第7話 国営になっての問題点
カオリはそれから裏口に周り、買取窓口へと向かった。
「こんにちは〜」
カオリの言葉に職員たち全員が窓口の方を向き、カオリだと知ると
「おめでとうございます! 橘先生の奥さん!!」
「やりましたね! あのPV数はカキコム初の快挙ですよ!!」
などとタモツの事を祝ってくれて、カオリはとても感動したのだった。
「みなさん、有難うございます。主人にも必ず伝えますわ! きっと喜ぶ筈です!」
と言ったのだが、職員たちが手に手にタモツの書籍化本を手にして、
「大丈夫ですよ、奥さん。既に橘先生は私たちに昨日の約束を果たしに来てくださいまして、その際にお祝いのお言葉を贈らせて頂きましたので!」
とカオリに教えてくれた。
「まあ! そうだったのですね。それでもやっぱり主人には伝えたいと思います。有難うございます。では、失礼致します」
と買取りを頼むのを忘れて帰ろうとするカオリをそれまでニコニコと笑顔で見ていたゴウキが慌てて引き止めた。
「オイオイ、待て待て、カオリよ。お前ぇさん、買取品を持って来たんじゃねぇのか?」
ゴウキの言葉にピタッと止まり振り返るカオリ。そして照れ臭そうに笑いながら、
「そうだったわ、有難う、ゴウキのおじさん。思い出せて良かったわ」
と、てへペロして見せると職員たちから歓声が上がる。
「クッ、俺はカオリ様ファン倶楽部を作るぞ!」
「し、しかし、カオリ様は橘先生の奥様だぞ!」
「そんな事は関係ない! お前は推しが結婚したら推しを止めるのかっ?」
「た、確かにそうだなっ! それならばこうしよう! 俺たちは橘先生とカオリ様のファン倶楽部を作れば良いんだ!」
「「「それなっ!!!」」」
こうして、ちょうどその時にゴウキと話をしていて職員たちの話を聞いてなかったカオリの知らぬところで、買取窓口職員有志(ゴウキを除く全員)による、橘家を盛り上げようとするファン倶楽部、
【
タモツ要素が倶楽部名に何処にも入ってないと職員たちが気がつくのは立ち上げて2日後の事だったのは余談だ。
「それで、今回はどんだけ取って来たんだ? ああ、金なら心配いらねぇぞ。ゲンジが頑張って国から予算十五億をぶん取ったからな」
「まあ! やっぱりゲンジさんって出来る
「バッケやろーっ、カオリ。あんまり褒めるな。コイツは直ぐに調子に乗りやがるからな」
「おやっさん、そりゃないですって。俺も結構頑張ったんすよ。二十億は無理だったすけど……」
と少し申し訳なさそうに言うゲンジにカオリは癒やしの笑顔を向ける。
「ゲンジさん、とても頑張って下さって有難うございます」
ゲンジはこの時に心に誓った。『俺、次の交渉では国から五十億をもぎ取って見せる』と…… 『そしてもっと褒めて貰うんだ』と……
魔性の人妻カオリ…… 罪作りな女である。
「で、どんだけあるんだ?」
「うふふふ、今日はさすがのゴウキのおじさんでも驚いてくれると思うわ。先ずは
そう言うとカオリは昨日と同じように幽霊金をデスク計りに出す。その重量は21.083キロ。
「ケッ、15キロを想定してたから21キロ程度じゃ驚かねぇぞ、カオリ」
ゴウキのその言葉に妖しく微笑みながらカオリは宝箱から手に入れた
が、そこでカオリ自身が顔には出さずに驚愕していた。何故ならば、金塊を1つ置いただけでプラス10キロの表示が出たからだ。
『あれ? 確かゴースト系低級ダンジョンの攻略報酬で出る金塊って1本2キロだった筈よね?』
カオリは知らなかった。この5年間、誰一人として攻略されなかったFランクダンジョン【イノゲゴースト屋敷】は、攻略報酬のキャリーオーバーが出ていた事を。
