第4話 ゴウキのおやっさん
カオリは午後1時15分にFランクダンジョン【イノゲゴースト屋敷】から出てきた。
「うふふふ、やったわ。
いや、普通にカオリの実力である。
「アラ、そんな事を考えてたらもうすぐタモツさんとの約束の時間になっちゃうわ。早く行かないと!」
そう呟き、カオリはスキル【加速】を使用して探索者協会まで走るのだった。探索者協会の前に着くと既にタモツは来ていたようだ。
キョロキョロと辺りを見回しては直ぐに顔を伏せている。
そこに近づきカオリは言った。
「あなた、ゴメンなさい、遅れてしまって……」
シュンと項垂れた様子のカオリにタモツが慌てて言う。
「違う、違う、カオリ。遅れてなんかないよ。ほら、まだ1時25分だから。僕が早く来すぎただけなんだから、謝らないで」
タモツの言葉に笑顔になりカオリは言う。
「うふふふ、やっぱり優しいのね、あなた。あなたを待たせた私を気遣ってくれるなんて。子供たちが帰ってくるまでに家に戻らないとダメだから、早速いきましょう!」
そう言って協会の裏口に向かう夫婦。
買取窓口に行き、カオリはそこに居た職員にこう言った。
「こんにちは、ゴウキのおじさんは今日も来てますか?」
10人中10人が綺麗だと認めるカオリは自分の笑顔の力を知らない。問われた職員はカオリの顔を見つめて動かない……
「あの〜?」
動かない職員にカオリは言うが、コレではダメだとタモツが前に出た。
「あの、こんにちは。妻がいきなり失礼しました。ゴウキのおやっさんは居られますか?」
そこで普通人の顔のタモツを見た職員はハッと我に帰り、タモツに向かって返事をしてくれた。
「あ、は、ひゃい! ゴウキのおやっさんですね、少しお待ち下さいね」
そう言って奥に向かう職員。奥から職員がゴウキに向かって言ってる言葉が聞こえてくる。
「おおおお、おやっさん!! とっても綺麗な奥様をお連れしたご主人様が、おやっさんが居ますかって聞いてきてますけど、どうしますか? 俺的には会った方が良いと思うんですけど、おやっさんが面倒なら居留守を使いますか?」
奥の扉を開け放って聞くものだから丸聞こえである。そこにカオリが声を張ってゴウキを呼んだ。
「ゴウキのおじさーん! お久しぶりでーす! 会いにきましたよーっ!!」
その声が聞こえたゴウキは職員に言う。
「お前ぇな…… せめて戸ぐれぇ閉めておけよ…… はあ、忙しいのになぁ…… まあ、俺を名指しで呼ぶって事と、おじさん呼びするって事はヤヨイか? ヤヨイだな…… ヤヨイなら仕方がねぇな。行くよ」
地声の大きいゴウキの声ももちろん丸聞こえだ。その言葉にカオリは嬉しそうにタモツに言う。
「良かった。あなた、ゴウキのおじさんが言ってるヤヨイって私の同級生のヤヨイちゃんだと思うわ。まだ探索者を続けてたのね」
「そうなんだね、カオリの同級生なんだ。凄いね、探索者をやり続けているなんて」
夫婦2人がそんな会話をしているとゴウキが奥の部屋から出てきて、ボヤきながら歩いてきた。
「全く、テツヤにヤヨイよ、帰ってくるなりな、ん…… ん? その顔、お前ぇさん!! カオリかっ!? ラッキースターのカオリかぁっ!! その隣は、お前ぇさんは!! タモツじゃねぇかっぁっ!! オイオイ、お前ぇさんらが夫婦かっ? 本当かっ? えっ、カオリよ、何でだ? 引退したんだろ? タモツも今は小説家としてやってるだろ? どうしたんだ、2人とも?」
ゴウキが顔を綻ばせて2人に詰め寄る。カオリはそんなゴウキを見ながら言う。
「うふふふ、ゴウキのおじさん。ウチの主人が小説家だって知ってくれてて有難う。それと、私は昨日から
「ウオオーッ、マジか? カオリ、ホントに復帰したのか? ヨッシャーッ! お前ぇら、コレでこの支部の素材買取部は他所の支部よりも発言力が強くなるぞっ!! これから気合い入れていけよーっ!! 色んな素材が持ち込まれるからなっ!! 特にゲンジ、お前ぇさんは特に気合い入れろよ!」
そんなゴウキの言葉にニコニコするカオリと肩身が狭そうなタモツ。そんなタモツを見てゴウキが言う。
「それで、タモツも復帰するのか? お前ぇさんなら大丈夫だが、せっかく小説家として頑張ってるのに勿体無いだろうよ?」
ゴウキの言葉にタモツは恐縮しながらも否定する。
「いや、おやっさん。僕は復帰しないですよ。妻が、カオリがおやっさんがまだ居るって教えてくれたので、お世話になったし夫婦になってる事を報告しようと思ってカオリに着いてきただけです」
「そうか…… そうだな。優しいお前ぇさんには探索者は向かねえしな。それに、お前ぇさんは今は辛い時期だろうけど、近いうちに新作を出すんだろ? その新作は売れるよ。今の状況は長くは続かねえ。
そう言ってゴウキが振り向くと職員一同(9名)が手に手にタモツの唯一の書物を手にして、
「橘先生!! サインをお願いしますっ!!」
と頭を下げてきたのだ。それを見たタモツは泣きそうな、でも嬉しそうな顔をしてみんなに言う。
「み、皆さん、有難うございます。サイン本は明日まで待ってもらえますか? 必ず明日、持ってきますので…… カオリ!」
「はい、あなた?」
「僕は先に帰ってもいいかな? 今すぐ新作を書き上げて、明日の午前0時に第1話を投稿したいんだ! こうして待ってくれてる読者の皆さんの為に!!」
「勿論よ、あなた! 頑張って!!」
「それでは、妻の許可も出たのでおやっさん、皆さん、今日は僕はコレで失礼致します! 明日の午前0時より新作をアップしていきますので、よろしくお願いしますっ!!」
1礼して走って去っていくタモツを見送り、カオリがみんなに頭を下げた。
「皆さん、主人に元気を下さって有難うございます!! お陰様で昔の主人に戻りましたわ!」
目尻を少し光らせながらお礼を言うカオリに照れたようにゴウキが言う。
「よせやい、カオリ。アイツの実力だよ! それよりも、今日は素材があるのか?」
「うふふふ、勿論よ。ゴウキのおじさん、私が手ぶらで来るわけないでしょ」
「そうか…… よし、カオリ。そっちの扉から中に入ってくれ。ゲンジ、応接するぞ」
「は、はい、おやっさん」
ゴウキに言われて中に入ったカオリはゲンジに案内されて個室に通された。中にあるソファに座るように言われて座ると、対面にゴウキとゲンジが座る。
「お前ぇさんが復帰して、最初に持ってくるとしたら…… そうか、【イノゲ】に行ったんだろ?
