ダンジョン攻略した私は人妻ですけど何か問題が?

しょうわな人

第1話 私、復帰します!

「あなた…… 子供たち2人も小学生になったし、私もそろそろ仕事しようかなって思ってるの……」


 妻である香織カオリの言葉に夫であるタモツは自分を責めた。 


「そうか…… 済まない、カオリ。僕が売れない小説ばかりを書いているから……」


 しかし、タモツのその言葉をカオリは否定する。


「いいえ、あなた! あなたの小説はいつか必ず日の目を見るわ! 私には分かるのよ! それに、書籍化だってしてるんだから! これからもあなたは小説を書き続けて!!」


「カオリ…… 僕は幸せ者だ…… こんなに美しく、僕よりも僕の事を信じてくれる人が妻だなんて……」


 潤んだ瞳でカオリを見つめるタモツ。そんなタモツを見てカオリは抱きつきディープキスをする。


「ああ!! あなた、私こそ幸せ者よ! こんなにも面白い小説を書いてて、私をいつも綺麗だって言ってくれる人が旦那様だなんてっ!? んー、ムチュッ、ムチュッ!!」


「カオリ!」「あなた!!」


 それから30分後、夫婦の健全な営みを終え二人で一緒にシャワーを浴びて、お風呂場でもう一戦したあとに冷静になった2人は話合いを再開する……


「それでカオリはどんな仕事をするんだい? 近所にあるスーパー、ヤマダホでのレジ打ちかい? それともコンビニ、ケーソンでのレジ打ちかい?」


 タモツがそうレジ打ち限定でカオリが何の仕事をするのか聞いてくる。カオリは笑ってそれを否定する。


「ヤダもう、あなたったら何を言ってるの? 私がレジ打ちなんて出来る訳ないでしょう? 私は独身時代にやってた仕事に復帰するつもりなの」


 カオリがそう言うとタモツが不思議そうに聞く。


「うん? 独身時代というと僕と結婚する前だよね? 僕と結婚する前ってカオリは実家で家事手伝いをしてて仕事をしてなかったよね?」


「ヤダもうあなた、その前よ。私は高校卒業後から2年間、ダンジョン探索者をしてたの。20歳までやってお金が貯まったから辞めたの。それからは家で母に料理を教わったりして良いお嫁さんになる為に頑張ってたのよ、ウフフ」


 カオリの言葉にタモツはビックリしていた。


「カッ、カオリ! ダ、ダンジョン探索者ってホントかい? 何でそんな危険な仕事を!?」


 タモツの驚きも無理もない。ダンジョン探索者とは50年前に突如として地球の各地に出現したダンジョンを探索して、その中で得た物を売買して生計をたてている者たちの事を言うのだが、ダンジョンの中にはこれまでゲームの中でしか見たことがないモンスターもウヨウヨと居るのだ。


 そんなモンスターを倒しながら、モンスターが落とす金貨や特殊なアイテム、ダンジョン内にしか生えない薬草、ダンジョン内の鉱石場で採掘される稀少石や鉄鉱石などを採掘するのがダンジョン探索者たちだ。

 高校卒業後の職業として、男子からは人気があったが女子では滅多に居ないと聞いていたのだが、まさか自分の妻が若かりし頃にそのダンジョン探索者だったとはとタモツは驚いていた。

 しかしそれはタモツの年代の話で、カオリの年代では女子も多く探索者として活動していたのをタモツは知らない。


「アラ? あなた何を言ってるの? ダンジョンに危険なんて無いわよ。それに私は5つのスキルがあるんだから大丈夫よ! 愛用の武防具もまだちゃんと手入れして置いてあるし、日々、鈍らないように鍛錬は欠かしてないし、むしろ現役の時より今の方が私は強いって言えるわ!! それは、あなたと子供たちへの【愛】があるからっ!!」


