第12部 黎明編 第36話

ユキが帰って来て暖炉の間にいた俺と真鈴を見た。


「ただいま~、なんか楽しそうね~。」

「あ、ユキお帰り~!

 今彩斗と思い出話をしていたところなんだ~!」


真鈴が笑顔でユキを見た。


「え~思い出話か~私も聞きたかったな~!」

「ユキもこっちで一緒に飲もうよ。

 彩斗の色々な話を教えてあげる~!」

「え~!聞きたい聞きたい!」


ユキが俺の隣に座り、真鈴が新しいグラスを持って来て水割りを作った。

その後、小一時間ユキも交えて俺が青ざめるような恥ずかしい話も混みで色々と楽しく話していた。


そろそろ午前2時に差し掛かりそうになり、お開きになった。

結構速いピッチで水割りを飲んだユキは多少足元がおぼつかなかったので俺が肩を貸して部屋に戻った。


「シャワーを少し浴びて来るよ彩斗。」

「ユキ1人だと転んだり寝たりしそうだから俺も行くよ。」


そして2人でシャワーを浴びた。


「ふわぁ!気持ち良いな!

 彩斗、今日は真鈴と話せてよかった。

 彩斗も真鈴も…皆も色々凄い体験をしてきたんだね。」

「うん…まあね。」


シャワーを止めて互いの身体を拭いている時にユキが俺の首に腕を巻き付けて小声で言った。


「正直に言うとね…私…少しだけ彩斗と真鈴て恋人なんじゃ無いかって疑ってたところあったんだ…。

 それどころかジンコとか…もしかしたら加奈…いや栞菜かもねって…。」

「…。」

「でも今日真鈴と話して本当に判った…。」

「え…何が?

 何が判ったの?」


ユキが少し身を引いて正面から俺を見た。


「あのね、私は男と女に友情なんてできないと思ってたの。

 それは恋愛感情がすこしだけ変わったものでいつか恋愛関係になる物だと思っていたんだ…。」

「…。」

「だって真鈴達って奇麗で可愛くて強くて…人間的にも尊敬できる人達で…彩斗が好きにならないはずがないって思っていたの…でもね、今日はっきり判った。

 男と女の間でも本当の友情ってあるんだな~!ってね。」

「…。」

「だから私、ドキドキしたり心配したり嫉妬したりするのはきっぱりやめるわ。

 真鈴やジンコや栞菜は彩斗の親友で戦友。

 私は彩斗の恋人だってね。」

「…。」

「今日も彩斗の部屋で寝ても良い?」

「もちろんだよユキ。」


俺はユキがそんな風に感じていた事に気が付かなかった。

だが、確かにユキをここに連れて来た最初の頃、圭子さん達に言われた事を思い出した。

ユキは真鈴やジンコや加奈を見て劣等感を感じて必死に俺を繋ぎとめようとしていると、ちゃんとユキを安心させてあげろと…。

ユキは自力で気が付いてくれたようで安心した。

こんなに気が利かない俺でもユキは愛してくれている。

俺は改めてユキに感謝と深い愛情を感じた。


数日後。

リリーが小三郎たちを連れてトラックでやって来た。


「彩斗、新装備を持って来たわよ~!

 今度のは凄いわよ~!」


トラックから下ろされてガレージに木箱が積まれた。

ガレージにはリリーと小三郎達、そして屋敷にいた明石夫婦と四郎、俺、ユキ、ジンコが集まった。


「行李の粘液から出来た新素材を導入してね、今日は新しいサブマシンガンとより軽量化されて強度も増したSIG、そして、SR-25の新しいバレルを持って来たわよ。

 それと、新素材を導入したヘルメットに防弾チョッキと新しい戦闘服もね。」


リリーが木箱からUMPに似たサブマシンガンを取り出した。


「これは『LWRCインターナショナル SMG-45』を新素材でフレームとかバレルを改良して40口径にしたものよ。

 今までのUMPのシンプルブローバックと違ってディレードブローバックになっていて反動がよりマイルドになったし、撃った時のごつごつした感触もかなり軽減できたわ。

 セレクター以外もアンビ設計になっているから左利きでももっと便利に扱えるわ、私達、片手にサーベルとか持った状態で撃つ時もあるでしょ?その時はサブマシンガンを左手に持つ時もあるけど、そんな時も便利だわ。

 今までこのサブマシンガンは個々の銃によって当たりはずれがあって命中率が低い物もあって導入を見送って来たけど、今回私達で新素材を使った改良がされているから格段に性能が上がったわよ。

 スコープを付けて300メートルくらいまで狙撃できるほどの精度になったわ。」


俺達は早速試射をした。

確かに反動がマイルドになって連射を続けても銃身も熱くならない。

各種操作のスイッチ類もアンビになっていて確かに左手で持っても便利だ。


改良したSIGもかなり軽くなった割りに反動がそのままで、日ごろ脇の下や腰に差していても前よりずっと軽くて苦にならなくなった。

圭子さんやジンコやユキはSIGが軽くなった事にとても喜んでいた。

なるほど、男の俺でも一日中脇にSIGを吊っていると肩こりや脇が痛くなっていたから女性達は尚更辛かったのだろう。


新素材で出来たヘルメット防弾チョッキも今までの倍以上の耐弾性を持たせることに成功したらしく、新素材の戦闘服もスペクトラム繊維以上の耐刃性を持っていて余程の刃物じゃないと切る事も突き抜ける事も無いそうだ。


そして、圭子さんが使うSR-25のバレルがより高精度になり集弾率がとても高くなったとの事で、あとで圭子さんは遠距離射撃で試してみるわ!と意気込んでいた。


「これ私達はますます強力になるわね!」


ジンコが嬉しそうに言った。

「喜んでくれて何よりだわ!

