009:君とは違うのだよ、君とは
レジャー施設に言っても過言ではない1階層を出て次のフィールドへ。
そこには全体に覆われた大岩で暗いと思いきや、至る所に木の形をした紫水晶が灯籠の役割として輝きを放っていた。
地面に生えている水晶の周りには、仄かな紫色の光がふわふわ浮かぶ。触れてみると避けるように動いていたので、生き物なのか。
ただ生命体らしき感じは見当たらない。そういう現象なのだろう。
この洞窟はとても地球では見られない光景だ。
――バルバ迷宮2階層、水晶森林――
満桜は2階層へと入る前に、三由季から事前情報を貰っていた。
攻撃力は低いが、そこそこ固く集団で現れるモンスターが多いとのこと。決して油断はできない複数戦が起きると言われていた。
「それじゃあ、最初のエンカウントは私が戦うから、満桜ちゃんは横やりしないでねー」
「敗北シーンまだ?」
「根に持ってた」
広大な空間の一帯を目通しすると、もぞもぞと水晶が動いているのを発見する。
合法的に暴力を振ることが出来る対象のモンスターだ。
水晶ヤドカリ2体、水晶装備のゴブリン4体、ミニマムクリスタルゴーレム2体。計、8体のエンカウント。
どれも水晶の名は付くが、ここの紫水晶は思っていたよりも柔らかい性質を持っているため、慣れると破壊が可能。
熟練の探索者ならば敢えて水晶を壊して、ドロップ率を高める儀式をしているらしい。
「おっと、敵さんの御出ましだね。ヤドカリとゴブリン、後はちっさいゴーレムの軍勢かぁ」
「結構多いわね。手伝い欲しい?」
「いんや、これぐらい楽勝だねー」
呑気に会話をしていたら敵も気付いたらしく、三由季の方へと接近する。
「プリセット1、変更。見とれよー、満桜ちゃん」
三由季は戦闘装備に換装し、立派な重装備の鎧を着た少女に変わった。
武器は小さな体形が隠れる大盾とメイス。タンクとして合格点のオーソドックスな装備をしていた。
些か火力不足だと思う装備だが、これが冒険者の一般的な恰好である。ピーキー探索者の満桜とは違うのだ。
完全武装をした三由季は正面からモンスター群に立ち向かった。
「真っ正面から戦うのね?」
『服装からして側面に回る運動性能は無い。純粋な戦闘センスが必要だろう』
それでも流石に8体1の戦闘は苦戦するだろうと思い、いつでも援護できるポジションに付いた満桜は、事前に共有した三由季のステータスを閲覧する。
種族:人間
職業:城塞守護者 LV.3
サブ職業:炭鉱夫 LV.9
HP:1000
力:A
耐久:A
器用:C
敏捷:D
魔力:D
《スキル》
【城塞壁展開】
・自分含め味方に指定した場所へ壁を生み出す。壁の強度は素材の耐久依存。手持ちの素材によって壁の材質が変更可能。
【物体操作】
・空中に物を動かせる。ただ自分の周りにしか動かせない。
【盾割り職人】
・相手の固い部位に対して破壊力が増す。
《サブスキル》
【持ち上げ】
・自分より大きくて重い物を持ち上げる事が可能。ただし、その場から動けなくなるので注意。炭鉱夫をマスターすることによって取得可能。
「随分といいステータスだこと」
『近距離において隙がないな』
満桜とは違い、総合的に優秀なステータスを持っていた。
高いHPと耐久値で押し付けて、自分に有利な状況を作り上げる。出来るだけ弱点を減らした立ち回りをする戦闘スタイルだ。
だが相手は多数のモンスター。囲まれてしまえば数の有利で負ける可能性だってある。
『始まってるぞ』
「あれ? もう囲まれてるじゃん? 何してたの?」
『何もしていなかったな』
だが、三由季はモンスターの初動に対して待機の選択。とっくに半包囲されていた。
このままだと攻めあぐねてしまい、一方的にダメージを受けてしまうだろうと、解説、満桜による予想だ。
……のだと、思いきや。
「よいっしょー!」
この手は分かっていたのか、三由季は正面の敵に突撃をかます。
精一杯に振るった大盾の衝撃で転ばせ、先頭にいたゴブリンをメイスで一撃粉砕。
そして、メイスを振りかざす瞬間――
「いでよー【城塞壁展開】」
三由季の右側に水晶の壁が現れ、右側のモンスターの反撃を不可能にさせる。
そして、メイスを下ろすと同時にチェーンが飛び出て鞭のような軌道を描き、左側にいたモンスター4体を纏めて縛り上げた。
そのまま、一箇所になったモンスターを大盾で踏み潰す。とても嫌な探索者の死に方上位にランクインに選ばれた圧死である。
『大胆だが綺麗な戦い方だ。それに半透明な壁だから、敵の動きも分かるぞ』
たった一度の攻撃を許しただけで、5体のモンスターを倒す手立ては美しい流れであった。
瞬く間にやられていく同類を見て焦ったのか、残った3体のモンスターたちが、息を合わせずに攻撃する。
水晶ヤドカリの2体が宿である水晶の一部をもぎ取って投擲を。
その間、ミニマムクリスタルゴーレムは自身が攻撃できる適性距離まで接近する。
その攻撃に対して三由季は遠距離からの攻撃を大盾で防ぎつつ、タイミングを見計らって近づいたゴーレムを撲殺した。力のステータスによる暴力差でごり押しだ。
残りの水晶ヤドカリ2体は、飛び出るメイスによって追撃。これも難なく撃破。
あっという間に8体のモンスターは殲滅され、魔石を残して灰へと化した。
流石というべきか。学園や冒険者界隈から強く推薦されているセンスを持っていた。
三由季と同じぐらいの年齢層が戦うとなれば、大人数で足元がうろたえてしまい、思うように戦えないであろう。
それなのに計算し尽くした戦いのように見え、本能のような直感を出し、完璧な一連の流れを作っていた。
満桜の戦闘スタイルは一撃粉砕、圧倒的多段攻撃。
対して、三由季は計算した華麗な戦闘、満桜とは真逆のスタイルである。
「ふぃ~……」
一対多数との戦闘を終えた三由季は、涼しげな顔で満桜の方を見て口を開く。
「満桜ちゃん、これが本来の探索者の戦い、だよ?」
「うっさい」
お前の戦い方は普通でないのだよと茶化した。根に持つ発言をした満桜への真心を込めたお返しである。
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