010:人は何かを決めたら人が変わる
凶暴系女子二人組の戦闘力を知った所、今度は連携を活かした闘いを求めていた。
せっかくのチームだから連携の価値も見出したい。もっとも個々で殲滅した方が手っ取り早いのは気付いていなく、やはり探索者らしい闘争をしたいのだった。
道中で見かける紫水晶を持てるだけ採取し、いざ索敵開始。すぐに10体以上の群れているヤドカリモンスターを発見する。
そして、今までのように敵も満桜たちを見つけて戦闘が始まっていく。と思いきや、何か様子がおかしい。
「……あれ? スルーしてる? どっか歩いてるけど優先順位あるの?」
「普通は発見次第、敵対するけど……なんか変だね」
触れる距離まで近づいてみるも、ヤドカリは3階層に続く階段へとせっせと移動している。
満桜たちのアクションに無反応なのはいいが、問題なのはサバンナの動物で見るムーの大移動如き光景。
これには迷宮慣れしている三由季も真っ青である。
隣の満桜も放心状態を通り越して一時的な気絶状態だ。
『満桜……? 気絶するな、目を覚ませ』
レイティナが脳に響かせる念話を放出することにより、満桜は何とか回復する。
これはまやかしだと思ってまた確認するが、やっぱり本物であった。
「あー……あれでしょ? 家畜を育てる時の自由に放牧するっていうやつ?」
「満桜ちゃんよ、迷宮内のモンスターは家畜化できないって。したら重罪だよ?」
「じゃあこれは何?」
「私だって初めての光景だから知らないって。世界は広いなー」
怖いと思いつつも好奇心旺盛のちびっ子なのでストッパーはおらず、満桜たちは別ルートを通って3階層へ。
平原のような水晶フィールドには先ほど見たモンスターの大行列が、同じ方角へ進行していた。
その間、歩きスマホをしていた三由季が納得した表情で話す。
「あー、調べて分かったけど……異常事態らしい。救援要請出してるよ」
「内容は?」
「えーと……ここの階層にあるセーフスポットが襲われてるって。発信源はSNS中毒の神様だよ」
「いまいち信用できない要素はあるけど、神様が言うには確かか……」
モンスターの大群が求める先は探索者の休憩スポット、要塞。半透明な紫水晶の壁で囲った要塞を陥落させようと城壁を壊していた。
壁のてっぺんで探索者の人たちが、魔法やら遠距離の武器などで懸命に戦っている。しかし、圧倒的な数によって上手く防衛ができていない様子だった。
「うわぁ…………」
数体だけなら満桜でも対処可能な力をもっているが、流石にこれはうろたえてしまう。
とても自分では助けられないものだと決め、満桜は帰ろうと伝えようとする。
「それじゃあ……――」
『――迷っているのだろう? 満桜』
だが、その考えはレイティナが遮った。
レイティナは念話越しで満桜と話し合う。
『アイテム化している私なら、満桜の考えていることなど伝わって来るぞ?』
「うぅ、でも……」
『心配するな、一人じゃないだろう? よく見ろ』
レイティナは隣にいる人の顔を見ろと催促する。
若干、不安気になっていた満桜は三由季の方へと振り向いた。
三由季は自身の満ちた顔付きだ。モンスターの動向を分析しつつ、体をほぐすストレッチをしていた。
一体何故ここまで気楽になれるのか。満桜の感性が人とは違っているのかと思うほどであった。
「んー? 満桜ちゃん、私はへーきだよー? いつでも行けるよー? 一緒に行けるかい?」
「……三由季は何であそこに行こうとするのよ?」
「満桜ちゃんが助けたそうな目をしていたから……なのかな? 多分だけど、行けるっしょ! 満桜ちゃんは賢くて優しいし」
「…………わかった」
そこまで全面的に信頼されているならば、満桜は動かざる負えなかった。満桜にとって三由季を置いて逃げるなど、とても嫌な行為なのだ。
満桜は覚悟を決めた。あのモンスターの大群に突っ走る勇気を、そして成し遂げる絶対的な破壊の行使を。
「ただ、私から離れないでね、三由季」
「りょーかい。満桜ちゃんに従うよ」
満桜は胸の歯車に手を添えて――唱えていく。
「――
『満桜、その思いを忘れるな。我儘ぐらいがちょうどいい』
「薙ぎ払え! 鏖殺しろ! 邪魔者は不要だ! それがたとえ何であってもだ!」
満桜が求める『健やかな日常』を手にするためだけに。
*作者コメント
思ったよりも短かったので、次話【011】は18:05に投稿します。
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