第1部 復活編 第2話
俺は床に落ちて髪や衣服から埃をフローリングの床に振りまきながら身を捩り苦しんでいる吸血鬼を見つめていた。
気を利かせたルンバが床を滑ってきてせっせせっせと埃を掃除している。
「ぐぅあああああ~胸が焼ける~!なんだこの丸い奴は!あっちいけ!」
吸血鬼はうざそうにルンバを押しやりながらなんとか身を起こした。
吸血鬼は立ち尽くす俺を見ると声をかけてきた。
「ボッセ、チーノ?ハポン?…ユー。ジャパニーズ?」
翻訳機がポルトガル語、と告げ「お前は中国人か、日本人か?」
と、そして英語、と告げ「お前は日本人か?」
と教えてくれた。
「…アイアムジャパ…日本人です」
俺は翻訳機のスイッチを切って答えた。
「そうか、日本語通じるんだな。
君がわれを復活させたのだな?
胸が焼けて気持ちが悪い、何か飲み物か果物かなんか無いか?」
何が何だか判らないが30代半ば位の少し貧相な顔の男が人間以外の何かと言う事は確からしい。
俺は動きを止めためんどりの死体をかざした。
「生き血ならここに…」
「ふざけるなよ!けだものの血を飲めと言うのか?
胸が焼けて気持ちが悪いと言ってんだろうがぁ!」
吸血鬼が叫んだ瞬間にその形相が変わり、目が赤く光り、鋭い牙がむき出しになり、顔中に異様に筋肉が盛り上がり、まるで映画に出てくる凶悪な吸血鬼のそれになった。
(ああ!吸血鬼だ吸血鬼だ凶悪な吸血鬼だ!間違い無い!不良品じゃない!)
俺は恐怖と歓喜に打ち震えながら答えた。
「失礼しました。それでは処女の乙女がいます。
お好きに血を吸ってください。」
吸血鬼の顔が元の少し貧相な感じの人間の顔に戻り、悲しそうにかぶりを振った。
「だから…胸が焼けて気持ち悪いんだよ。
こんな生臭いものじゃなくてさぁ~
気が利いた冷たい果物とかないのかな~?」
「はい、果物ですね?今持ってきます!」
俺は微かな違和感を感じながらもめんどりとナイフをテーブルに置いて寝室を出るとキッチンに向かった。
冷蔵庫を開けると、この前スーパーで買った甘くてうまいと評判な梨をいくつか掴んで寝室に戻った。
「あのう…こういうものしか無いんですが…」
「おお!梨か!懐かしいな!そうそう!こういうのが欲しいんだよ!」
吸血鬼は俺の手から梨を受け取り、俺を見つめた。
「このまま食えと?梨は皮を剥かないと駄目だろう?」
「あ…すみません」
「まぁいいそのナイフと隣に置いてある大仰な皿をよこせ。」
俺は吸血鬼が指さした「悪魔への供物用皿中型(海外サイト48100円)」と「悪魔収監用サタンナイフ(メルカリ74890円)」をとって吸血鬼の前に置いた。
吸血鬼は皿に梨を置き、その一つを手に取るとナイフを器用に操り梨を4つに切り、エレガントに皮を剥き始めたが、自分の手の汚れを見て顔をしかめた。
「おい、ナプキンがいるよね…」
「はい!ただいま持ってきます!」
俺は寝室を出てキッチンのハンドタオルをとって引き返した。
吸血鬼は手を拭い、梨の皮剥きを再開した。
全ての梨を処理して皿には皮を剥いた梨がきれいに並べてあり、皮と芯が脇に寄せられた。
吸血鬼はエレガントに梨を摘まむと口に運び、恍惚の表情を浮かべて味わった。
「あのう…お料理上手そうですね…」
「われはコックも執事もやっていたからな…もともとは奴隷だったのだが苦労して這い上がったんだよ。」
「なるほど…」
吸血鬼はエレガントに口と手を拭くと2つ目の梨を摘まんだ。
「でも…あなた日本人ですよね?」
「そうだ、われは下総の漁師だったんだ。
海がしけで荒れて難破してわれだけが助かった。
そしてメリケンの捕鯨船に拾われてメリケンに連れて行かれた。
上陸すると奴隷として売られたんだ。」
「なるほど~!」
「まぁ、話すと色々と長くなるな。」
俺が納得して頷いていると吸血鬼が皿をもって立ち上がり眠らされている処女の乙女の元に行った。
「彼女はどうして寝ているんだ?」
「あのう、あなたへの生贄として睡眠薬を飲ませて眠らせています。」
吸血鬼は俺の顔をじっと見て顔をしかめた。
「生きている人間を生贄に…だって?
お前は鬼か?」
吸血鬼が処女の乙女の顔を優しく叩いた。
「起きなさいお嬢さん。
おいしい梨でも食べるかい?」
吸血鬼が何回か処女の乙女の頬を叩くと、処女の乙女はゆっくりと目を開けた。
処女の乙女が吸血鬼を見ると目を見開いて悲鳴を上げ頭の横に置いてあった「悪魔儀式用鋼鉄製ろうそくスタンド2個セット(アマゾン123000円)」の一つを掴んで吸血鬼のこめかみに思い切り叩きつけた。
「うぎゃぁああああ!」
吸血鬼はこめかみの皮膚が破れて派手に出血して梨が乗った皿を派手にぶちまけて床に転がった。
骨が見えるほどのひどい傷だったがそれはみるみる出血が止まり傷が塞がっていった。
(なんという再生能力なんだ…本物だ…やっぱり本物の吸血鬼なんだ…しかし…)
ルンバが出動して梨の皮を掃除し始めている横で吸血鬼が頭を振りながら身を起こした。
「なんて野蛮な奴らなんだ!」
俺は茫然と吸血鬼を見つめ、処女の乙女もろうそく立てを握りしめて状況が判らずに、吸血鬼を見つめて固まっていた。
続く
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