007:始めての体験は何かしらの病気になる


 神々との接触により早半世紀。人類は迷宮に依存している。

 満桜が必死になって手に入れた鉱石資源はもちろんの事、農作物と家畜、水産資源も兼ねて迷宮を利用していた。

 他にも、災害時に家財道具を瞬時に転移して保護するサービスもあり、変わった所ではアウトドアでよくある趣味用の迷宮さえも作られていた。

 ここまで神々がお膳立てしていい物かと思うが、当時の地球はよっぽど詰んでいたらしい。

 

「まさか、チーム誕生その日に行くとは思わないじゃん」


「だって時間はたくさんあるし暇じゃん。私としては満桜ちゃんがどんな戦闘スタイルなのか、早く知りたいのだよ」


 晴れてチームメンバーになった仲良し二人組は、早速近場のダンジョンへと立ち寄る。

 一人は頭のてっぺんに巨大なタンコブが。そしてそれを生み出した張本人はゼーゼー息を上げて、赤らめた顔を隠していた。


 満桜は三由季の突発的行動に逆らいたかったが、総じて高水準のステータスを持っているので敵わず。ただ捲れ掛けてたスカートを抑えるだけで精一杯だった。


「今回、三由季と満桜ちゃんが挑む迷宮は学園内にある「鬼神バルバの迷宮」。すごい広いのが一番の特徴な戦闘型ダンジョンだ。果たして満桜ちゃん達は迷わずに探索出来るのか?」


「三由季は誰に話しているの?」


「ナレーション役。昔の番組であったんだよね。こういう感じの」


 満桜たちは会話しながら、現代日本には似つかわしくない巨大門を通り、大穴から続く螺旋階段を降りていく。

 満桜が採取のために潜った資源型ダンジョンとは違って、実際にモンスターと戦うダンジョン。

 危険はあるが地球上には存在しない素材があり、そして満桜の目的であるレイティナの動力確保にも繋がる必要な迷宮だ。


 資源を与える対価として強き者を作る、という条約によって生み出したのだが、詳しい内容は秘密扱いになっている。

 最上位レベルの探索者になればその情報は明らかになるが、満桜はそこまでなるつもりはなかった。


「それじゃあお待ちかねのバルバ迷宮、1階層だよ」


「うわお…………草原?」


 バルバ迷宮の中は、見渡す限りの草原地帯だった。どこにも見新しい物は何もなく、むしろ普通の天気がいい時の原っぱという認識が近い。

 三由季の話しによると、1階層は誰でも気軽に入れる初心者向けのフィールドで、まだ戦闘未経験の人には打って付けの場所らしい。つまり新人ニュービー探索者、満桜のことだ。


「ストレージに初心者用の探索装備が入っているでしょ? それを着て探索に行くぜい」


「そうだね。――プリセット1、使用」


 満桜の頭上と足元にリングが出現して包み込み、制服姿から一瞬で戦闘装備に早変わりする。

 厚目に重ねた七分丈の服に急所を守る胸当て、ちょっと短めのチェック柄プリーツスカート。よく見かける初心者向けの探索装備である。

 

「ここのモンスターはスライムとワタワタっていう綿毛みたいなのが生息しているよ……と、早速お出ましだね」


 会話の途中で丘の先から人ではない影が現れる。

 それは青くてぷよぷよな物体と、ゆらゆらと浮いている綿毛のモンスター。

 満桜が視認したと同時にモンスターたちも気付いたようで、ゆっくりながらも接近している。

 

「数はスライム2体、ワタワタ2体か。んじゃあ、頑張れー。邪魔にならない所で観戦してるから」


「協力は無し?」


「私がやると平手で破裂」


「OK、把握」

 

 三由季は何ともない顔で「スライムに敗北するシーンが観れたら面白そう」という言葉を残し、ジト目で見つめる満桜から離れていく。

 満桜からもう一度絞めようかの目付きを感じ取っていたが、無視したようだ。

 一人になった満桜は集中するように深呼吸をして、レイティナに話し掛ける。


「行ける?」


『満桜こそ。私の使い方は分かるよな?』


「軽口叩けるなら余裕そうね」


 あらかじめ、レイティナと話し合って戦闘方法は決めていた。あとは実地するだけだ。

 満桜は軽く目を閉じて、思い出すように唱えていく。


「――……武装形式アームズフォーマット


 歯車の髪飾りから輝きを放ち、服装の上から新しく追加される。

 

 炭鉱夫をしていた合間、満桜とレイティナはどんな装備を作ろうかと考えていた。

 とにかく問題なのは、満桜の尖ったステータス。

 扱い辛い能力値は例えどんな装備をしても運用は難しく、満足に動かせやしないだろう。

 

 耐久値は一番最低な数値。力も敏捷もない非力鈍足ちびっ子。

 あるのは莫大な魔力と物を動かす器用さ。だが、その魔力は魔法として使うことが禁じられていた。


 そこで満桜は早々に能力値の考えを捨て、「スキルの副次効果」に着目する。

 覚えているだろうか、スキル【眷属召喚】による効果の一部を。

 満桜は「召喚された人はアイテム化にできる」副次効果を思い出し、ならば他にもあるのではと検証を重ねた結果――


「――タイプ、ツインハンディッド」

 

 展開したのは要所部分に鋼鉄な装甲を装着した鎧だった。

 しかしただの鎧ではなく、筒のような形がいくつか付いている装置。

 それは、宇宙ロケットや戦闘機などで見かけるスラスターである。

 

 スキル【眷属召喚】は召喚された者がアイテム化すると、満桜との意思伝達がスムーズになると判明。

 そのタイムロスは0.2秒。人間の反応速度である0.1秒と比べてみると、恐るべき数値であった。


 【眷属召喚】の副次効果、そしてレイティナの知識にある物を組み合わせ、生み出した戦闘スタイルが――


 「――開けオープン突撃銃アサルト


 もう、装備に振り回されたらいいじゃないかと。

 満桜が制作した装備は取り回しが扱いやすい突撃銃アサルトライフルと、俗に言うパワードスーツまがいな防具だった。

 その防具の中心部には歯車の装飾品。レイティナが防具機能の殆どを担っていた。

 つまるところ、満桜の戦闘スタイルはゲームのようなイメージを思い浮かべ、それをレイティナが満桜を動かすという他人任せなスタイルだった。

 

「フルファイヤ――!」


 爆音が鳴ると圧倒的な暴力が降り注いだ。

 一瞬の内に、まだ満桜との距離があったモンスターたちは何も出来ずに粉砕されていく。

 体の大半が木端微塵になり、最後には魔石を残し灰となって消滅した。


 その光景を見ていた三由季は耳を塞ぎながら感嘆する。

 

「うわお、まさかのスタイルが遠距離武装だったとは思わなかった。満桜ちゃん好きだもんね、こういうの。あれ? 満桜ちゃん…………?」


 勝負はあっけなく終わり、三由季は満桜の元へと戻るのだが……依然と銃声が鳴り止まず。

 巻き込まれないようチラッと満桜の横顔を見てみると、見たことのない顔付きになっていた。


 ただひたすら銃を連発し、金属音を伴って乱れ飛ぶ瞬間。一発一発が衝撃となって震える感覚。

 まるで乱射していることに幸せを感じているような表情だった。

 それは始めて銃を持つ人に起きる症候群、


「……うふふっ! た、楽しい! 楽し過ぎる!」

 

 満桜はドリガーハッピー症に陥っていた。




*作者コメント

プロットは練ったがストックは尽きた。

出来るだけ早く書き上げるからモチベーション力を分けてくれ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る