第4話

学校入学まで残り六日。

“災害対策委員会”に壊れた家の事を相談したところ、なんと一時間ちょっとで完全に復活し、なんならお詫びとして空間拡張までして貰った。


空間拡張とは文字通り、対象の空間を見た目以上に拡張することが出来る技術らしい。


「お陰でトレーニングしやすくなった、のはいいけど・・・」


正直あの主人公相手に、負けずに善戦するっていうのはめちゃくちゃ難しいと思う。だって成長能力が異次元だしアイツ。

どれだけ追い詰めても、戦いの中で成長してやがるッ!的な展開にしかならないだろう。


だとしてもボコボコにされるのは嫌だけど。


「取り敢えず、今入手出来る【天賦】をあらかた手に入れとくか」

───『あら、どうしたの・・・ですかマスター。あの人に触発でもされた?・・・ましたか?』

「今更敬語に治したところで遅いって。前の口調でいいよ」

───『ほんと!?ふふん、まぁそうよね!“今”のマスターならそう言ってくれると思ってたわ』


敬語じゃなくていいと言った瞬間にこの態度だ。

原作では主人公のステータスはもっと落ち着いた感じだが、普通は他人のステータスは、そいつ自身以外には聞こえない。


もし聞けるなら、俺のステータスも見習って欲しいものだ。まぁ、コイツのお陰で助かったんだけどな。


───『それで何だっけ、【天賦】のことよね?』

「あぁ、身に付けられるだけ身に付けたい・・・から、ちょっと付き合ってくれよ」

───【ど、どこによ?】


「決まってるだろ───【天上の塔バベル】だよ」


☆★☆★☆★


ザッザッザッと土を踏み締めて、少しの食料と荷物を抱えながら歩く。周りには鬱蒼と茂った雑木林や、せせらぐ川の音。そして動物の鳴き声が幾重にも重なって聞こえてきた。


「自然に溢れてるなぁ・・・」

『そうでスネ。特に植物はデータベース上でしか拝見したことがないので、とても珍シイです』

───『ねぇほらあれ見て、鳥よ鳥!サイボーグじゃない普通の鳥だわ!』


俺が今来てるのは、【天上の塔バベル】と呼ばれる“特殊建造物ダンジョン”の一種だ。全長数十キロmにも及ぶ高さと半径三km程の大きさを誇り、円柱形の構造をしていて、一つの階層事に一つの“世界”が広がっている。

ある階層は海が広がっていたり、ある階層は炎に包まれた土地だったりする。上には階段を用いて上がることが出来て、下りる際は【次元転移装置テレポーター】ですぐさま下ることができる。


現在の最新到達地点は十二階層らしいが、百階層あるのではないかと言う予想も建てられているくらい、“ルール”を知らないと攻略が難しい“特殊建造物ダンジョン”だ。


「・・・って、なんでミカは着いてきてるんだよ!」

『えェ、今更ですか?』

───『何ならこの子、マスターと一緒に出て来たじゃないの』

「そうだっけ?じゃ、じゃあ武器は持ってきたのか?」

『・・・?』

「俺が悪いの?今難しい質問したかな??」


なぜ家のアンドロイドミカちゃんは勝手に着いてきてるんですかねぇ、しかも武器も持ってないし。

最初からおかしいとは思ってたよ?

お見送りします!とか言って玄関まで付いて着た辺りは疑問に思ってなかった。そこから【天上の塔バベル】まで続く次元転移装置広場テレポートセンターところで「あれ?これ【天上の塔バベル】まで着いてくる気じゃね?」って思ったさ。


でも本当に着いてくると思わんやん普通。


「頼むから前に出るなよ?俺の後ろに居ろよ?怪我したら俺が姉さんに半殺しにされかねないからな?」

『勿論、存じアゲております』

「ならサングラス付けて、楽しむ気満々で来ないんだよ・・・」


ミカは何かが入った袋を手に提げながら、黒いサングラスを掛けて実に楽しそうに隣を歩いていた。ピクニックかな?(諦観)


挙句の果てにパシャパシャと写真を撮り始めたミカを他所に、俺は今回の目的を再度確認する。

俺が今いる階層は二十二階層。つまり、現在の最新到達点より十階層も高いことになる。まぁ、どうせ数ヶ月もすれば主人公陣営が【天上の塔バベル】を制覇するんだが、その前に入手しておきたい武器がある。


