第2話 今の探索者協会
探索者協会へと復帰申請に来たカオリ。
「えっと…… 取り敢えず復帰申請の窓口は無さそうだから登録受付に行けばいいのかしら? きっとそうね」
そう独り言を呟いて登録受付に向かうカオリを20代前半の男性探索者たちが見ていた。
「おい、見ろよ、あのプロポーション! 良いよな! ちょっと年上に見えるけど、とても綺麗な人だし、俺たちのパーティーに入って貰うか?」
「いや、待て、登録受付に向かってるって事は今日から登録するって事だろ? と言えばF級スタートだからな、ここは先輩探索者として低級ダンジョンに案内してだな…… そしてダンジョンの中で…… グフフフ」
「おい、見ろよ、左手薬指に指輪してるぞ。人妻だぞ! イイねぇ、他人の物を奪うのは。初めはイヤよイヤよと言ってても、その内に俺のマグナムの虜になりやがるのさっ」
などと20代前半の男性パーティーがそんなことを言ってるのも気づかずにカオリは登録受付に向かい、そこに座る女性にこう尋ねた。
「あの…… 12年前に探索者登録してたのですが、今でも有効なんでしょうか?」
問われた女性は困ったような顔をしている。
「あのですね、先ずはお座り下さい。ご説明いたしますので。私は登録受付担当の
「あ、カオリです。よろしくお願いします」
そう言ってカオリが椅子に腰掛けるとミズホが説明を始めた。
「それではご説明致します。実は5年前にそれまで民間企業であった探索者協会に国からの行政指導が入りまして、その時から国営企業となりました。そして、探索者として活動されていた方々はそのまま登録を移行したのですが、活動をされていなかった方々については記録を抹消してしまったんです。ですので、カオリさんの場合はもう一度、新規に登録をし直して頂くという形になるのですが…… よろしいでしょうか?」
きっとカオリ以外にも復帰申請に来た者が居たのだろう。淀み無く説明をするミズホを見てカオリはそう思っていた。
そこでカオリは以前とどう違ったのかを教えて貰う事にした。
「あの、私が登録をしていた当時は素材の売買で得た収益に掛かる税金は5%でしたけど、それも変わったのでしょうか? それと、スキルについては自分だけが知っていれば良いという事で協会には報告などはしておりませんでしたけど、その辺りはどうなっていますか?」
カオリの問いかけにミズホは答える。
「はい、税金については今でも5%です。実は5年前に国営企業になった際に、国が10%に上げたのですが、全国各地で探索者のボイコットが起こりまして…… その結果、輸出する素材が手に入らなくなった国は元の5%に戻したという経緯があります。それと同様にスキルについても国は記録保存をしようとしましたが、同様にボイコットが起こりまして…… 今でも探索者ご自身のみが把握するという形になっております」
その説明を聞いてホッとするカオリ。更に確認をする。
「私の時にはランクを表すのは下から5級、4級、3級、2級、1級、初段、2段、3段で最高位が3段でした。ダンジョンも5級ダンジョンと言ってましたけど、それも変わってないでしょうか?」
「いえ、そちらは変更されております。国の探索者協会を運営するボンクラ官僚どもにラノベ愛好家が居たようで、下からF.E.D.C.B.A.S.SSとなりました。ダンジョンもそれに合わせて、F級探索者が潜れるダンジョンはFランクダンジョンとなっております」
ミズホの説明にカオリはやっぱり12年も経つと変わるのねと思った。それと、ミズホがどうやら民間企業だった頃からの受付さんなんだとも気がついた。
「あの、失礼な事をお聞きしますけど、ミズホさんってもしかして民間企業だった頃から受付をされてたんですか?」
一応、確認してみようと思い聞いてみるカオリ。すると、ミズホは同士有りみたいな感じでカオリに少しだけくだけた口調で話を始めた。
「そうなんですよ〜、聞いてくれます、カオリさん! 私、超優良企業だった探索者協会に6年前に就職したんですけど、2年目にして国営企業になって、当時のおバカ勢揃いの国の運営陣によって、ものすっごく苦労させられたんですよ〜…… 何でいきなり税金を10%にするなんて言うんですかね? 馬鹿なんでしょうね、そんな事を言えば反発されるって分かってないのが、ボンクラ官僚どもなんでしょうね。アイツラは決めて命令するだけで探索者さんからのクレームを処理して、コッチは毎日残業してたのに、協定があるからって月60時間以上残業してたのに、支払われた残業代は月20時間分なんですよ〜…… それでも、私は辞めなかったんです! 何故なら、将来の旦那様と出会ったから。あ、ボンクラ官僚じゃないですよ、探索者なんですけどね。とても優しい人で、毎晩、毎晩、ボロボロになった私を気遣ってくれて…… その内にその人の好意に私も気がついて…… 」
などと惚気になって来たのでカオリは慌てて止めた。
「待って、待って、ミズホさん。その先はプライベートでお茶した時にゆっくり聞きたいわ! 私たち、友人になりましょう!」
