第5話

巨大な扉型のゲートを潜り、ボスエリアに侵入する。

至る所に散らばる雑魚敵モブエネミー達の死骸・・・まぁこれは装飾品だが、それ自体が挑むボスエネミーの強さを保証している。


並の雑魚敵(それでも強い)に苦戦してるようじゃ相手にならない、と。

暫く歩みを進める内に、魔法陣のようなものが描かれた場所へ到着する。サイバーパンクの世界で魔法なんて不釣り合いだ。けどそれがこの世界の魅力だろう。


魔法陣を光が包み、陣をなぞるようにして赤い閃光が行き交っていく───そうして現れた敵は。


「ハハッ、来たか!」

「R U A A A Aッ!!」


男子ならみんな大好き、異世界ものの同人誌作品では引く手数多であり、ゴブリン先輩と肩を並べる性欲の長、『オーク』先輩である。

わかるよ、百合アニメにオークを登場させるなって俺も思った。

だがしかぁし!このオーク先輩は、主人公とヒロイン連中が攻略してる時にヒロインと主人公の距離を縮めてくれた、俺らの代弁者なのである。


「殺り合おうぜオーク先輩ィッ!」

『A A A A Aッ!!』


体長約五mにも及ぶオーク先輩が持つ武器は、俺の身の丈以上ある薙刀を振るってくる。そこに合わせてビームサーベルを迎え撃つと、身がひしゃげそうなると衝撃と重圧が身体を襲う。


カハッ、と肺から空気が漏れて力が抜けそうになるが、必死に耐えた。


───『気をつけてマスター!データベース上にない生き物だわ!』

「わか、ってるよ!!」


今発動してる【才覚】は『体幹強化』と『視覚強化』、そして『筋力強化』三つのフル稼働。『筋肉強化』でオーク先輩の逞しい筋肉とぶつかり合い、『体幹強化』で吹き飛ばされないように堪えて、『視覚強化』で素早い攻撃をいなす。

ぶっちゃけ【才覚】を取ってなかったら最初の突進でペシャンコになっててもおかしくない。


あとビームサーベル、ライト○ーバーとか馬鹿にしてごめん、めっちゃ強いわ君。


『O O O O O!!!』

「なっ!?ば、馬鹿力がよぉ!」


と思ったら、薙刀の叩き付けによってくの字にへし折れてしまった。お前やっぱりめっちゃ弱いじゃねぇか!!

攻撃手段を潰された俺は、へし折れたビームサーベルを再点火し直す。すると曲がった箇所が徐々に真っ直ぐになっていく。


───なんかチ○コみたいな戻り方するなこれ気持ちわるッ!

───『戻り方きっもいわねソレ・・・』

「U E E E ?」


ステータスどころか、オークにすらドン引きされる始末。高い買い物をしただけに“ちょっと”傷付いた俺は、オークの股間目掛けて真っ直ぐになったビームサーベルを投擲した・・・がハズレ。

上手いこと投げれずにあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。


あれ、もしかして詰み?


「 U R A A A A ! ! ! 」

「ちっ、次は外さねぇぞぉ!」

───『アンタ馬鹿ァ!?何してんの!?』


ソロ攻略で弱体化してるとは言え、ボスエネミーを侮るなかれ。急いでオークの間合いから引いた俺は、薙刀が四方八方から襲い来る中で投擲したビームサーベルを拾い上げる。

その背後では、オークが薙刀を凪いで迫って来ていた。


───この瞬間だ!


「【斬撃】ィィィッッ!!」

「 G  A A A A A ! ! ! 」


体格は二倍以上。筋力の差は更にその倍以上になる。

だが【斬撃】という才覚は、その差を諸共しないほどの攻撃力を誇る。

効果は単純で、“斬撃を飛ばす”というもの。


オークは飛んできた斬撃を横凪で押さえ込もうとするが、【斬撃】の効果は単純だからこそ輝く。俺はオークが斬撃を防いでる隙に、更に重ねて斬撃を飛ばした。


が、硬い皮膚に威力が減衰してしまったのか大した傷を与えられない。

これがサラカなら、【斬撃】に【絶対切断《In this world, there is only something that I can cut》】を乗せた回避不能な飛び交う斬撃の嵐、みたいな事だって出来てしまう。やっぱりアイツおかしいよ(白目)