だが今回の目標はその武器だけじゃない。


「ッ!来たぞ、敵だ!!俺の後ろに隠れろミカ!」

『は、はい!』

───『早速ね。あれは半狼獣人『レギオール』、鋭い爪と硬い剛毛による防御の高さが厄介よ』


鬱蒼と生い茂る雑木林を進む中、黒い毛に覆われた人狼が木陰から姿を現した。身長は二m程度だが、露出している凶悪な大爪は当たったらひとたまりもない。

普通なら俺のような人間が挑める敵じゃない───が。


「ハハッ!上等だァ!!」

「ウラァァァァッ!!」


───今回の俺の主な目的は、パワーレベリングによる【天賦】の入手だ。


雄叫びを上げながら肉薄するレギオールに対し、次元転移装置広場テレポートセンターで購入した簡易光線剣ビームサーベルを取り出して応戦する。

くっそ高くて、“災害対策委員会”から貰ったお金をかなり消費してしまったのは言うまでもない。


「ガルラァァァアアアッ!!」

「っ、はえぇ!!」

───『マスター!右から攻撃来るよ!』


レギオールの凶爪による連撃。そのあまりの速さに腰がすくみそうになるのを堪え、ステータスの指示通りにサーベルを右に“ずらす”。

すると鋼鉄を弾いたような甲高い音が鳴り響き、完全に爪とサーベルが拮抗した。


俺の持つ簡易光線剣ビームサーベルは、某宇宙戦争に出てくるものとは違って何でも切れる訳ではなく、光を物質化させることによって切れ味を引き出している。

値段はピンキリなのだが、俺より遥かに格上のレギオールの攻撃を受け止められている時点でそこそこの性能だ。


───けどこれじゃ足りない。俺も武器も、全てが三流以下だ。


主人公サラカなら出てきた時点で切り捨ててる。ヒロイン達なら、レギオールが攻撃する前にぶっ倒してる。


「お前も可哀想だなぁ」

「グギィィィィ!?」


だから、心の底から憐れみを込めて俺はレギオールを見下した。

俺もコイツも、さして出番がないまま死ぬ身だ。その点で言えば共通点があるだろう。

しかし、決定的に違う点がある。


「俺はモブだが、お前と違ってアイツら主人公達の敵じゃねぇ」

「ガァァ?ッガガァァ!!?」


疑問符を浮かべるレギオールに回し蹴り。

体勢を崩して呆気ない声を上げたところで片足を切断した。骨を断ち、神経を裂き、筋肉を壊す感覚・・・不思議と嫌な感じはしなかった。

前世なら生き物を傷付ける感触に吐き気を催しそうなくらいだが、どうやら完全にこの世界に染まりきってるらしい。


「だからお前は───モブに殺されて死ね」


動けないワンコロに対し、心臓部にある魔核コアにサーベルをぶっ刺した。ワンコロは暫くじたばたと藻掻い後に、完全に絶命した。

倒せたようで一安心である。


『お見事でス!』

───『やるじゃないの、少し見直したわ』

「ツンデレかな?・・・取り敢えず倒せて良かったな」


死んだ影響でボロボロとレギオールの体が炭のように崩れ落ちていくのを見ながら、お目当ての物を探す。

すると炭の中からビー玉くらいの大きさの、翡翠色のガラス玉が見つかった。


「お、これこれぇ!ドロップしてて助かったぜぇ!」

『それはナンですか?』

「ナンじゃないぞ」

『・・・トオルさん?』

「じょ、冗談だって!そんなハイライトの無い目で見ないで!泣いちゃうよ!」


俺はミカにドロップした翡翠のガラス玉を見せた後、それを口の中に運び、しっかりと咀嚼する。ガリッと破裂する音が響くが、気にしない気にしない。


『ッ!?大丈夫ですか!?』

ふぁいふぉうふは大丈夫だ

『ほ、本当ですか?口の中からガリガリ音鳴ってマスけど・・・』


あぁ、と返事する前に俺の体に変化が訪れた。


───“レギオール”の因子を獲得しました。【才覚】を発現します。

発現する【才覚】は以下の三つ(『体幹強化』、『斬撃』、『受け身』)です。


「おぉ、キタキタ!新しい【才覚】じゃあ!」

『・・・トオルさんの様子がおかしい、これはやはり頭の病院に連れて行った方がいいのでは?』

「失礼な!さっき食べたのは『才覚の導』っていうガラス玉だ。普通ならそう簡単にドロップしないんだが、自分より強いエネミーなら確定で落ちる強化アイテム、みたいなやつだ」


そもそも、なぜ人が【天上の塔バベル】みたいな“特殊建造物ダンジョンに挑むのか。それはエネミーからドロップする『才覚の導』を目的としているからだ。

『才覚の導』は、【才覚】と呼ばれる【天賦】と似た物を入手出来るアイテムであり、STR筋力やらVIT耐久やらのパラメータが存在しない『とある日常』の世界において、極めて重要な強化アイテムである。


はい、分かります。

なんで【天賦】じゃなくて【才覚】を入手してるの?と言いたんでしょう?甘い、甘いねぇ君。


ここで裏技。【天賦】はくそほど努力重ねないと習得できないが、なんとエネミーを倒すことで入手出来る【才覚】を“統合”することによって、【天賦】を作り出すことが出来るのだ!


