第3話 映像
監視カメラの映像では、玄関から入ってきた被害者がホールでキョロキョロしている。そして座ってスマホをいじくっている女性を見つけて、何か尋ねていた。尋ねられた女性は、ある方向を指差した。どうやらどの受付窓口へ行けばいいのかを尋ねたようだ。
「午後1時13分に運転免許センターに入場しています」明石は捜査員たち全員に言った。「それ以降の映像をチェックしてください」
被害者の女性は受付を済ませると、さっきの女性のところへ戻って来て、何か話をしていた。それから二人で一緒に歩いて行った。映像を追跡すると、一緒に第1講習室に入っていったことがわかった。
「被害者の女性は1か月前から薄めのメイクに変えたということでしたが、この女性に影響を受けたと思われますね」
明石はまたちょっと考えてから、村川管理官代行に言った。
「免停食らってるのに車で来たりするやつがいますよね。そういうやつをチェックするために、駐車場にも監視カメラを設置していませんかね? もしそうなら、この女性が乗ってきた車のナンバーから氏名と住所を特定できると思うんですが」
明石はこの女性が怪しいと睨んだようだが、どうしてだろう?
運転免許センターの駐車場にも監視カメラを設置しているということだったので、再び捜査員が行って記録映像を持ってきた。
何台もの監視カメラ映像を追跡して、その女性が車で帰るところが確認できた。そして車のナンバーから、女性の身元が明らかになった。
その女性の名前は向井
「明石、彼女を疑っているのか?」
僕が問うと、
「この二人はとても似ているからな」
と明石は答えた。確かに似たような境遇ではあるが、それで疑わしいと言われてもなあ。
「だとしたら、動機は何なんだ?」
「それはまだわからないな。まあ、もしわかっていても言える段階ではないけど」
例によって、可能性がいくつもある段階ではまだ言いたくないか。
「それにしても、あまりにも境遇が似すぎていて、本当に二人は姉妹じゃないのかと思ってしまうな」
と僕が言うと、
「一応、戸籍上の両親は違うけどな」
と明石は戸籍謄本を確認しながら言った。
「もっともこれがドラマなら、実は母違いの姉妹だったとか、こじつけの設定にするんだろうけど」
それから明石は壁に掛かっている時計を見やると、
「今日中に解決して、犯人逮捕の記者会見を開きたいところだな。そのためには、すぐに突入する必要がある」
「突入って、まるで人質でも取られているかのような言い方だな」
「言葉のあやだ。村川管理官代行、彼女の家に行かせてください」
村川管理官は驚いていた。
「いや、怪しい点があるなら捜査員を派遣して確認するが」
明石はため息をついた。
「いいですか、向井日向の家は殺害現場からほど近い。もしどこの飲み屋でも彼女らの目撃情報が出なければ、彼女の家で飲んでいた可能性が高くなります。その上でカラオケにでも行こうと被害者を連れ出したとすれば、これは計画的な殺人ということになります。もしそうなら、僕は彼女に自首させるつもりです。その方が裏付けを取って逮捕状を請求するよりも、手っ取り早く事件の解決になる」
村川管理官代行は、困り顔になった。
「そうなると私の一存では・・・」
「わかっています。あなたの立場で決められることではないでしょう。捜査一課長、場合によっては県警本部長の判断が必要でしょうね。すぐに確認してください」
結局上層部のどの段階で判断したのかはわからないが、許可が下りたので、明石と僕は向井日向の家に向かった。明石が相当信頼されているのか、あるいは「事件の早期解決」という甘言に負けたのか・・・。
彼女の家はさすがに資産家の家らしく、見た目にも想像以上に大きかった。けれども彼女は、この屋敷にたった一人で住んでいるのか。
僕たちはその屋敷の
明石のスマホの着信音が鳴り、明石はそれに出た。
「はい、明石です。・・・そうですか、わかりました」
そう言って明石は電話を切ると、
「三上、いよいよ『突入』だ」
どうやら近くで待機している村川管理官代行からのゴーサインだったらしい。
明石はドアホンのボタンを押した。これはたぶん、こちらの映像が家の中のモニターに映し出されているんだろうな。
「どちら様ですか」
ありきたりな返答が返ってきた。
「明石と申します」明石は冷静な声で名乗った。「探偵のような仕事をしています。今日はあなたに自首を勧めに参りました」
おい、ちょっと待て明石! いくら何でもいきなりそれは・・・。
「何のことでしょうか」
一呼吸置いた後、彼女は落ち着いた声で答えた。
「悪い話じゃないと思いますよ」明石も負けじと落ち着いている。「私はあなたが殺人事件の犯人だと考えて、自首を勧めに来てるんです。誤解だというなら、反論してください」
明石は一歩も引かないつもりだ。その自信はどこから来るんだ?
門扉の留め金がガチャリと外れた。オートマチックだったのか。
「どうぞお入りください」
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