目のやり場に困る

那須茄子

デカπ

 暑い。今日はやけに暑い。


 加えて、朝の坂道ラッシュに揉まれ、身体中至るところ汗びっしょりだ。


 こうして席に座っているだけでも、汗は止まってくれない。反射反応みたいなものだから、こればかりは仕方ない。


 「ったく。クーラーつけろよ」


 教室には一応クーラーは、設備されてはいるが。なにせ、まだ五月下旬。

 少々クーラーをつけるには早いとのこと(担任の長山がそう言っていた)。


 何をケチってんだか。

 はぁ。本当に────、


「頭から冷水浴びたいなぁ~」


 ..驚いたことに、俺と同じ思考の奴がいた。人のことは言えないが、かなり馬鹿っぽい発言だ。

 確か後ろの方からだよな?


 気になって、思わず後ろを振り返り──俺は見てしまう。

 一人の胸のでかい女子が制服をはだけている姿を。

 

「あっ、触りたい」


 ヤバいヤバい!!


 あまりの刺激に、欲望心がそのまま言葉に出てしまった。

 弁明しないと、変態野郎だと思われる。


「こ、これは!..気の迷いというやつで」


 これでは、余計に誤解をうむではないか!


「じゃなくて、その....」

「あぁ、いいよ。これ欲しいんでしょ」


 な、何を言い出すんだこの子。


 胸のデカい女子(名前が分からないから、とりあえずそう呼んでおこう。多分クラスメイトだとは思うが)は、斜め上どころか一回転回った謎言を言う。


 胸のどぎまぎが加速する。


 いや、俺これ期待してんのか。最低だな。

 だが、お年頃の性欲には逆らえない。


「はーい、どうぞ」

「じゃ、じゃ遠慮なく─────あれ?」


 手に渡されたのは、小さな駆動音が鳴る小型扇風機(所謂、手持ちタイプのやつ)だった。

 間違っても、俺の手の中にあるのは、柔らかいあの大きなものではなかった。


「遠慮しなくてもいいよ。私はもう一個持ってるし」


 こっちの意に反して、やはり斜め上な発言をする胸のデカい女子。


 俺は盛大な勘違い(胸ばかり見ていたが、どうやらこの扇風機で涼んでいたっぽい)をしていたようだ。


 恥ずかしさがこみ上げてきて、変な汗をかき始める。


 それにしたって、その姿は目のやり場に困るよな。


 困るには困るんだが、もっと見たくもあって──男としては当然の心理的葛藤な訳で──あれれ?


 身体目的じゃないか、それ?

 

 待て待て。

 俺めっちゃ最低だわ。


 .......いやいや、違う違う。


 俺は不純な動機で、あの胸がデカい女子が気になってるんじゃない。

 

 これは紛れもない────恋だ!

 

 単純にも、ちょっと優しくされただけで惚れてしまった。

 馬鹿野郎丸出しだよ、全く..。


「ねぇ」

「あっ、あ、何?」


 油断大敵とは正に、このこと。

 

 再び、あの胸と対面し──って、大きすぎて胸の方にしか焦点当たらねーよ。

 どういう現象なんだこれは。


「さっきからさぁ、私をじろじろ見てるよね。何か付いてるの? 視線的に身体の方なんだとは、思うんだけど」

「えっとそれは──」


 まずい。怪しまれてる。

 『君の胸に爆乳がついてるよ』とか、言えたものではない。


 どうしよう。


 何て返せば、いいんだ??



「──も、もうすぐ暑くなる季節だし....夏休みとか、一緒に近くのプールに行くのはどうかな~って思って......」

「ふーん。それって、遊びに誘ってくれてるの意味合いでOK?」

「あ、うん」

「なるほど..なるほど。いいよ」

「えっ本当に?」

「うん? 誘った人がそんなに驚くの?」

「いや、その断られるかなと思って」

「えへへ。私結構フレンドリーなんだよ。そういう、お誘いは大歓迎だから!」



 .....咄嗟に口から出した、出任せが。


 回り回って、なんか遊びの約束まで立ててしまった。


 素直に喜びたいところだが、なぜ水着が必須となるプールに誘った?

 狙ってなのか。だとしたら、俺は確信犯だぞ。


 やっぱり。


 俺は身体目的の変態野郎?


 いやいや、違う違う!


 何度でも言うが、これは紛れもない恋だ。


 間違っても、不純な動機ではない。


 はず、だ。



「──ねぇねぇ、楽しみ~。新しい水着買わないとだね」


 

 ........どちらにせよ、目のやり場に困るんだろうな..。

 



 






 

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