「っくそ!有効手段がねぇ!!!」

───『相手はまだ元気じゃないの!諦めないで、死んだらミカに祟られるわよ!』


オークの攻撃を回避しながら斬撃を当てていくが、出来ていくのは小さな裂傷だけ。相手も消耗しているとはいえ、ジリ貧になりそうだ。

あんまり時間をかけるのは得策じゃない。


「 U O O O O O O ! ! ! 」


ちまちま削る斬撃に痺れを切らしたのか、オークが薙刀をブンブンと振り回す。オークから比べたら小さな俺とのリーチの差は圧倒的で、近づくことが難しい。


───逆に言えば、近づいてしまえば俺の領分だッ!!


「失礼っ!」

「 G A ! ? 」


長いリーチとは遠くから攻撃出来る反面、近付かれると長すぎるリーチが邪魔をして、近距離では上手く対応出来ない。

その差を生かして、薙刀による刺突を狙われたタイミングで横に回避・・・そのまま懐に潜り込んだ。


そして───土手っ腹にビームサーベルを突き刺した。


「なぁオーク先輩、我慢比べと行こうぜ」

「 U G A A A A ! ! ! 」


眼下で腹を突き刺す俺を見つめたオークは咆哮を上げ、両手を組み、そのまま俺の脳天目掛けて叩きつけた。

鈍い感覚とともに走る衝撃が、膝を地に付けようとしてくる。


それに必死で耐えながら、俺は斬撃を唱えた。

何度とも何度も何度も、気が狂いそうになるくらい唱え続ける。


「【斬撃】、【斬撃】、【斬撃】【斬撃】【斬撃】【斬撃】【斬撃】【斬撃斬】【撃斬撃】【斬撃斬撃】ィィィッ!!!」

「 U A A A A A A A A A A ! ! ! !」


轟く絶叫、劈く咆哮。

ゼロ距離での斬撃連発に対して、オークはゼロ距離での殴打による連撃。

今発しているのが俺の声なのか、はたまたオークの声なのか分からないまま、俺は依然と斬撃を放ち続けた。


オーク先輩にやられてる程度じゃ、俺はいつまで経ってもモブのままだ。


思うところはあった。アニメで何の出番もなかった俺が主人公に接触してしまったせいで、完成度の高かった物語が崩れてしまうのではないかと。


───そんなの、ちゃんちゃらおかしいだろ。


俺はモブだ。誰がなんと言おうとモブだ。

そしてこの世界は間違いなく『とある日常を願って』の世界だ。

もう一度言おう、ここは『とある日常を願って』の世界だ。


俺がいるのは、前世と違う世界で幻想アニメの世界じゃない、しっかりとした現実リアルなんだ。


だから俺みたいなモブが主人公を喰ったっていいし、やられ役が逆に倒してしまってもいい。

幻想アニメの世界だから、ミカや姉さんから愛されているトオル君が無様な死に様を晒していい?そんなことあっていいはずがない。


「なぁ、そう思うだろオーク先輩!!!」

「 A A A A A A A ! ! ! 」


ほら、オーク先輩も「嗚呼」って言ってくれてるよ。

でも名残惜しいかな、そろそろ終幕だ。


「【斬撃】ィィィィィッッッ!!!」

「 G A ! ? 」


ありがとうオーク先輩、やっぱりアンタ強敵だよ。お陰で吹っ切れた。

原作ブレイク?関係ないねそんなこと。俺は愛されているトオル君が死なないために動く。

そのためには主人公に負けない・・・いや、勝てる程度には強くならないといけないだろう。


となると、目指す目標が決まったな。


「じゃあな、オーク先輩。楽しかったぜ」

「 U A A A A A ! ? ! ?」


【斬撃】を叩き込み穴だらけになった腹を見つめながら、俺は再度【斬撃】を連続で叩き込む。だが決して俺も無傷じゃない。


───『肋骨にヒビ、あと頭蓋にもヒビが入ってるわ。肋骨に関しては二本も折れてるわよ・・・後がないわマスター。ここで仕留めなさいッ!』

「あぁ、勿論だ!」


肋骨やら背骨やら臓器やらが露出したオークの腹から、突き刺したビームサーベルを引き抜いた。

そして放つのは、俺を襲った怪獣に対してサラカが使った【絶対切断《In this world, there is only something that I can cut》】の真似事。