 カオリの言葉に感動するタモツ。


「カオリーッ!!」

「あなたーっ!!」


 そうしてまたハッスルしたバカ夫婦はまたシャワーを一緒に浴びて、そこでまた一回戦を繰り広げ、ようやく具体的な話合いを始めたのだった。


「それで、探索者資格は12年も前だけど今でも使えるのかな? それに、子供たちも学校からは3時には戻ってくるけど、その辺りは考えてる? 勿論、僕もカオリの仕事が上手く行くようにできる限り協力は惜しまないつもりだけど……」


 カオリは思った。ああ、この人と結婚して良かったと…… ベタ惚れである。


「ウフフ、あなた心配しないで。私もそんなにガッツリ探索するつもりなんて無いから。探索者資格は協会に行って確認してみるし、探索する時間は朝9時から午後2時までのつもりなの。そう、いうならばパートに出かける感じよ。それに低い級のダンジョンだけに行くつもりだし。それでも得られた素材を売れば生活費ぐらいにはなるわ。」


「へぇ、そうなんだね。生活費月二十万ぐらいにはなるんだ?」


「ええそうよ、それも少しぐらいは贅沢出来る生活費一日二十万にはなると思ってるわ」


 二人は気づいていないが、稼げる額についての認識が食い違っていた。


「それにしてもカオリは五つもスキルがあるんだね、凄いね」


 そこで認識の違いに気づかないまま収入について納得したタモツはカオリの能力についての話をしだす。


「ええ、そうなのよあなた。私のスキルは【加速】【金剛力】【空間支配】【癒やしの左手】【素材鑑定】の5つなの。特に【素材鑑定】は重宝したわ」


「凄いなぁ、カオリ。僕なんかは憧れて探索者協会に行った事はあるけど、スキルは2つしか無かったから低級ダンジョンの1階層だけしか行った事が無いんだよ……」


「まあ! 知らなかったわ! あなたも探索者資格を持っていたの?」


 カオリはその事実を聞いて驚愕している。


「うん、でも僕の資格はカオリよりも古いからなぁ。それに探索者としてはダメダメな男だったし…… スキルも【盾】と【文才】だったし……」


「そうなのね、でも、【文才】は素晴らしいじゃない! あなたにスキルとして発現したっていう事は元々そのスキルの素地があったっていう証明なんだから!」


 カオリの言葉にタモツは不思議そうな顔をする。


「そ、そうなのかい? スキルって素地が発現したものなのかい?」


 タモツが知らないのも無理はなかった。タモツが登録した時にはスキル確認認証機もカオリの時ほど正確ではなく、何故スキルが発現するのかも分かっていなかったのだ。それに、タモツは向いてないと思い2ヶ月ほどで探索者としての活動を辞めている。

 一方でカオリが探索者登録した時は、スキル確認認証機も進化しており、自分のスキルの詳細な情報も得られ、スキルが何故発現するのかも解明されていたのだ。  


「そうよ、あなた、知らなかった? いくら何でも素地が無いとスキルは発現しないっていうのが今の定説なのよ。って、私も12年も前の情報だから今は違ってるかも知れないけど……」


 カオリは知らなかった。今でもそれが定説だという事を。そして、探索者協会もカオリが登録した時は民間企業だったが、5年前にその旨味を搾取してやろうと国が無理やり行政介入をして、国営企業となっている事に。


「そうなんだ…… 有難う、カオリ。これで僕も自信を持って今書いてる新作を書き上げる事が出来そうだよ。頑張って来月から公開出来るように書き上げるよ!」


「ええ、あなた。頑張って! 私は復帰してちゃんと稼いでくるわ!」


「うん、頼りない旦那でゴメンね、カオリ……」


「そんな事はないわ、あなた! 私にとってはタモツさんしか頼れる人は居ないのよ! だから私は頼るだけじゃダメだから、タモツさんを支えてあげたいの」


「カオリーッ!」

「あなたーっ!」


 もうエエっちゅうねん!!!



 …… …… …… ……


 翌日、子供たちを学校に送り出したカオリは復帰する為に探索者協会へと出向いたのだが、余りに昔との違いに少しだけ戸惑っていたのだった。

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