3章:結果的に、無自覚系無双少女になっただけ
011:面白そうを見つけるスキル【直感】
――バルバ迷宮3階層、セーフスポット――
別名、水晶平原とも呼ばれている階層には、一種のセーフスポットがあった。
紫水晶を建材に周囲を覆い尽くすように建築した簡易的な要塞。しかし、外敵に襲われることなど想定していなく、ただ見栄え重視の建造物である。
そもそもの所、探索者たちが「イベントクエスト的な企画やろうぜ」と有志を募って作り上げた趣味の建物だ。ちなみに、バルバ迷宮の管理者である神様もノリノリで参加していた。
その要塞では、探索者がさらなる階層へと進出するための糧食、休憩、消費アイテムなどの補給を兼ねている。
また商売魂のある者が大量のアイテム類を入荷したり、素材の売却で懐が潤う行為に勤しんでいた。
総称、セーフスポットと呼ばれているものは、神様が保証された神聖な地帯であり、人が賑わいを見せる場所なのであった。
そう、今までは……――
「――おいっ! 敵の数は減っているか!?」
「いいや! 探知系統のスキルを垂れ流しているが、全然減っていないな! むしろ増えたわ!」
「ふざけんなっ!? こちとら1000近い魔法を放っているんだぞ! 終わらせてくれや!」
「ハッハッハ。それは敵さんの方に言ってくれないか? 俺に聞いても分からんものだ。よぉーし! 一斉射撃準備……発射!」
探索者全体を指揮している
どういうわけかこの要塞は、迷宮に存在している全てのモンスターたちから襲撃を受けていた。
最初に気付いたのは一人の配信者系探索者。どこかしら、耳の痛くなるような爆音が鳴り響き、モンスターが集まっていくのを目撃する。
そして、10体から100体へ。100体から1000体に増大し、やがて人の目では数え切れないほどの大軍勢へと変貌したのだ。
迷宮で生み出されたモンスターは人と戦うように造られている。その法則に則って、人がいる場所へと行動してしまう。
それはこの異常事態に対応しようと、セーフスペースで立て籠もる人たちに向けてだった。
「おい! 魔力は足りるか!? HP管理もしっかりしろ!」
100に満たない探索者は、要塞を壊そうとするモンスターを追い払おうと懸命に戦っている。
最初は順調に対応するがも終わらない戦闘が続いてしまい、徐々に不利になってしまった。
今は無駄な消耗を避けるべく、壁をよじ登るモンスターを倒して、いよいよヤバくなったら魔法で一斉清掃。
できるだけ魔力の回復を待っての不毛な持久戦を強いられていたのであった。
「コメントで情報出ました! どうやら違法アイテムによる効果だそうです!」
この状況下の中、配信系探索者は一連の事件をリスナーたちに伝えている。呑気に企画配信などはやらず、外部からの情報収集に頑張っていた。正しい情報発信の仕方である。
その報告を聞いた真木川は、この事件における珍しい原因に驚いた。
「はぁ!? 違法アイテムだと!? 今時そんな物騒なの、とっくに無くなったと思ったのだが……その情報の出処はどこだ?」
「神様からです!」
「なら確実だな! 救援要請は!?」
「しましたよ! ついでに蘇生保障、特別手当込みもいただきました!」
「よし、でかした! 配信者! これで多少の無茶はできるな!」
「……といいますと?」
「心配するな。頃合いを見て突撃するだけだ」
「そんなー!」
そう意気揚々と強談している真木川なのだが、実は内心困っていた。
チームメンバーが言っていたように、1000発以上もの魔法を放って未だ先が見えない。これ以上の絨毯爆撃まがいの戦術を繰り返しても、状況はよくならないであろう。
だからこそ真木川は、リスクはあるが最もマシな方法を模索していた。
城壁が壊れるまで魔力は温存。壊れそうなタイミングを見計らって、一気に逆侵攻を仕掛ける方がまだマシな案だった。
たとえ全滅しても、蘇生費用は神様が負担してくれる。ならやることは、違法アイテムの効果を消し飛ばすヒントを探すのみ。
戦いの方向性を定めた探索者たちは、突破力のある人を中心に陣形を組み始めていく。
だが、編成の途中で要塞の壁――紫水晶の建材にひびが入る。
「まずいぞ! そろそろ持たない! 想定よりも紫水晶が脆い!」
「仕方ねぇ! 武器を構えろ! 気を引き締めて行け!」
声を上げ、士気を高くさせる。
真木川は持ち前の武器――ランスを持ち上げ「まるで中世ヨーロッパの戦争映画みたいだな」と軽口を叩き、みんなに安心感を与えていく。
本当はそんな率いる能力などありゃしないのに、と思いながら敵の方へ睨み付けた。
戦場は刻々と変化する生き物のような存在だ。如何なる状況であれ、常に冷静になれ。平和になった世界で廃れてしまった組織、元自衛隊教官である祖父の教えであった。
その教えを胸に秘めて真木川は戦況を確認していくが、何やら不自然な煙が確認できた。
「ん? なんか奥の方で煙が立ってねえか?」
「そういえばそうですね。カメラで拡大します……なんだこれ?」
「はぁ?」
見えているのに分からんとは一体どういうことだ。直接俺が見たら早いと判断した真木川は、カメラを横取りしてその映像を見る。
「クルマ……だな。えらく近未来的で知らない車種だが……。あん? モンスターを薙ぎ払ってるな。しかも銃なんて廃れた武器で戦っているし」
「銃……ですか?」
「ああ、そうだ。人を効率よく殺すための武器だ。今は、歴史博物館で展示されている『遺物』でしかないが……」
よく見ると、何やらタンクらしき人が笑いながら両手に機関銃を。さらには持ちきれない銃を空中に浮かばせて、有り得ない射撃をしていた。
クルマを操作している運転手が涙目でモンスターをひき殺しているのも、何故か気になってしまうがそこはいい。
さながら、来る時代を間違えた女子二人組なのだと思ってしまうが、
「あっ、コメント見ると救援の人らしいです。要塞を維持せよって……」
「マジかよ……。お前ら20人ぐらい俺に付いてこい。あの車両の所に行くぞ。エスコートさせないとな」
こういう突発的な出来事に対し、即座に判断するのは指揮適正があるのか。
面白いものを見つけたような顔付きをした真木川は、予定より少ない人数を引き連れてその狂乱者の元へと駆け出した。
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