癒しを求めて

 最近、ソラノがおかしい。


「ミミ、もう少しここにいてね」


 ソラノがお昼ご飯を食べ終わったら、いつもこう。

 抱っこされるのはもう慣れたわ。というか、諦めたわ。こういうの、大事よね。

 それなのに、なんなの?

 膝の上から降りないように、ソラノの両手があたしを囲んでる。


「あっ! でも昨日よりは長い……!」

「ソラノちゃん、よく頑張るね」

「だって、ミミともっと仲良くなりたいんですもん!」

「でもね〜、こうして誰かの膝の上にいるミミなんて見たことなかったから、もう充分仲良しだよ〜」


 はぁ?


 ひょいっと飛び降りれば、そんな会話が聞こえてくる。


 ハラノはなんでソラノを褒めてるの? 

 仲良くってなによ、イケノ。

 一番仲が良いのはセンセーだけだけど?


 そのうち飽きるでしょ。なんて思ったのが間違いだった。

 だって相手はソラノだもの。しつこいだけが取り柄のね!


 ***


「ミミー、ここ、気持ちいい?」


 そこ、そこよ!

 あごの下ってかゆいのよ。でも上手くかけないのよねぇ。

 はぁぁぁ……。


 ゴロゴロ


 じゃない!!


「あっ。のど鳴らしてくれたのにー」


 カッと目を見開いてパッと飛び降りる。

 危ない。あたしとしたことが!!


「ミミ、気持ちよかったね〜」


 イケノ、なに言ってるのかしら?

 あたしは優しいから、ソラノに触らせてやっただけよ?

 夏も終わったし、少しでもあったかい場所にいたいだけ。

 決して、ソラノの膝の上が気持ちいいわけじゃないのよ!!


 鼻をフンッと鳴らして立ち去る。

 未練なんてないんだから。

 未練なんて。


「ミャ」

「お部屋帰るの?」


 ほら、あたし達の関係はやっぱり先輩と後輩じゃない。

 最近あたしのひと声で、ソラノはキビキビ動くのよ。ようやく、後輩らしくなってきたわね。


 ***


「最新巻よかったですよ!」

「待って!! 絶対ネタバレしないで!!」

「わたしもまだ途中だから〜」


 あら?

 あらら?

 なんかうるさいと思ったけど、話に夢中であたしに見向きもしないじゃない。


 だからわざと、ソラノの足にすり寄る。それなのにこのバカ女、見もしないで頭だけなでるなんて!


「わっ! ミミ!?」

「ミャ」


 ほら、今日もやりなさいよ。

 先輩をいたわりなさい!


「ミミ、自分から乗ってきてくれたの!? 嬉しいー!」

「すごっ。ついに手懐けたね」

「ミミはずっとこうしたかったんだよね〜」


 はわわぁぁぁ……!

 耳のうしろとあごからほっぺ、どっちからもかいてもらうの気持ちよすぎるぅ……!


 ゴロゴロゴロゴロ


「かゆいところはありませんかー?」


 今のままで。

 今のままでいいから!


「これでいいっぽいですね」

「しっぽで返事してるじゃん」

「ミミ、すっごい幸せそうな顔〜」


 なんでもいいのよ。

 ソラノ、これからはあたし専属のマッサージ師に任命するわ!

 あんたの膝の上もあったかくてちょうどいいし。


「ずっとやらせてくれますね」

「あ、でもそろそろ……。ぷっ!」

「ハラノさん、笑っちゃかわいそうだよ〜。白目むくほど気持ちいいんだね〜」


 うっさいのよ、あんた達!

 あたしはどんな顔も綺麗なんだからぁ……!

 くうぅぅぅっ!!

 さいっこう!!!

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