第16話 深夜の暗殺者たち
今夜は、とても楽しみなことがあります。
そう、ハートが私の部屋で、一緒に寝ることになったのです!
昼間のうちに護衛騎士バルクにお願いをして、私の寝室にハートのベッドを運んでもらいました。
一人で運ぶのは大変だったみたいだけど、先日のニコラス王子との一件の時に職務を
あの日、バルクがどこかへ行っていなければ、私はニコラス王子と正面きって争いを起こすことはなかったかもしれない。
だからその罰だと言ったら、しぶしぶやってくれました。
「このベッドを一人で運ぶなんて、意外にバルクはやるわね」
人間にしては、かなり力がある部類でしょう。
もしかしたら筋力を強化する魔法が使えるのかもしれない。
私のベッドの隣に設置してある新品のベッドを眺めながら、今夜のことを考えます。
この距離であれば、いつでも血を吸うことができる。
ハートが寝静まった深夜に、隣で寝ているメイドからこっそり血を分けてもらえば完璧です。
これからは毎日、それができるのだ。
こんなに嬉しいことは、トマトジュースの味を知った時以来。
今後の夜の生活を妄想していると、新しいこの部屋の住人であるハートがやって来ました。
「テレネシア様、本当によろしいのですか? メイドであるあたしが、恐れ多くもテレネシア様のお隣のベッドで寝るなんて」
「何度も言ったでしょう、私が望んだことなの。これで文字通り一日中私の世話をしなくてはならくなったから、メイドとしての修行だと思いなさい」
「う、嬉しいです! ご期待にそえるよう、頑張ります!」
本人もやる気みたいです。
とはいえ、これではハートが休む暇がなくなってしまう。
明日からは休憩時間をもっと増やしてあげないとね。
「さあハート、寝る前にいつものをお願い」
「テレネシア様、今夜のトマトジュースは凄いんですよ! 普段の5倍の値段がする一級品のトマトジュースです!」
「よくそんなに高いトマトジュースを買えたわね」
いくら私が『封印の聖女』だとしても、この私個人の財産はほとんどない。
教会からもらっている少額のおこづかいで、なんとかやりくりしているのです。
「それが、匿名で寄付していただいた物だそうです。テレネシア様のトマトジュース好きは、いまや有名ですからね」
教会の信徒からの寄付ということね。
それなら、ありがたくいただくとしましょうか。
ボトルに入ったトマトジュースを、グラスに注いでもらいます。
「あら、いい色ね」
トマトジュースを注いでもらっているこの時間が、なによりも好きだ。
この液体がたとえ人工の血でなくとも、魔力がまったく回復しなくとも、私はトマトジュースを今後も飲み続ける。
「さて、いただきましょうか」
ハートと一緒に、就寝前にトマトジュースを飲む。
これは私たちにとって、欠かせない日課になっています。
──ゴクン。
ん?
なにかしら、トマトの味に混ざってなにか感じる。
体内に違和感が。
なんだか頭が──くらくらして────
いくら高級トマトジュースだとしても、これは絶対おかしい。
まさか、トマトジュースになにか入っていた!?
──《
血を使って、体内に入り込んだ不純物を浄化させます。
無事に対処できたことで、何が混ざっていたかを理解しました。
──まさか眠り薬が入っていたなんて。
いったい誰が……。
まさかハートが!?
「ね、寝てるわね……」
ハートはすやすやと眠っていました。
眠り薬のせいでしょう。
となると、トマトジュースに眠り薬を入れたのは別の者ということになる。
いったい誰が……。
そう思ったところで突如、窓ガラスが割れました。
──ガシャンッ!
