第6話 本日も稼ぎます!
その日、夫婦2人は身体ではなく心で絆を確かめあった。
「よし、予約投稿、完了! 第1話が午前0時に、第2話が午前3時に、第3話が午前6時に、第4話が午前9時に、第5話だけ少し間を開けて午後12時に。初日に5話を一気に投稿して、翌日からも5話ずつ投稿するぞ!! さあ、読んで貰えるかな? 大丈夫かな?」
タモツの弱気な発言は午後23時30分に始まり、横でカオリはそんなタモツを励ましていた。
「大丈夫よ、あなた。きっと沢山の人が読んでくれるわ。ゴウキのおじさんや職員の人たちだってきっと読んでくれるから!」
カオリの言葉にタモツは弱々しい笑みを浮かべながらも感謝の言葉を口にする。
「うん、うん、そうだね。カオリ、有難う…… 僕はもうお風呂に入って寝ることにするよ。朝、起きてから確認してみるよ」
「まあ、それじゃ、私も一緒に入るわ! 背中を流してあげる!」
カオリは気弱になっているタモツを励まそうと出来る事は何でもするつもりでそう言った。タモツもカオリのその言葉に少しだけ気を取り直して言う。
「そうかい。それじゃ、お願いしようかな? いいかな、カオリ?」
「勿論よあなた。疲れた夫を癒やすのは妻の役目なんだから!」
そうしてイソイソと2人は脱衣所に向かいすっぽんぽんになって風呂場に入った。風呂場は大人2人でも余裕がある造りで、椅子に腰掛けたタモツの背中を優しい手つきでカオリが洗う。
その手つきにウットリしながらタモツは気になっていた事を聞いてみた。
「そう言えばカオリ。聞くのを忘れていたけど、今日の探索は上手く行ったのかい?」
「あら? そう言えば伝えるのを忘れてたわね、あなた。ええ、とても上手くいったのよ。うふふふ、
「ええーっ! それは凄いね!
そう、タモツはちゃんとゴウキがカオリを呼ぶ時に言っていた【ラッキースター】という二つ名を覚えていたのだ。
「やだわ、恥ずかしい。
「勿論だよ、カオリ。でも僕にとってはカオリは本当にラッキースターだよ」
そこでタモツは後ろを向いて軽くカオリに口づけをする。
「ん、もう、あなたったら。照れるじゃないの。あら? ここもこんなに元気にさせて…… うふふふ、その気になったならもう大丈夫ね」
「カオリ……」「あなた……」
しっぽりと2回戦を繰り広げたスキ者夫婦だった…… 因みにお風呂場と夫婦の寝室は防音仕様となっている。
風呂から出た2人は寝室に向かい、ベッドに入る。そこで今度はカオリが気になっていた事をタモツに聞いた。
「あのね、あなた。ゴウキのおじさんが言っていた王名寺勇次さんっていう人と何があったか構わなければ教えてくれる?」
カオリの問いかけにタモツは少し悩んだ末に口を開いた。
「うーん…… 実は僕もその名前を聞いた時にはピンときてなくて…… で、後で考えてみたら同業者であるオージュウくんの事だろうって見当をつけたんだ」
「オージュウさんってあの新進気鋭って言われてるラノベ作家さんよね? その人と何か揉めたの?」
「うん、カオリも知ってる通り僕の唯一やってるSNS【ぼやキーノ】でね、貴族の爵位である公爵位についての解釈でオージュウくんから意見があってね。僕はそれは間違いだよってできる限り穏やかな表現を心がけて反論を書いたんだけど、どうやらそれでも彼は気に入らなかったみたいでね。そこからブロックされて、まあ僕も気にせずに放っておいたんだけど、僕のフォロワーさんが教えてくれたのは、どうやら【ぼやキーノ】だけじゃなくて他のSNSも使って僕の悪評を流してるそうなんだ。考えてみたら出版社からの依頼が来なくなったのもその頃からなんだよね。彼のペンネームから王名寺財閥に繋がりがあるって思いついたのはおやっさんが教えてくれた今日なんだけどね。僕は鈍いから気がつくのが遅くて…… ごめんね、カオリ。苦労をかけて」
タモツの言葉にカオリはオージュウに憤りを感じたが、それを言葉にはせずに優しくタモツに言う。
「うふふふ、あなた。私は苦労だなんて思ってないわ。むしろこれまであなたにおんぶに抱っこされてただけなんだから。夫婦ならば困難を一緒に乗り越えていかなきゃダメでしょ。今、私はとても嬉しいのよ。こうしてあなたを支えていけるのが」
「カオリーっ!」
「あなたーっ!!」
うん、もう何も言うまい……
3回戦を致して眠りについた夫婦を翌朝、嬉しい驚きが待っていた。
カオリは朝6時に起きてタモツや子供たちの為に朝食の準備をして、朝、7時に子供たちとタモツを起こしに行く。
子供たちは眠い目をこすりながら起きてきて朝食を食べ、学校に行く準備をして7時半に家を出た。
タモツは朝食を食べた後に1人でシャワーを浴びてからPCを立ち上げた。
ゴクリと生唾を飲み込んでから、webサイトカキコムにログインする。ワークスペースに飛ぶとそこには驚きの光景が目の前にあった!!