 じゃあ、私達、藤岡の捜索に戻るわね!

 ちょっと四郎を借りて行くわよ~!」


四郎をトラックに乗せたリリーが帰った後、俺達はマシンガンなどを分解手入れをした。


「これは今度の討伐で早速使ってみるか。

 なかなか良い出来の銃だからな。」


明石がほれぼれとLWRCサブマシンガンを撫でながら言った。

藤岡の捜索は中々手がかりがつかめずにいたがその捜索の最中にはなちゃんが北関東、群馬と栃木の境目近辺に藤岡達と別の質の悪いアナザーの集団を見つけたのだ。

定期的にヒューマン狩りをしているそいつらを見過ごす事など出来る筈はなく、現在その討伐の準備をしていて、クラと凛夫婦が今日、出かけて探りを入れている。


「これは中々良い出来だわ~!

 今度の討伐で私も張り切らなくちゃ!」


ジンコが新しいSIGを構えて標的に向けながら言った。


「おっと…今回はジンコの出動は無しだぞ。

 ジンコは月から帰るまで討伐に参加する事は無いと言う事に決めさせてもらったんだ。

 今日ジンコに言うつもりだったんだが…。」


明石が少し言いにくそうに言った。

そう、月への探査を控えているジンコを危ない目に合わせる事は出来ないと、昨日の晩に俺と明石、四郎とはなちゃんで申し合わせていたのだ。

今日それを言おうとしていたのだが…。

ジンコは標的にSIGを構えたままで黙ってしまった。


圭子さんが何とか取り繕おうと笑顔をジンコに向けた。


「ジンコは月探査と言う大事な事を控えている身だしね、討伐以外にもここを固めると言う大事な仕事が有るわ。

 私とコンビでここを守ろうね。」

「…うん…仕方ないわね…。」


ジンコはそう答えるとSIGを立て続けに標的に向けて撃った。

1マガジン12発全弾撃ちこんだ。

20メートル先のマンターゲットの心臓部分に見事にワンホール、弾着が集まって1つの大きめの穴が開いた。


俺にはジンコの残念な気持ちが良く読み取れた。

そして、ジンコのうちに俺が思うよりずっと強く激しい闘争本能を秘めている事も知った。


昼食を済ませた圭子さんが新しいバレルを組み込んだSR-25を持ち、明石は標的をもって試射に出かけて行った。


俺は内装工事がはかどりかなり完成に近づいた俺の家、いや、俺とユキの家をユキと見て廻った。


笑顔で家の中を見て廻るユキ。

この前の事ですっかり真鈴達に対する微妙な疑惑がすっかり晴れたようだった。

ユキが2階の寝室から外の風景を見ながら俺に笑顔を向けた。


「彩斗、決めたわ。

 私、今日からピルを飲むのやめる。」

「…え?」

「私、赤ちゃんが出来たら産むわ。

 結婚が先か妊娠が先かなんて、気にしないから。

 私はね、こんな感じの世界になっているけど…この先どうなるか判らないけど…私と彩斗の子供が欲しいわ。」


笑顔でいながら決意を秘めたユキの顔を俺はしばらく見つめた。

子供か…俺達の子供…。

正直に言うとあまりその事は、多少は考えた事はあったが、今、ユキからはっきりと言われた。

俺は迷わなかった。


「ユキ、判った。

 俺達、正式に結婚式も挙げよう。

 ジンコが月から戻ったらすぐに結婚式を挙げよう。

 その時にユキのお腹が大きくなっていても構わないさ。

 そんなの気にする奴はここには一人もいないよ。

 本当は俺から言うべきことだったよ。

 ユキ、御免ね。

 今度俺から正式にプロポーズをするよ。

 気が利かない男で御免。

 でも、ありがとう。

 ユキ、愛してるよ。」


そう、俺はユキと結婚するつもりは確かにあった。

あったが、今の状況で俺がいつ死ぬか判らないと言う事もあってその話題を避けていた気持ちもあったが…今ハッキリと判った。

俺はユキと結婚したいし俺とユキの子供も欲しい。

たとえ俺に何かが起きてもワイバーンの仲間は絶対に残されたユキと子供をしっかり守って育ててくれる。


俺とユキは暫く抱き合った。


そして、ユキが『みーちゃん』に出かけたのを見て、新しいバレルを組み込んだSRー25の性能にホクホク顔の明石夫婦に、ちょっと買い物に出かけると言い残した俺は婚約指輪を買いに出かけた。





続く

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