顔には出さないで残りの4本もデスク計りに乗せたカオリはチラッとゴウキとゲンジを見てみると、2人とも目玉が飛び出るほどに目を見開いていた。
「カッカッカッ、カオリよ…… 一応聞いとくがお前ぇさん、もしかして【イノゲ】を攻略してきたのか?」
何とか声を絞り出してそう聞くゴウキにカオリは困ったような笑顔で答えた。
「うん、そうなの。ダメだった、ゴウキのおじさん?」
デスク計りに表示された重量は71.083キロ。買取価格は106,624,500円で、5%が税金として取られても、101,293,275円。一億円超えである。
「いや、ダメってぇこたぁねぇが…… お前ぇさんのこった、ゴッズとスターも取って来てるんだろ? おい、ゲンジ、この
「分かったわ、おじさん」
ゴウキに言われて
計りの表示が100キロを超えた時にゴウキがカオリを止めた。
「あ〜…… カオリよ。済まねぇがそこまでだ。それ以上は金が足りねぇ……」
「えっ、そうなの? でも
「ちげぇよ、ゴッズの買取価格はグラム12,000円に上がってるんだ。だからお前ぇさんの今出してる100.025キロで買取させてくれ。それで、5%引いた金額が1,140,285,000円で、先の
「エエーッ、そんなに上がってるのね、
カオリが驚きながらそう聞くと、ゴウキは、
「ああ、逆に
と教えてくれたのだった。続けてゴウキはカオリに聞く。
「で、後どれぐらいあるんだ? ゴッズは?」
問われてカオリは正直に言う。
「えっとね、ここに出してるやつの倍ぐらいかな?
聞いたゲンジは更に心に誓った。
『カオリさん、俺が次回は百億を国からぶん取って見せます!!』
「かあーっ! 全く、現役時代よりも規格外になっちまってるじゃねぇか! だけど、【イノゲ】を攻略しちまったか…… 国から横槍が入りそうだな……」
少し心配そうにそう言うゴウキ。訳が分からないカオリはゴウキに聞く。今日はまだ2時間以上時間があるから話を聞けるのだ。
「おじさん、私には訳が分からないから詳しく教えてくれる?」
ゴウキは時間は大丈夫かと聞いてカオリが頷いたのを見て話を始めた。
「まあ、先ずは5年前に国が探索者協会に何癖をつけて行政指導という名目で介入してきたのはカオリも聞いてるな。で、だ、その時に色々と国の運営陣がやらかしたのも少しは聞いてるだろ? 税金の事とかスキルの事とか。実際にはそれだけじゃなくて、その時からジョブなんてもんまで決め始めてな。ああ、カオリは新規登録でも復帰組だからジョブなんて決まってねぇだろ? それも今いる探索者たちが頑張ってくれてな、復帰組の奴らにはジョブなんて要らないって国に要請してくれたんだ。で、問題は国の運営になってから探索者になった奴らでな。ソイツらの中にも優秀なのは多く居るが、ジョブなんてもんが出来た為に自分たちはコレが出来て、コレは出来ないなんていう制限を設けてやがるんだよ。まあ、国から来た指導員がそういう風に指導してるのもあるんだがな。例えばカオリはゴースト系を倒す時には聖属性のスキルを使用してるだろ? でだ、例えばだが、ジョブが僧兵の奴も聖属性のスキルを持ってるんだが、指導してる指導員の教えが僧兵とは槍や薙刀で戦う僧侶の兵だなんて教えるもんだから、スキルを使用しやがらねぇんだ。それなら、聖女とか、聖騎士なんてジョブはって思うだろ? 聖女は癒し手だから戦闘なんて出来ないとか、聖騎士は神の騎士だから巨大な悪に対抗する者だとかなんとか…… 今や誰もFランクダンジョンのゴースト系を攻略出来ないのが現状なんだよ…… そんなに笑うなよ、カオリ。結構深刻な問題なんだぞ。げんにお前の同期のテツヤとヤヨイは他所の低ランクダンジョンの氾濫を抑える為に出張ってるんだからな。アイツら夫婦はS級だからよ。自分たちの稼ぎだけじゃなくて国から給料も出てるもんだから、国からの強制依頼を仕方なく受けてるんだよ。ん? 何で国からの給料を受け取ってるかって? そうしなきゃ日本のダンジョンに潜らせないって決まりが出来てやがるんだ。全くもって馬鹿な話だろう? それを決めたのが王名寺財閥を主体とする財界人と癒着してる政治家と官僚どもだよ」