「カッカッカッ、カオリーッ!! ちょっと来て! 見て! 僕の目が狂ってる訳じゃないよね!?」
タモツの叫び声に洗い物をしていたカオリがエプロンで手を拭きながら書斎に入ってきた。
「どうしたの、あなた。朝から大きな声を出して。って、まあ!! 凄い、凄いわ!! あなた!! やったわねっ!!」
PCの画面をのぞき込んだカオリはそうタモツを褒め称えた。画面上にはタモツの新作小説をフォローしたフォロワー人数と、読んだ人の数が表示されている。
フォロワー20,285人 総PV87,692
応援コメント8,675 ★総数60,855
まだ3話しか投稿されていないのにも関わらず、これだけの数が目の前には表示されていた。カオリは嬉し泣きをしながら呆然として椅子に座っているタモツの頭を胸に抱きかかえた。
「あなた、おめでとう。こんなにも沢山の人があなたの新作を読んでくださるのよ! こんなに嬉しい事はないわ!! さあ、あなた、応援コメントにちゃんと返信しなくちゃ。中にはアンチなコメントもあるでしょうけど、紳士な対応で返信してあげたらいいわ! これからまたあなたの活躍が始まるのよ!!」
頭をカオリの豊満な胸部装甲に抱きかかえられながらタモツもやっと正気に戻り、カオリを抱きしめて泣いてる顔を見られないようにしながら宣言した。
「うん、カオリ! 僕はやるよ! 今日からバリバリ書くよ!! この新作【異世界の古語が日本語だった】に続いて、今思いついてる話のプロットを作成して、新作を書き始めるよ!! ウウッ、ウゥッ」
カオリはそんなタモツの頭を優しく撫でながら、
「頑張ってね、あなた。私も頑張るから」
と優しく言うのだった……
30分後、タモツに行ってきますと言って家を出たカオリは昨日に引き続いて【イノゲゴースト屋敷】に来ていた。
カオリの顔は気合が入っている。
「タモツさんがあんなにも頑張ってるんだから、私も頑張らないと!! 今日は攻略までしちゃいましょう!!」
そう独りごちたカオリはその美しい顔をキッと引き締めてFランクダンジョンに入っていった。
1階ではさっそくゴーストが群れてカオリに触れようと向かってくる。ゴーストに触れられると2〜3回ならば少し背筋が寒くなる程度で済むが、10回、20回となると動くのも無理なほど気力がなくなってしまう。
そんなゴーストを相手にカオリは
すると癒やしの効果が阿守羅に伝わり、聖なる力を宿すのだ。
その阿守羅をゴースト相手に振り下ろすカオリ。斬られたゴーストは穏やかな笑みを浮かべ、有難うと言いながら昇天する。後にはドロップ品である
1階のゴーストを全て斬り、昇天させてカオリは2階に上がる。屋敷に入ってからまだ10分も経ってない。2階ではゴーストに混ざってレイスも現れる。しかし、カオリのやる事は1階と変わらない。
全てのゴーストとレイスを斬り、落とされた
そして3階に向かうカオリ。
3階に居たのはグールとスケルトンだ。ここでカオリはスキル【金剛力】を発動する。ひと振りで5体のグールとスケルトンを破壊し、殲滅していく。
残念ながらドロップ品はスケルトンの持つ剣だけなので、それは拾わずに4階へと向かうカオリ。
スケルトンの剣は買取価格が1本200円なのだ……
4階ではレイスが再び現れる。が、カオリの敵ではない。アッサリと殲滅された。
そして5階に上がると待っていたのはスケルトンウォリアーだ。だが、しかし…… カオリに瞬殺されてしまった。
カオリはスケルトンウォリアーが落とした剣には見向きもせずに奥の宝箱に向かう。
因みにスケルトンウォリアーの剣は買取価格300円だ。
「ふふーん、何が入っているかしら?」
カオリはワクワクしながら宝箱を開けた。中に入っていたのは……
「ヤッター、当たりよ!!