と、人の惚気話も嫌いじゃないカオリはミズホにそう言った。
「ええ! そうね! カオリさん! 私は基本的に金曜日が休みなの。金曜日に会うのって難しい?」
「ううん、私も金曜日なら都合が良いわ。それじゃ、金曜日の朝9時半にこの探索者協会の前でどう?」
「そうね、それが良いわ。私の家もこの協会から歩いて3分の場所だから」
和気あいあいと話を進めて、それじゃと立ち上がりかけてカオリは気がついた。
「じゃ、無かったわ! ミズホさん、私、新規登録をしなくちゃ!!」
そう言われミズホもハタと気がついた。
「あ、アレ? そ、そうだったわね、ゴメンね、カオリさん。直ぐに受付をするわ!」
そうして、バタバタと新規登録を手続きをしてもらい、カオリは最後に気になる事を聞いた。
「それで、素材買取窓口は相変わらず裏口でいいのかしら?」
「ええ、そうよ。買取窓口は変わってないわ。それにしても、カオリさんって同い年か年下かと思ったらまさかの年上だったのね…… ちょっと色々と聞きたい事が出来たから、今週の金曜日には絶対に会って下さいね」
と丁寧語に戻ったミズホにカオリは言う。
「アラ? ダメよ、ミズホさん。ううん、ミズホちゃん。お友達になったんだからさっきと同じ口調でお願いね」
「分かったわ、カオリさん。これからよろしくね」
「こちらこそ」
そう言って登録を終えたカオリはF級と記された探索者カードを受取り、今日は登録だけのつもりだったので帰ろうとしたのだが、その前に立ちはだかる男たちが居た。
「なあお姉さん、今日登録したばかりなんだろう? 俺たちD級パーティー【ビッグ・マグナム】がFランクダンジョンに連れて行ってあげるよ。ついておいで」
「心配しなくても俺たち全員がD級だから、Fランクダンジョンならお姉さんを守りきる事が出来るからね」
「まったく、待て待てお前たち。自己紹介が先だろうに。俺は【ビッグ・マグナム】のリーダーでケントと言います。こっちがハヤトで、こっちはマサトです。で、どうですか? 今日なら俺たち既にノルマを終えてるから案内してあげますよ?」
などと帰ろうとするカオリの前に立ちはだかり、親切めかしてそう言ってきたが、カオリはおっとりと返事をした。
「あら、ゴメンなさいね。私、今日は登録だけのつもりで来てたからもう帰るの。主人と子供のご飯の用意もあるから。それと、私はソロで頑張るつもりだから、お気持ちは嬉しいけどご遠慮するわね。それじゃ」
そう言って横を抜けようとしたカオリの腕をリーダーと名乗ったケントが掴む。
「まあまあ、お姉さん、そう言わずに付き合ってあげるから。早めにダンジョンに慣れておくのも大切だよ?」
掴んだまま離そうとしないケントの顔を見てカオリは考える。
『どうしましょう? 昔と同じならここで張り倒しても私の罪にはならないけど?』
そう思ってたらミズホの声が響いた。
「コラ! あなた達、何をしてるの! その人は忙しいから今日はもう帰るのよ! 早くその手を離しなさい! じゃないとウチの主人に言って
その声に聞こえるようにチッと舌打ちをしたケントはカオリの手を離す。
「何だよ、ミズホさん。探索者同士の関係に協会は口出ししないっていう規約があるだろ? 俺たちはただこのお姉さんが安全にダンジョンを行けるように指導しようと思ってただけだよ。D級の推奨規約を実行しようとしてただけじゃないか」
とケントが不満気にミズホに言うが、ミズホは気にせずに反論する。
「何がD級の推奨規約を実行よ! あなた達、女の子たちにしか声をかけないじゃない。まあ、
その言葉に3人は揃って顔をしかめながら何も言わずに去って行った。カオリはミズホに礼を言う。
「有難う、助かったわ、ミズホちゃん」
「カオリさん、気をつけてね。アイツら、まだ証拠は無いんだけど、かなり悪いことをしてるみたいだから。私も主人に頼んで何とか尻尾を掴もうとしてるんだけど…… 出来るだけアイツらとは関わらないようにしてね」
そう言われカオリは確認をする。
「あの、最後にもう一つ聞いてもいい? 昔は探索者同士が揉めても、証人がいれば張り倒しても正当防衛が認められたんだけど、今も同じかしら?」
「ええ、それは変わってないけど、アイツらD級だからそれなりに強いわよ?」
ミズホはカオリを心配してそう言うが、カオリはフワリと笑い、
「そう、良かったわ。次からは自分で何とかするから大丈夫よ、ミズホちゃん。それじゃ、今日はもう帰るわね。明日からダンジョンに行くわ。あ、帰りに買取り窓口だけ見させて貰うわ」
と言ってその場から去った。そんなカオリを見てミズホはこう呟いた。
「そう言えばカオリさんの年って主人と一緒だわ。主人が帰ってきたら知らないか聞いてみよう」
その夜、ミズホはカオリの事を良く知っている自分の主人にヤキモチを焼くのだが、それはまた別の話だ……
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