とそこで一旦言葉を切ったゴウキは意味ありげにカオリを見る。
「何かしら、ゴウキのおじさん?」
カオリはゴウキの視線の意味が分からずに素直にそう聞いた。
「かぁ〜、その様子じゃカオリよ。お前ぇさん、自分の実家の事については何も知らねぇらしいな」
「私の実家? 私の実家は今は兄夫婦が両親と一緒に生活してるわ。弟夫婦は隣の州に引っ越ししたけど、車で30分ほどの距離だし」
的外れなカオリの言葉にゴウキは悩んだが、それでも頼れるのはカオリしか居ないと思い、口を開いた。
「カオリよ、お前ぇさんの実家は元を糺せば
そこで言葉を切り茶を一口飲んでゴウキは再び喋り出す。
「そもそも、昔は県で分けられてたのに、何故州なんて名前にしたのかカオリは知ってるか? 全てはアメリカかぶれの官僚どもの策略で、それに乗っかった政治家と財界人どもの所為なんだよ。俺が子供の頃は四国は愛媛県、香川県、高知県、徳島県の4県だったが、カオリが産まれた時には伊予州、讃岐州、土佐州、阿波州となってただろ? アメリカにならって州にしたって言ってるが、アメリカの州ほどの権限も与えねえで何が
と長々と説明をされたがカオリにはまだ分からない。
「うん、ゴウキのおじさんの言ってる事は分かるんだけど、それと私が国から横槍を入れられるっていうのが繋がらないんだけど……」
「今は国の運営陣も失敗したと気がついてやがるんだよ。
「あら? それは困るわ。子供もまだ低学年2人だし、まだまだタモツさんと3人目も計画してるし、私は家の事もちゃんとしたいし、探索は生活費を稼ぐ為だけど、楽しんでるのもあるし…… ねぇ、そんなの困るわ、ゴウキのおじさん」
と、心底困ったように言うカオリに、ゴウキは
「だから、お前ぇさんの実家の、
とカオリに言ったのだった。
「えー、でも、天煌家のリョウちゃんにそんな力があるのかしら? いっつも私の後を『ネーたん、ネーたん』って言ってついてきてたあの子に」
「って! カオリ、仮にも天煌陛下をリョウちゃん呼びは不味いだろうよ!」
慌ててゴウキがそう注意するが、カオリはのほほんと
「大丈夫よ〜、おじさん。私たち兄弟はちゃんとリョウちゃんから御免状を貰ってるんだから。いつ如何なる時でもリョウちゃん呼びをしても不敬にならないのよ」
そう言ったのだった。
だったらさっさと頼れよとゴウキは思ったが、カオリはやっぱり天煌陛下にそこまでの権力があるのか不安視していた。が、
「カオリよ、天煌陛下は庶民に絶大な人気を持ってらっしゃる。あの方が一言いえば国民はみんな賛成するぞ。それだけのカリスマをお持ちなんだよ。だから政治家どもはなるべく表舞台に出てこられないようにしてるんだが…… だけど公式行事には必ず参加なされるだろう? その時に一言物申していただければそれだけで風向きがいい方向に変わる筈なんだ」
とのゴウキの言葉に
「ふ〜ん、あのリョウちゃんがねえ…… 分かったわ、ちょっと今晩にでも電話してみるわ」
と半信半疑ながらも了承したのだった。その時は、リョウちゃんへの電話1本で国からの嫌な横槍が無くなるなら軽いものだとカオリは楽天的に考えていた。
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