『強化アイテムですか?それを食べればトオルさんが強くなると?』

「そうさ。まぁどんだけ【才覚】を集めようと、まだまだサラカチーターを相手するのは役不足だ。ってことで、どんどん行くぞ!」

『は、はイ!』

───『なんかこの二人見るとムズムズするのよね・・・手でも繋いでくれたら盛り上がるんだけど』


テンションが上がった俺はミカを引き連れ、どんどん先へと進んでいく。途中に何度かレギオールと遭遇したがライトセ・・・じゃなくて、ビームサーベルの餌食となり灰になって消えた。

ドロップした『才覚の導』は食べ続けることによって、【才覚】の効力も少し上がるらしい。よって無駄にはならないのだ。


調子に乗った俺は、五時間掛けて二十二階を探索し終えた。

その結果───。


「やべぇ、食いすぎたかな・・・腹一杯だ」

───『考えなしに食べるからよ。一応ステータス表示しとくわね』

「た、助かる!」


ステータスに感謝しながら、獲得したスキルを確認する。


───《個体名:懋舞モブク トオル》 《年齢 15》

【識別ID:M08dd.esu】

《身長 1788mm》《性格 屑》 《体温:異常なし》《体調:異常なし》

天賦ギフテッド一覧】

・“気味の悪い微笑みスプーキースマイル

『気持ちの悪い笑み。笑みを浮かべるだけで対象は自身に対して、良い感情を抱かなくなる。確率で吐く』

・“吐き気を催す声ヴォイドヴォイス

『吐き気を催す声。話しかけるだけで対象は自身に対して、良い感情を抱かなくなる。確率で吐く』

・“路肩の石のような存在感モブモブモブ

『自身の存在感を無くす。対象に話し掛けるか微笑むことによって、このスキルは解除される』

才覚スキル一覧】

強化系

・体幹強化

・視覚強化

・筋肉強化

技能系

・斬撃

・受け身

・庇い立ち


倒した敵はレギオールが四体、初めてにしてはかなり上々だ。

強化系の方も技能系の方も満遍ないが、技能系は斬撃と未入手の斬鉄が習得出来れば、新たな《天賦》を入手できるはず。


『端まで来まシタが、どうしますか?また上の階層に行きます?』

「んー、そうしたいのは山々なんだけど、これ以上はギリギリになるからなぁ。お宝だけ取って帰ろう」


ここより更に上は二十三階になるが、先に言っておこう。あそこは魔境だ。

話を戻すことになるが、【天上の塔バベル】などの特殊建造物ダンジョンには、必ず一つルールが存在する。

ここ【天上の塔バベル】にも、設定資料集でしか知られていないルールが存在するのだ。それは、攻略している人数が多いほどエネミーの出現頻度、もとい強さが強化されるというもの。


逆に言えばソロや二、三人程度で来ればそこまで難易度は高くない。足りない攻撃力も、ビームサーベルを買ったことで保証されているしな。

あくまで俺の能力でいける限界が、二十三階なのだ。お陰で二十二階以下はパワーレベリングし放題である。


まぁ、大人数で攻略するのが当たり前な特殊建造物ダンジョンにおいて、数によって変動するタイプの【天上の塔バベル】は相性が悪いから仕方ないね、うん(白目)


『お宝・・・どんなのでショウ!楽しみです!』

「だろ〜!?因みに場所はもう把握してある!・・・あそこだ」

───『マスター、あの部屋ってもしかして』


「そう、ボス部屋だよ」


準備は万端だ。既にここのボスの正体は割れているし、お宝の在処も知っている。

あとは絶対に勝つ、という意気込みのみ。


「ミカ。ここで待っててくれ」

『っ、そうですね。私は足手まといになります』

「あぁ確かにそれもある。ボス部屋は一旦中に入ったら、中に入ったやつが死ぬかボスが死ぬまで、絶対に開かない」


もし万が一ミカも一緒に中に入ってしまったら、ミカを守りながらボスを倒さないといけない。女性一人守れないなんて情けない話だが、そっちの方が逆に難易度が高くなる。


「だからもし俺が死んだら───」

『何言ってるんですか。トオルさんは死にまセン!私が保証します』

「ははっ、随分と自信満々だな」


まるで事実のように話すミカに思わず笑みが零れた。


「でもそうだな。外に女性を待たせたまま死ぬなんてことしたら、姉さんに怒られる」

『えぇ、ですからお待ちシテおります』

「分かった。でも一応これだけ持っていてくれ、緊急脱出用キットだ」

『分かりました!・・・どうか、ご無事で』


俺が居ない間に敵に襲われる可能性も考慮して、ミカに緊急脱出用キットを持たせた。後は俺がボスを倒してお宝も手に入れれば万々歳だ。


「目指すは主人公に負けない一般モブか───いいね、燃えてくる」


モブだから勝てない?主人公相手だから負けるのは仕方ない?いいや、そんなのは言い訳だ。

俺は俺なりのやり方で主人公を超えてやる。


そのためには俺の踏み台になって貰うぞ、我が強敵ボスエネミー

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