしに気づかないバカ女を睨めば、幸せそうに笑った。


「空まで自由に駆け回っちゃうような元気な子に育ってほしくて、ソラって名前にしました!」


 あーそう。

 そういうことね。


「遊ぼ! 遊ぼ! 遊ぼ!」


 もう名前の通りのバカ犬ってことね!!!


「うっさいわ!!!」

「ひゃっ!」


 猫を舐めるんじゃないわよ!

 ちゃんとね、立場をわきまえなさい!


「あっ! ミミごめんね! ソラ、しつこくしちゃダメだよ? でもソラのことちゃんと教育してくれてありがとね!」

「びっくりした! 遊ぼ!!!」


 うわっ。

 なんなの、このバカ共は。

 教育はあんたがやんのよ、ソラノ!!

 それに、鼻ひっかいたのに笑ってんじゃないわよバカ犬!!


「「あっ、隠れちゃった」」


 当たり前でしょ!

 付き合ってらんないわよ!!


 ***


「遊ぼ?」

「あたしにその足が届いたらいいわよ」


 もう一週間経ったけど、バカ犬はずっと変わらない。今日もなにをしてもしっぽを振り続けてる。

 でもね、この滅菌の機械が置いてある棚の下には入れないでしょ?

 看護師達のたまり場にあるご飯の棚の下と違って、こっちはうしろが壁。だから届くはずないの。

 なのに、ずっとチャレンジしてくる。それも楽しいみたいで、飽きずにやってるわ。


「ソラ、猫みたいだね」


 バカ女!!

 来たと思ったら見てるだけなのやめなさいよ!


「ママ、届かないよー!」


 前足を一生懸命動かしながらバカ犬がバカ女に訴えてる。

 でもソラノはまず、あたしを覗き込んだ。


「ごめんね、ミミ。この子、ミミがすごく好きみたい。子供だから加減もできなくていやだよね?」


 わかってんなら、なんとかしなさいよ。


 どうせわかってもらえないって思うけど、目で訴える。

 すると、ソラノは笑った。


「だからね、猫パンチとか思いっきりやっちゃっていいからね!」

「なにするの? 思いっきり遊ぶの!?」


 そうじゃないわよーーーー!!!


 腹が立ちすぎてしっぽはビッタンビッタン鳴らしたし、威嚇もしてやった。

 なのに、バカ面がそろってニコニコしてるなんて、悪夢でしかないのよ!

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