「さすがね、ゴウキのおじさん。その前に、教えてほしいの。
カオリの問いかけにニヤリと笑うゴウキ。そして、
「何キロあるか答えたら教えてやるよ」
と少し悪い顔でそう言う。その隣でゲンジが驚いてゴウキに言う。
「おやっさん、
ゲンジのその言葉にゴウキが声高に反論する。
「バッケ野郎、ゲンジ!! ラッキースターのカオリが復帰したんだぞ! 3キロは持ってきてる筈だ!!」
そのゴウキの言葉にゲンジは目を見開く。
「さ、3キロって、おやっさん! そんなにあったらウチの部署は全国1位になっちまいますよ!!」
「だからなるっつてんだろうがっ!! で、カオリよ、何キロだ?」
「うふふふ、おじさん、甘いわね。私が今回持ってきてる
その言葉に二人は固まる。そして、
「5キロだとーっ!! ゲンジ、金は足りるか?」
「おやっさん、辛うじてですが、有ります。けど、ホントに5キロですか? 偽物も中には混じってたり……」
「うふふふ、確認をお願いしますね、ゲンジさん」
疑われたカオリはそのまま間にあるテーブルに
このテーブルはそのまま計りになっていて、その重量が表示される。5.283キロと表示されたのを見てゲンジは固まってしまった。
「どれどれ…… 全部、間違いなく
その言葉にカオリはニコニコする。カオリとしては昔のままの買取価格ならば凡そ三百万と少しになると試算していた。
だが、ゲンジがトレーに載せて持ってきたお金を見てカオリは驚いている。
「ゴウキのおじさん、多くないかしら?」
「へっ、カオリの驚く顔が見れたのは俺ぁ嬉しいぜ。答え合わせだ、カオリ。今の
「相変わらず計算が早いわね、おじさん。でもどうしてそんなに買取価格が上がったの?
カオリの言う事ももっともであった。カオリが現役時代ならば
200✕700で140,000。そこから5%引かれて133,000が1日で手に入るのだ。こぞって低級の者が
しかし、それも国が行政指導という名目で探索者協会に介入してきて変わってしまったそうだ。
「国の馬鹿どもがやらかしやがってな…… 話すと少し長くなるぞ、時間は大丈夫かカオリ?」
「あら? それは困るわ。長女との約束を破る訳にはいかないから、また今度教えてちょうだい、おじさん。あと口座は昔みたいに作れるのかしら? 作れるなら7,000,000円を預けておきたいわ」
「おう、でぇじょうぶだ。ゲンジ、やっとけよ。残りは持って帰るんだな」
「うん、おじさん。ホントは
その言葉にズルっとソファから滑り落ちるゴウキ。
「テメェー、カオリ、俺の心臓を止める気か! ゴッズにスターだと!? ゲンジ、本部(国の運営陣)に言って金を要求しとけ! 五億はいるぞってな!!」
「エエーッ、おやっさん、そんなの通りませんよ!」
「バッケやろーっ、通すんだよ! じゃないとカオリを他所の支部に取られちまうぞ!!」
そのやり取りを聞きながら500,000と少しを財布に入れたカオリは立ち上がり、
「おじさんが居てくれるなら他所の支部に浮気なんてしないわよ。ゲンジさん、頑張って通して下さいね」
とニッコリ。ゲンジはその笑顔に負けた。いや、ある意味やる気になったから勝ったのか?
「はいっ!! 俺に全て任せて下さい!! 国から二十億はぶん取って見せますっ!!」
その言葉にソファからずり落ちたままのゴウキが誰にも聞こえないように呟いた。
「ヤレヤレ…… 若い頃もてぇげぇだったが、人妻になったから妙な色気まで加わりやがって…… こりゃ、ウチの探索者協会は今から大変な事になるぞ……」
と…… その呟きはやがて現実となる……
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