ホクホク顔のカオリだった。イノゲゴースト屋敷攻略者の証がカオリの探索者証に記録される。
ソロで攻略なので自動的にカオリのランクがF級からE級へと上がった。
それを見たカオリは
「うふふふ、これでEランクダンジョンに行けるようになったわね。また近くのEランクダンジョンを調べなくちゃ」
と嬉しそうにいい、イノゲゴースト屋敷を出たのだった。
因みに攻略されたからといってダンジョンが無くなる訳でなく、24時間後にまたダンジョン内にモンスターたちが復活するようになっている。
カオリは時間を確認してまだ11時になってないので、そのまま探索者協会へと向かった。
すると何やら探索者協会が騒がしい。この時間ならば大抵の探索者はダンジョンに出かけている筈なんだけどと思いながら何があったのか知るために中に入ったカオリは目を見張った。
そこには登録日にカオリをナンパしようとしたD級パーティーのビッグ・マグナムの面々がフルチンで縛られていたのだ。
周りの男性探索者からは嘲笑を浴びて、女性探索者からは悲鳴を浴びている。
カオリは平然とした顔でそこに居た探索者を捕まえて聞いた。
「あの、あの人たちはどうして下半身丸出しで縛られてるんですか?」
聞かれた探索者は聞いてきたのがとても綺麗な女性だったのでギョッとしたが、それでも親切に教えてくれた。
「あっ、ああ、アイツらは昨日、Fランクダンジョンで女性パーティーに無理やり迫り、その最中にイレギュラーが出たのだが、倒せる腕がありながら女性パーティーを置いて逃げたんだそうだ。偶々そこに居合わせたA級探索者がイレギュラーを倒して事なきを得たようだが、アイツらのやった事は許される事じゃないと、探索者法に則ってこうして罰を受けてるんだ」
カオリは自分が引退している間にそんな法律が出来たんだと知れて良かったと思い、質問に答えてくれた探索者に丁寧に礼を言った。そのままミズホを見つけたのでそちらに向かうと、カオリを見つけた罰を受けてるケント、マサト、ハヤトの3人が悪びれずにカオリに声をかけてきた。
「よお! お姉さん! どうだい! 俺のマグナムは! このマグナムでヒイヒイ言わせてやろうか?」
本人たちはマグナムだと信じている……
しかしカオリは平然とした顔で言った。
「あら? ウチの小学1年生の長男よりも慎ましやかなソレがマグナムなら、ウチの息子のはライフルって事になるのかしら?」
その言葉にその場にいた全員が盛大に笑いだした。
「ブワーハッハッハー!!」
「ヒィー 小1よりも慎ましい」
「俺をヒイヒイ言わせるなんて!!」
屈辱に身を震わせる3人だが、縛られている為に何も出来ない。だが3人の心の中ではカオリを襲う事が決定していた。
それを知る由もなくカオリはミズホのところに行き、イノゲゴースト屋敷を攻略した事を報告して、探索者カードを見せた。実はこれも近年では異例の事で、F級探索者がソロでFランクダンジョンを攻略したのは国営になって初の事であった。しかし、ミズホはここで騒ぐ事はせずに後で金曜日にカオリに伝えようと思いこの場では黙っていたのだ。
カオリが攻略した事を報告したのは、協会のPC端末にも間違いなく記録されているかの確認の為である。そんなカオリにミズホが先ほどの事を注意する。
「カオリさん、気をつけてね。アイツら、この後に留置場に入るけど、3週間ほどで出てくるから…… さっきのカオリさんの言葉は逆恨みされてると思うから、身辺に注意するのよ」
ミズホの注意にカオリはホンワカ笑い、
「ええ、勿論よミズホちゃん。気をつけるわ」
と言ったのだが、ミズホはホントに分かってるのかと心配になり、その夜にまたミチオに相談するのだった……
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