第12部 黎明編 第37話

俺は都心にディフェンダーを走らせながら、新しいSIGの吊り心地に満足した。

成る程新素材を導入したから軽いな。


精度は先ほどの試射で折り紙付きだ。

現にジンコが1秒ちょっと全弾速射で20メートル先のターゲットにワンホールで弾着を集めていた。


銀座の老舗宝石店に行き、店員から結婚指輪と婚約指輪の説明を聞いた。

結婚後も結婚指輪と婚約指輪を重ねてはめておしゃれを楽しめると言う事で、続けて付けて見栄えが良い組み合わせを幾つか選んでもらい、じっくり時間をかけて選んだ。


婚約指輪はやはり中央にダイアが、そしてその周りを華やかに彩る物にした。

ユキも満足してくれるだろう。

結婚指輪は婚約指輪と一緒に付けても映える物を幾つか選んでもらい、スマホで撮影をした。

後でユキに結婚指輪はどれにするか選んでもらうかな?

ユキの左手薬指のサイズはもうとっくユキが寝ている間に計っておいた。

とっくの昔に計っておいたんだ。

婚約指輪は俺の給料3か月分より多少高くなったがなにせ一生の記念品だから奮発しても構わないだろう。


俺はカードで支払い、婚約指輪が入った小箱を懐に入れて宝石店を出た。

俺が店を出て駐車場に歩き始めた時、宝石店の前に二人乗りのバイクが2台停まった。

バイクに乗った4人から不穏な空気が駄々洩れだった。

立ち止まり振り返った俺の目に、バラクラバを付けてナイフやバールを服から引き抜いた4人組が宝石店に入って行った姿が映った。

強盗だ。

さっきまで俺に親切にいろいろ教えてくれた中年の優し気な女性店員の顔が浮かんだ。

俺はSIGを引き抜いて左手で警視正の身分証をかざして店に走った。

すれ違う配達中の男に身分証をかざして叫んだ。


「強盗です!直ぐに警察に連絡を!」


俺が店に飛び込むと既に男達がナイフやバールをかざして先ほどの店員に怒鳴っていた。


「騒ぐな!逆らうな!ぶっ殺すぞ!」


俺は奴らにSIGを向け警察の身分証をかざして怒鳴った。


「警察だ!武器を捨てて床に這いつくばれ!」


4人が俺を振り返りバラクラバからの見えている目に怯えの色が浮かんだ、がそのうちの1人がナイフを俺に向けて叫んだ。


「ふっふざけるな!警察なんか嘘だろう!

 そのでかいピストルだっておもちゃだろうがぁ!」


俺は一瞬威嚇射撃をしようとしたが40口径の強力な弾丸で店の中を壊すのは気が引けた。

俺は一歩後ろに下がり、通りを見て、射線の先に人通りや車が居ない事をさっと見て、やつらが乗ってきたバイクの1台に1発発射した。


なんと言うことでしょう。


バイクが派手に爆発炎上してしまった。

ああああ!やばいやばいやばいと思いながら俺は素早くSIGを店内の奴らに向けた。

奴らは俊敏な動きでナイフやバールを捨ててうつ伏せに床に這いつくばって頭を抱えていた。

降参したようだ。


俺は店内の消火器を見た。


「よしお前ら立て!

 その消火器でバイクの火を消せ!

 変な真似したり逃げようとしたら頭か金玉を吹き飛ばすからな!

 あ!店員さん!先ほどはどうも!

 消火器は他にありますか?

 それと警察と消防に連絡をお願いします!」


4人組は2つの消火器を持ってバイクの火を消し、その後ろで俺は奴らに照準を合わせ続けた。

やがて制服警官が何人か走って来てパトカーの音も近づいて来た。

なんとかバイクの火を消し止めた4人組は速やかに逮捕され、事情聴取をとるために俺もパトカーに乗せられて警察署に連れて行かれた。


一応SIGとナイフを取り上げられて取調室で事情聴取を受けた。

何度も同じ質問がされることに嫌気がさしていたところに榊がやって来て俺の身柄を引き受けてくれた。


SIGとナイフを返されて警官達がご苦労様です!と敬礼をされて俺は警察署を出て榊の車でディフェンダーが止めてある駐車場まで送ってもらった。


「いやぁ~、彩斗君、お手柄だけど…偉い派手にやったね~!」


榊が愉快そうに笑った。

誰かがスマホで撮影したらしく、派手に爆発炎上したバイクを4人の強盗が後ろから俺にSIGを向けられて消火器で火を消し止めて駆け付けた警察に捕まる一部始終が撮られてテレビのニュース速報で流れているとの事だった。


「いや~あいつら俺のSIGが本物かどうか疑ったんで、でも店の中で発砲して何かを壊したくなくて、やつらを撃ったらホローポイントの40口径弾でも貫通したり奴らが死ぬかも知れないし…それで外の奴らのバイクを撃ったんですよ。