無様でとても見せたものではないが、俺に勝利を与えてくれる。


「GA・・・Aaa・・・」

「じゃあな、先輩───【一閃】ッ!」

───『いけぇぇぇぇっ!!!』


背骨を断ち切るように放つ横凪の一太刀。

主人公の真似後の一撃は俺の意思を汲んだのか、確かにオークの背骨を───穿った。


もう、咆哮は聞こえない。

俺はドサッと力なく倒れた。耳を澄ませば、自分の身体を血が巡る感触があった。心臓が脈動を促して、一つ一つ確かに鼓動する感覚があった。


だからこそ思う。


「あぁ、俺は生きてる」

───『〜〜〜ッ!!やった!やったわよマスター!未踏の階層で未知のボスを貴方は倒したの!人類史に残る偉業なのよ!』


ステータスは大げさである。俺は事前に情報を知っているのにも関わらず辛勝だった。


「ははっ、そうだなぁ。勝ったんだ俺」


でも小さな勝利でも、確かな勝利だ。喜んでもいいだろう。

俺は一頻り喜びをステータスと噛み締めて、のっそりと立ち上がった。そして、地面に落ちた大きな『才覚の導』を拾ってごくりと飲み込む。


───“オーク”の因子を獲得しました。【才覚】を発現します。

発現する【才覚】は以下の三つ(『斬撃強化』、『身体強化』、『斬鉄』)です。強化される【才覚】は以下の二つ(『体幹強化・中』『筋肉強化・中』)です。

独自才覚オリジナルスキル】の因子を獲得しました、取得致します・・・【一閃】を獲得致しました。


進化できる【才覚】があります、進化致しますか?───


大分【才覚】が強化されたようだ。進化できるというのは恐らく、【斬鉄】と【斬撃】が取得したからだろう。ともかく今は帰りたいから、進化は後でにしておきたい。


それよりも気になるのは、【独自才覚オリジナルスキル】だ。


「何だこれ、初めて見るんだけど」

───『私もよ。ステータス内のデータベースでも存在しない新たなスキルだわ』

「マジか・・・まぁ独自オリジナルって付いてるくらいだもんな」


主人公パーティでもそんな【才覚】持ってるやつはいなかったし、ちょっとワクワクしてきた。この確認も家に帰ってからしよう。

後はお宝探しだが、意外とすんなり見つかった。


「これだ、見つかって良かった」

───『それが探してたやつ?』

「あぁ。“歴覚刀【マサムネ】”・・・序盤じゃ重宝する刀だ」


歴覚刀【マサムネ】、またの名を鞘無サヤナシノ【政宗】

これは序盤で必ず手に入る刀で、柄の部分を握ると周囲の心の中が読み取れるというぶっ壊れ武器。しかも並の刀に比べて頑丈なため、折れることがないスグレモノだ。


これは後に主人公のヒロインが手にする刀だが、【天上の塔バベル】はお宝もエネミーと同じくリポップする仕組みなので、今俺が取っても問題は無い。


───『それそのまま持って帰るの?鞘がなかったら危なくない?』

「だと思うだろ?これを・・・こうすると!」

───『へ!?ちょちょちょ、死んじゃうわよ!?』


鞘が無いことを心配するステータスに、俺は自分の胸元へ【マサムネ】を突き刺した。慌てているステータスをよそに、どんどんと俺の胸元へ吸い込まれていく【マサムネ】。


「【マサムネ】は鞘無サヤナシだ。だからしまう時は胸元に入れれば勝手に入っていくし、取り出す時も胸元からグイッと取り出せる」


序盤の武器にしてはなかなかにお洒落な取り出し方である。

お陰で荷物も嵩張らないし、武器の検問がある場所でも容易に侵入出来てしまう。


───『す、凄いのねそれ』

「だろ?って、そろそろ戻らないとミカが心配だ」


目当てのお宝も見つけた俺は、ボスエリアの入口の扉を開けようと力を込めた。ボスはリポップまでに一日掛かるので、当分このエリアは安全だからだ。


そして、完全に扉が開いた瞬間。


「・・・は?」


俺は絶句した。

何せウチのメイドであるミカが───。


「あなた、私とお付き合いして下さらない?」

『いや、あの・・・その、困りマス』


主人公の“ヒロイン”に口説かれていたからである。

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