窓ガラスの破片が室内に飛び散る。
手で顔をガードしながら、外から何者かが室内へと飛び込んでくるのを目にします。
人数は二人。
黒装束で、
でも、謎の侵入者はそれだけではない。
外からの侵入者と同時に、部屋のドアが
「夜に尋ねてくるにしては、随分と物騒な格好をしているわね」
全員が武器を持っている。
視線から察するに、狙いはおそらく私。
殺気を放っているから、きっと殺すつもりだ。。
「なるほど、トマトジュースに眠り薬をもったのはこいつというわけね」
これは前もって準備していた襲撃ということになる。
でも、襲われる理由がわからない。
暗殺者に囲まれながら思案していると、廊下のほうから「テレネシア様、お逃げください!」という声が聞こえてきました。
おそらく護衛騎士バルクが廊下で他の侵入者と戦っているのでしょう。
これだけの人数では、いくら騎士でも対処できない。
なにせこいつらは、かなりの実力者だ。
みんな、ニコラス王子よりも
「男が女の寝所に忍び込むにしては、人数が多いわね。悪いけど、あなたたちの相手をしてあげるつもりはないわ」
「…………」
どうやら冗談は通じないらしい。
つまらないやつらだ。
「まさかとは思うけど、聖女の熱狂的なファンで、我慢できずに押しかけちゃったのかしら。だってあなたたち、あまり強くはないでしょう?」
「死ねッ!」
問答無用で、暗殺者は攻撃を仕掛けてきました。
毒がついたクナイを
──《
私の力から作り出した魔剣で、クナイをすべて弾き落とします。
魔剣を生み出すほど魔力が回復しているのは、シャーロットとハートのおかげだ。
あの二人には感謝しないとね。
「この女、どこから剣を!?」
「囲い込んで殺せ!」
両側から黒装束が襲ってくる。
全方位からの一点同時攻撃。
六人の連携が素晴らしい。
これほどの技、そうそうお目にかかることはできないでしょう。
暗殺者として、この黒装束たちが高位の力を持っていることがうかがえる。
おそらく、この攻撃に対処できる者なんてほとんどいないはず
もちろん、私を除いてはだけど。
──《
血の魔剣をかざして、自身を中心に渦状の剣撃を発生させます。
回転しながら敵めがけて飛来する血の剣撃は、相手の体を鋭利に切り裂く。
「ぐあっ」「う、腕が!」「よ、避けられん!」
次々に倒れていく黒装束たち。
致命傷を避けた者もいたようだけど、態勢を立て直す隙なんて与えません。
流れるように移動しながら、魔剣で敵を薙ぎ払う。
これで、黒装束たちはすべて床に倒れることになりました。
「まったく、なんなのこいつらわ」
部屋が血で汚れてしまった。
命を助けた相手以外の血は、私にとっては邪魔なだけ。
寝る前に掃除しないと。
「ハートは無事みたい……でも、まだ寝てるみたいね」
となると、この部屋の掃除は誰がするのだろう。
もしかして、私!?
私が、部屋掃除……吸血姫であるこの私が!
「どこの誰だか知らないけど、やってくれましたね……!」
黒装束め、許せない!
なぜ私の命を狙ったのか知らないけど、絶対に落とし前をつけさせてやるんだから!
「それにしても、なんで私を狙ったのかしら?」
封印から目覚めて、まだ2週間ほどしか経っていない。
褒められることは何度かしたけど、恨まれることなんて………。
「まさか、ニコラス王子?」
あの男以外に、私に恨みを持つ相手はいない。
復活した魔王という線は、人間の暗殺者を送り込んできた時点で消えています。
だから、他に犯人候補はいない。
暗殺者を雇って私を殺そうとしたのであれば、たとえこの国の王族であろうと許すことはできない。
喧嘩を売られたのは、1000年ぶりなのだから。
ニコラス王子をどうしてやるか考えていると、廊下から誰かが走ってきます。
「テレネシア様、お怪我はありませんか!?」
護衛騎士バルクです。
廊下で暗殺者と戦っていたみたいだけど、無事だったみたい。
「なんともありません。それよりも、バルクは大丈夫ですか?」
彼の様子を見てみます。
どこも汚れた気配はない。
まるで、誰とも戦ってはいなかったよう。
「それよりもテレネシア様、
バルクが私に近付いてきます。
そして手に持っている紙を見せてきました。
──ザクッ。
気が付くと、私の胸に刃が刺さっていた。
私を刺した犯人は、目の前にいる護衛騎士バルク。
彼の手には、いつの間にか暗殺用の短剣が握られていました。
「そう、あなたも暗殺者の仲間、だったのね………」
でも、これではっきりした。
先日、ニコラス王子と遭遇した際に護衛騎士バルクが姿を消したのは、彼の手下だからだったのだ。
「テレネシア様、申し訳ありませんが、死んでください」
そう言って彼は、私の心臓を突き刺した。
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