008:フラストレーション爆上がり


 富士原満桜は他の人とはちょっと変わった趣味があった。

 それは周りの人との会話によって、始めて普通の女子とは違った物だと認識した。

 話題に合わせて流行物を手にしたが、どれもしっくりせず。

 化粧品やブランドバッグ、有名俳優の雑誌などのオシャレにはあまり興味が無かった。


 それから満桜は無理に趣味を合わせるのを辞めて、ちょっと距離を置くようになる。

 しょっちゅう寝泊まりしに来る三由季はその趣味を理解していたが、やっぱり表には出したくなかった。


 しかしこう、曝け出してみると案外、


「うははははは――っ! 楽しいっ! 楽し過ぎるっ! もっともっと! アーハッハッハッハァァァアアア!!」


「満桜ちゃーん! カムバック! いつもの満桜ちゃんに戻ってこーい!」


 もうたまらなかった。


 満桜は三由季による呼び掛けにも応答せず、ただ一心不乱に撃ちまくっていた。

 銃器の衝撃音と反動、全てが駄目になっちゃう快感が止まらない。

 未来チックなデザインも、これもまた心が躍る。嗚呼、いつかは巨大な宇宙船に乗りたいな。


 満桜は、銃とSFが好きな女子中学生なのであった。



 ◇◆◇



『堪能したか?』


「調子に乗ってしまいました」 


 無事、頭ハッピーから解放された満桜は澄ました顔で草原に寝転がった。

 レイティナの強制停止が無ければ、一日中撃っていたかもしれない。

 日頃のうっ憤が溜まっていたのか、ついはしゃいでしまったと申し訳程度な気持ちで謝っておく。


『もう使えなくなったのか。想定よりも早いな』


 満桜が酷使した突撃銃は原型を留めることなく分解されていく。

 これが【装備効果増大】の代償であった。

 せっかく製作した武器なのにもう使えなくなったのかと、少しだけ悲しむ元発狂探索者。

 とりあえず気持ちを切り替えるため、周りの景色を眺める。

 満桜が乱れ撃ちしまくったことによって、緑の草原地帯は今や荒れ果てた戦場跡のように変わり果てていた。

 これ以上の火力を手をに入れたら一体どんな暴れっぷりになるのか、いささか不安ではある。

出来るならモンスター限定の暴走だけだと思いたい。現場を目撃した二名の内、一名は若干引いているが。


「満桜ちゃーん、やっと終わった?」


「あっ、三由季」


 その一名である三由季は元の満桜に戻ったと分かり、寝っ転がっている満桜の隣へと座る。

 そして満桜が製作した武器やら防具などをじっくりと見て、質問が始まった。


「満桜ちゃん、説明できる? 見ただけじゃ分からないよ」


「あー……、レイティナが歯車になるのは知っているよね? その姿になると伝えてから動くまでのスピードが速くなるのよ。後は……――」


 いっそのこと見せた方が早いと思い、満桜は自身のステータスを一部非表示にして見せる。



 冨士原 満桜 12歳 女性


 種族:人間

 職業:??? LV.1

 サブ職業:マシーナリー LV.5

 HP:300

 力:G

 耐久:I

 器用:A

 敏捷:H

 魔力:S

 

 《スキル》

 【眷属召喚】

 ・特殊なアイテムを触媒に力を持った者を呼び覚ます。

 

 【魔力増大】

 ・魔力による補正が増大する。しかし、魔法は使用不可能になる。


 【装備効果増大】

 ・装備品による効果が増大する。しかし、簡単に装備を破壊してしまう。

 

 【???】(非表示)

 ・未開放、解析不明。


 《サブスキル》

 【持ち上げ】

 ・自分より大きくて重い物を持ち上げる事が可能。ただし、その場から動けなくなるので注意が必要。炭鉱夫をマスターすることによって取得。


 【テンプレートフォーマット】

 ・設計した図面により素早く生産が可能に。品質は「良質」に固定する。マシーナリーLV.2になると取得。


 《装備》

 【白桜しろざくらmark‐1】※満桜専用カスタマイズ

 生産者名:冨士原 満桜

 品質:良質

 

 ・レイティナの知識を基に製作した簡易展開防具。僅かに足元が浮遊できるよう設計されているため、スラスターを使っての高速移動が可能。

 満桜専用なので他者が装備すると走行不能になる。


 【ヴィント突撃銃】

 生産者名:冨士原 満桜

 品質:良質


 ・レイティナの知識を基に製作した突撃銃。魔力を込めると貫通力が増加する。



 満桜がやったことは、サブ職業:炭鉱夫で手に入るサブスキル【持ち上げ】によって重量過多の銃を持ち上げるだけだ。

 【持ち上げ】の性質上、手に持った人が足の操作を受け付けない使用なため、代わりにレイティナが防具を使って満桜を動かす。

 あとは満桜自身がレイティナに念じつつ、状況判断をするぐらいであった。

 これぞレイティナを使った表裏一体の戦法。何とか戦えるようになった満桜なのだ。

 一連の戦闘方法を知った三由季は思わず感心した。


「戦闘でサブスキルを活かせるのはすごいよ、満桜ちゃん。それを駆使するなんて珍獣だよ」


「褒めてないよね? 貶してるよね?」


「いやいや、凄いことだよ? 普通の人なんてサブスキルはおまけ程度だもん」


 サブスキルを使うぐらいなら普通のスキルを使えばいい。

 サブスキルはそのサブ職業の頑張りによって取得できる物であり、どれも戦闘で発揮するようなスキルではなかった。


 ただ満桜にとってサブスキルすらも活用しないと、新米探索者以下の人間なのである。

 どんな手段でも使いこなしたいのが、満桜の刻んだ座右の銘であった。

 

「うーむ……。どうしよっかな……」


 満桜の戦闘スタイルを見た三由季は、これからの方針を考える。

 

「どうしたの?」


「このまま二階層に行っても大丈夫そうかなって」


「一階層ではダメってこと?」


「ここだと、さっきのモンスターぐらいしかいないよ。私と満桜の戦力じゃ絶対飽きるね」


 三由季は満桜の過剰戦力を見た限り、一階層のモンスターでは物足りないと感じていた。

 それと同時に、二階層でも立ち回り次第では安定して踏破できると推測している。


「んー、迷宮に関しては三由季の方が詳しいし、そこの所は任せるよ」


「それじゃあいくよー」

 

 せっかくダンジョンに来たのだからまだまだ戦いたい気持ちがあり、そのまま次へと目指すことに。

 まだ二人はフラストレーションが解消していなく、迷惑掛けない程度に暴れたいお年頃なのである。


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