 勿論SIGの射線の先に危ない物が無いかチェックしたけど。」

「うん、まあ、状況を考えたらしょうがないとも言えるね~!」


榊はまだくすくすとしていた。


俺は榊に礼を言ってディフェンダーで死霊屋敷に戻った。

明石夫婦、捜索から帰って来た四郎、質の悪いアナザーに探りを入れて来たクラと凛夫婦、ジンコ、ミヒャエル、司と忍がはなちゃんを抱き、全員がニタニタしながら俺を出迎えた。

どうやらテレビのニュース速報を見たようだ。

ユキはもう『みーちゃん』に出かけたようだ。


「うむ、派手にやったな彩斗

 あれがSIGではなく44マグナムリボルバーだったら、ダーティハリーのようでカッコ良かったのだが、まぁ、ダーティー彩斗という所だな。」

「四郎、テレビで流れちまったんだろう?

 どこから撮られていたの?」

「うむ、4人組が押し入った後だと思うが、彩斗が店に飛び込んでからの全てが映っていたな。

 通行人が4人組の大声を聞いてスマホで撮影を始めたようだ。」

「マジか…目立ったな…。」

「彩斗の顔にモザイクが入っていたから大丈夫だと思うぞ。

 まあ、銀座の路上で派手にバイクを爆発炎上させたのはちょっと何なんだが、すぐに奴らを使って火を消し止めたしな。

 ニュースを伝えたアナウンサーたちも笑って好意的に受け止めていたから大丈夫だろうさ。」


明石が俺の肩をポンポンと叩いた。


「それにしても…何故彩斗が銀座の宝石店にいたの?」


圭子さんがニタニタしながら尋ねた。


「いや…ちょっと銀座に買い物に行った時にたまたま俺が通りがかってさ…。」


そう答えてから俺は口ごもった。

あああ、そうなんだよこいつらアナザーには嘘が効かないんだよ俺の心をある程度読むんだもんね、そうだよこいつら人の心を読むんだよニタニタしながら俺の顔を見ているよ嘘はつけないよ…なんかこう言う所だけウザいよこいつら…。


「…そうだよ…ユキの婚約指輪を買って来たんだよ…。」


俺が答えると皆が歓声を上げた。


「聞いた~!奥様!婚約指輪ですって!

 お漏らし彩斗小僧が婚約指輪とかほざきましたわよ~!」

「とうとうこの腰抜けうじうじ野郎も年貢を納めたみたいざんすね~!

 ユキにプロポーズですって~!」

「彩斗リーダーお漏らしの回数も重ねて立派な大人になった見たいですね奥様達~!

 ほほほほほ!」


圭子さんとジンコと凛がどこかの奥様達のような口調で俺の事をさりげなくディスりながら騒いでいた。

何でこいつらはこういう時にぴったり息が合うんだろうか…。


「彩斗!いつ?いつプロポーズするつもり?」


忍が司やミヒャエルと飛び跳ねながらはしゃいだ声を上げた。


「え…そりゃあ、今夜かな…まぁ、俺の部屋で…。」

「この、ウスバカお漏らし野郎~!」


司が叫んで俺の足に飛び蹴りを入れた。


「え、な、な、な…。」


俺は司の剣幕に驚いた。


「プロポーズと言えば、当然フラッシュモブだろうがぁああああああ!

 フラッシュモブに決まってんだろうがぁあああああ!」


固まった俺に司が叫んだ。

顔を赤くして怒鳴っている。

司は段々と真鈴のように気性が荒い恐ろしい子になりつつあるのではないか…。

司の声に皆が反応した。


「あ!それ良いですね~!」

「私一度やって見たかったんだ~!」

「私も私も!

 みんなでやろうよ~!」

「うむ、われも動画を見ていて一度やってみたいと思っていたぞ!」

「そうだな!

 おもらし小僧とは言え彩斗はワイバーンリーダーだしな!

 盛大に祝ってやろうでは無いか!」

「それ、凄く良いね!

 僕歌っても良い?」

「ああ!ミヒャエルは良い子ね~!

 ぜひ歌ってもらわねばぁ!」

「こうしてはいられない!

 皆!これから暖炉の間で作戦会議だ!

 綿密な作戦を立てなければ!」

「おう!」


こうして俺は皆に引きずられて暖炉の間でプロポーズフラッシュモブの計画を立てる羽目になってしまった。


なんか嫌な予感がする。

こいつらはつまらない事でもすぐ熱狂して無駄に盛り上がり、どこかで行き過ぎが有ってきっとドリフかひょうきん族か吉本新喜劇のような騒ぎになるんだ、あの時もあの時もあの時もいつもそうだ。

何だか無駄に激しい騒ぎになるんだよ。


…まぁ、面白いんだけどね。






続く


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