第1部 復活編 第3話
寝室には立ち尽くす俺,、床で身を起こして不快極まりない表情の吸血鬼、鋼鉄製ろうそく立てを握りしめ息を荒くしながら俺たちを油断なく交互に見る処女の乙女。
とてつもなく気まずいトライアングルが形成された中をルンバがあちらこちら動き回り床を掃除している。
とりあえず何とかこの状況を収めないといけないと俺は感じて深くかぶったフードを外して顔を出した。
「あのう…皆さんいまどういう事が起きているか良く判らないと思うので…とりあえずリビングに行って俺が説明します。
あ、すみません、靴を脱いでこれに履き替えていただけますか?」
俺は用意していたスリッパを出して吸血鬼の前に並べ、吸血鬼は素直に靴を脱いでスリッパに履き替えてくれた。
処女の乙女は極めて警戒する表情で俺を見つめ鋼鉄製ろうそく立てを握りなおした。
「あんたと床の人が先に行ってよ。
変な真似したらこれでぶん殴るからね。」
吸血鬼もこの状況がどんなものなのか知りたいらしく、床から立ち上がると服の埃を叩いて落とし衣服の乱れを直した。
ルンバが吸血鬼の周りをぐるぐると這いまわり、せっせっせと埃を掃除している。
「われも賛成だ、君達は何者なのか、ここはいったいどこでどんな時代なのか教えてもらおう。」
そして俺を先頭に、あちこちを物珍し気にきょろきょろと見まわす吸血鬼、鋼鉄製ろうそく立てを握り油断なく俺たちを監視する処女の乙女の順番で寝室を出てリビングに向かった。
ソファに案内しようと思ったけど、吸血鬼の埃で汚れた服を改めて見た俺はリビングに面したダイニングのテーブルに案内した。
俺が椅子に腰かけ、その向かいに吸血鬼が座り、処女の乙女はしばらく考えた後で吸血鬼の横の椅子を引き出すと距離を置いて吸血鬼の隣に座り、テーブルの上に鋼鉄製ろうそく立てを置いてその上に両手を置いた。
「え~ゴホン、まず、コーヒーでも入れますから…」
「変なもの飲み物に入れないでしょうね!」
睡眠薬入りハーブティーを飲んで意識を失ったトラウマを持つ処女の乙女は俺を睨みつけた。
「ああ入れません入れません大丈夫だから心配しないでください」
「もしも変なもの入れたら意識を失う前にあんたの頭をかち割るからね!」
処女の乙女が底光りする鋭い視線を俺に向けた。
……ひゃぁああああ!怖い怖い怖い!
処女は怖い処女は怖い処女はやっぱり怖いんだよいろんな本で読んだけど処女は怒ると情け容赦なくて土下座して謝ってもその頭をサッカーボールみたいに蹴とばして血まみれで動かなくなるまで蹴るんだよ恨みも忘れないんだよ容赦ないんだよこの処女の乙女はこの先誰かに処女をささげない限り俺への恨み怒りが消えないんだよこの女が処女でいる間はいつ残酷極まりない手段で命を奪われるかもしれないよ高校の時に俺の童貞を奪った教育実習生の先生も処女の女の人は取り扱いに注意よとか言ってたよ大学の新人歓迎コンパで俺の体を貪った先輩の女の人も処女は怖いよと言ってたよマジだよマジに処女は怖いよ彼女が処女でいる間は俺は凶悪な追っ手に追われる獣道みたいな人生を歩むんだよ怖いよ怖いよ怖いよ…ジャンヌ・ダルクも処女だったもんね怖い怖い…
そんな思いに囚われながら俺は震える手でお湯を沸かし3人分のコーヒー豆を挽きフィルターをセットしてコーヒーを淹れた。
その間吸血鬼はあちこちを物珍しそうに見回し、処女の乙女はコーヒーを淹れる俺の手を注意深く見つめていた。
俺は額の汗を拭い、3人分のコーヒーと砂糖ミルクをテーブルに並べた。
吸血鬼はカップを手に取り香りを嗅いでからゆっくりと一口飲んで幸せそうにため息をついた。
処女の乙女は疑い深い目で俺を見つめて顎をしゃくり、先に俺にコーヒーを飲むように無言の圧力をかけた。
俺がコーヒーを飲むと処女の乙女はカップを手に取り注意深く香りを嗅いで一口飲んだ。
「さて、いったいどうことか説明してくれるかしら?」
処女の乙女はこの状況の黒幕が俺だと見抜いて、俺に説明を求めた。
寝室のごみをあらかた片付けたルンバがダイニングにやって来て吸血鬼や処女の乙女の足元をぐるぐる回って掃除を始めた。
「ゴホン、ええとまず説明すると、こちらに座っている人は実は吸血鬼で俺は彼を復活させるために…その…あなたを生贄に…」
「そんな戯言誰が信じるのよぉ!
あ~!こいつうざいんだよ!」
俺の説明をぶった切って怒鳴った処女の乙女が足元を動くルンバに鋼鉄製ろうそく立てを叩きつけた。
「ピギャァアアアア~!」
火花が散り軽く爆発したルンバは悲鳴を上げて壁に突進して激突、ガタガタと震えた後でまた少し破裂音を立てて埃取りのアームで弱弱しく俺にサヨナラしてから完全停止した。
吸血鬼は凶悪な顔面に変化した。
「何をするんだこの小っちゃくて丸い奴が可哀想じゃないかぁああ!」
吸血鬼は常人離れしたスピードで処女の乙女から鋼鉄製ろうそく立てを取り上げると頑丈な鋼鉄製ロウソク立てを両手で握りしめ、ぞうきんを絞るように絞り上げると鋼鉄製ろうそく立てはめきめきと折れ曲がった。
「きゃあ~!何?じゃああなたは本当に…きききき…吸血鬼…」
処女の乙女が金切り声で叫び、吸血鬼は無残に折れ曲がった鋼鉄製ろうそく立てをテーブルに置くと高らかに言い放った。
「そう!われは吸血鬼!マイケル・四郎衛門だぁ!」
……え?
マイケル?
四郎衛門?
……え?
ちょ…
続く
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