第24話 公爵令嬢とメイド
魔王の使徒が王都を
さっそく朝から、街の復興作業が進んでいます。
街の人たちは、朝日と共に崩壊した街を眺めました。
そうして、こう思ったそうです。
「思っていたよりも、無事な場所が多い」
王城で発生した魔王の使徒が街を暴れまわるのを、私は阻止しました。
そのせいもあり、被害は想定よりも大きく下回ったようです。
聞いた話だと、亡くなった人はほとんどいないのだとか。
死にかけの重傷者は、すべて私が治癒しました。
そのおかげだろうと、大神官ドルネディアスが私に報告をしてくれたのです。
護衛騎士バルクの正体は暗殺者ボロスだったわけだけど、なぜか次の日も当たり前のように教会にいたのです。
「これからは聖女様付の護衛騎士ボロスとして、新生活を始めます」
ボロスはそう、私に宣言してきたのです。
なので、護衛騎士バルク改め、護衛騎士ボロスが私専属の騎士になりました。
所属も教会から、なぜか私直属の部下になったみたい。
それなのに、給料は教会が出してくれるとか。
なにそれ、お得じゃん!
そう思ってしまったので、細かいことは気にしないことにしました。
ちなみに今日、ボロスは休みです。
護衛はいいから外で働いてきなさいという私の助言に従い、ボロスは街の
少しでもみんなの役に立ちたいという彼の意思を尊重した結果です。
ボロスも心を入れ替えてくれたみたいだし、これからの活躍に期待しましょう。
そしてもう一人の私の専属であるメイドのハートが、うやらましそうな顔をしながら告げてきます。
「テレネシア様、昨夜は大活躍だったようですね。あたしも見たかったなー!」
モーニングトマトジュースを注ぎながら、ハートがプンプンと怒っていました。
どうやら起こして欲しかったみたい。
あんなに気持ち良さそうに寝ていたのにね。
私はハートの頭を撫で怒りを鎮めながら、今後のことを考えます。
魔王が復活した。
だけど、魔王も私と同じで、力を取り戻せてはいない。
おそらく、どこか安全な場所に身を潜めているのでしょう。
それはどこか。
──きっと、王城でしょうね。
ニコラス王子は魔王にかどわかされて、使徒になってしまった。
多分、魔王は城の中で、ニコラス王子を観察していたのだ。
そうしてニコラス王子の弱点を突いて、闇に落とした。
いま頃、城の影に潜みながら、次の獲物を見定めているに違いない。
だから、新たな犠牲者が出る前に、魔王を倒さないと。
魔王が力を取り戻す前に、早く!
私は自分の魔力量を確認します。
【魔力量 43/100%】
そう、めちゃくちゃ増えました!
いったいいつの間に。
そう思うかもしれませんが、あの時です。
昨夜、私は救命施設にいるけが人数百人の治療を行った。
その際に、けが人たちから流れ出た血を、すべて回収したのです。
それが、《
服に染みこんだ血だけでなく、地面に流れ落ちた血液ですら、浄化して吸収しました。
魔力がかなり回復したおかげで、みんなのことをまとめて救うことができた。
《
ドルネディアスには、なぜか《《
範囲内の対象者の血液を利用して、体をすべて再生させたのだ。
「でも、まさかこんなことになるとはね……」
朝から、街の人たちが教会に大勢集まってきたの。
そしたらなんと、私への感謝の讃美歌を歌い出したのだ。
もう驚いたのなんの。
昨日までも聖女テレネシアの人気はかなりのものだったけど、さすがにこれほどまでじゃなかった。
なにせ、数百人の信徒が押しかけて来たんだから。
「テレネシア様の人気は凄いですね~。メイドとして、あたしも嬉しいです」
「でも、さすがにこれじゃ、ゆっくりできないわよ……」
教会の寝室にまで、信徒たちの声が響いている。
勢いが怖すぎて、彼らの前に出る勇気がないくらいだ。
「でしたら、なにかお願いでもしたらどうですか。テレネシア様の言葉でしたら、きっとなんでも応えてくれますよ」
「そうはいってもねえ……」
静かにしてくれとは、すでに言ってある。
それでこれなのだから、これ以上お願いすることなんて…………。
「そうだ、良いこと思いついた」
けが人がたくさん出たいまなら、この言い訳が通用する。
そう考えた私は、ドルネディアスに話をつけにいきます。
「テレネシア様、なにを思いつかれたのですか?」
「ふふっ、それはまたの秘密よ」
秘密兵器というのだろうか。
未来への投資を、お願いするのです。
それから一週間後。
王都は、日常を取り戻しつつありました。
復興作業はまだ続いているけど、以前のような活気も戻ってきている。
街は、再び活動を始めたのだ。
同時に、私も魔王の探索を続けています。
あれから王城へ行く機会をうかがったのだけど、一度も入城することは叶いませんでした。
魔王の使徒によって、城は大打撃を受けた。
そのため、厳戒態勢がしかれている。
部外者の足り入り禁止はもちろんのこと。
探査系の
ネズミ一匹忍び込むことはできなさそう。
コウモリに変化しても、見つかってしまうはず。
だから、それまでは様子を見ることにしました。
気になるのは、本当に魔王が城にいるのか。
それほど厳重な警備をしているのなら、魔王も察知されるはず。
そう思うのと同時に、魔王の影の能力を使えば、探索の網から抜け出すことができるのではないかと考えてしまいます。
だから、私はなんとしてでも、城に行かなければならない。
でも、何度申請しても、却下されてしまった。
街を救った英雄なのに、これはあんまりですー!
そう頭を抱えていると、お客さんがやって来ました。
「ごきげんよう、テレネシアお姉さま!」
公爵令嬢のシャーロットです。
いつの間にか、私の呼び方が「お姉さま」になっていました。
シャーロットと会うのは、一か月ぶりくらい。
でも手紙はしょっちゅう送ってくれたから、そこまで久しぶりな感じがしません。
どうやら学校が忙しくて、なかなか顔を出せなかったみたいです。
「お姉さま、お会いできて光栄ですわ。ずっと再会を夢見ていましたの」
ちらりと、シャーロットがハートの顔を見る。
謎の緊張が、部屋を駆け巡りました。
二人は、腹違いの姉妹です。
でも、身分が違うせいで、姉妹と名乗ることはできない。
かたや、貴族の筆頭である公爵令嬢。
かたや、娼婦の母を持つ孤児出身のメイド。
身分という壁のせいで、会話をすることすらかなわない。
貴族の令嬢と、平民のメイドというのは、それほどまでに違う生き物なのです。
しかも、ハートは私のメイドになった。
それが余計に、二人の距離を開かせてしまったのだ。
せめてシャーロットのメイドであれば、会話することも可能だっただろうに。
「お手紙にも書きましたが、いま学園ではお姉様の話題でもちきりなのです。そのせいもあって、『封印の聖女』様のラブロマンスをうたった小説が重版しまくっているようですわ……」
言葉とは裏腹に、シャーロットの視線はハートの周囲を泳いでいる。
ハートのほうも、目を合わさないよう必死に天上を見つめていました。
二人のもどかしい感情、こちらまで伝わってくるよう。
お互いのことが気になっているのに、視線さえ合わせることができない。
ハートはあんなに、シャーロットと話したがってていたのに…………。
──そうだ、良いことを思いつきました!
ついでに、二人の命のを助けたこともあります。
それなりに信頼されている自信もあるので、言うことも聞いてくれることでしょう。
だから、私が二人の
ここは私の寝室。
誰も見ていないのだから、他の者に
二人の姉妹の再会を、ここで叶えてあげましょう!
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