Episode1-2 〈青山透莉視点〉

『…別れたい。』

あれから一か月半経ち、もう数日もしないうちに夏休みだ。そう浮かれている時だった。彼女から来た連絡は別れ話だった。てっきり夏休みの予定を話し合うものだと思っていたのでショックが物凄く大きい。

「……えっと、何で。」

最近まで普通にメッセージのやり取りだってしているし、喧嘩だってしていない。

『んー、何かドキドキしなくなった?一緒に喋っていてもあんまり楽しくなくなった?みたいな感じ。ごめん、上手く伝えられなくて。こんな気持ちで夏休み一緒に過ごしてもなぁって思って。』

「……分かった、ごめん。でも、夏休み一回だけ会えないかな…今ちょっと混乱っていうか受け止め切れなくて。やっぱり会ってそういう話して区切りつけたいって言うか…。」

我儘なのは分かっていたが今ここで受け入れても完全に自分の気持ちが区切れないような気がして無理を言った。

『分かった、会えそうな日決まったら教えて欲しい。』

彼女は優しくそう言って電話を切った。心臓が大きく波打っている。だめだ、今日は何もできない。相部屋の大和に何も言わず俺は寝た。大和も何かを察したのか何も言ってこなかった。いつもなら友達を呼んで騒がしくしている俺達の部屋が、今日は大和の流すプレイリストの音しか響かない。

 俺は次の日の授業を全てサボった。大和も何も言わなかった。


 別れ話をされた夜から三日経ち、俺は気持ちの整理もつかないまま学校へ向かい、気の抜けたような身体で部活に向かい、夜は何もしないで寝るようなことを繰り返していた。何もやる気がわかないまま明後日から夏休みを迎えようとしていた。

「透莉、お菓子食べないか?俺一人だと甘いの食べ切れなくてさ。」

そして大和とまともな会話をするのは三日ぶりとなる。

「…良いよ。」

話し方も別人みたいで気持ち悪い。

「なあ、聞いてもいいか?」

「……。」

何も言わない俺をみてyesと受け取ったのかそのまま続けた。

「彼女と何かあった?」

「……。」

「…そっか。」

「…なぁ、俺の何が悪かったんだろうな。」

「さぁな、彼女がもしかしたら倦怠期かもな。乗り越える前に終わっちゃったのか。」

倦怠期…俺には数回訪れたことがあるが少し距離を置いてまた話してみれば何ら問題も無かった。彼女の倦怠期はいったいどうすべきか…そもそも別れを告げられた俺に何かできることなんてあるのだろうか。

「お菓子食べて寝るぞ、ただでさえ死んだ顔してんのに寝不足なんて上乗せできるかっ。」

「…うっす。」

彼女に会って何を語れば元に戻るだろうか。

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