2章:戦いを求めた結果がロマンになってしまった
004:思い出は密度が高ければいい
時は流れ、地獄のデスギャザラーが始まってから1週間が経っていた。
気付けば春休み期間は終え、もう少し歩むと満桜は中学生になっていく。
満桜の通う学校は小中高大を順次昇級できる一貫校のマンモス学園だ。大して人は変わらない。
それでも、こう一つの区切りを超えてしまったら感傷深くなるのだろう。
満桜は昔の思い出を振り返っていく。
ああ、思えばとても長かった……――
――……ツルハシ担いで掘りまくる作業は。
手にしたアイテム類はスキル効果によって壊れてしまうので、ちょっと多めに購入して炭坑スポットまで、えっさらおっさら。
採れる素材はひたすら掘って、重量オーバーしたらダンジョンに出て再び潜り、また採掘巡りの旅へ。
いつの間にか鉱石に関する知識が増えていき、なんだか段々楽しくなって来ちゃった満桜は、笑いながら呪物と化したオリジナルソングを歌って掘りまくる。
同業者からはツルハシマスターの再来、呪われたギャザラー等々、変なあだ名を付けられてしまったが、それは誤差の範囲内であった。
大量の鉱物を手に入れて終わりではなかった。精製加工の作業が待っている。これもギャザラーの内容に入っていた。
だが、満桜にはそのような設備など持ち合わせていない。
そこで満桜は近所の親戚に尋ね、素晴らしき交渉術を披露する。その結果、加工した精製物の一割を対価に、精製設備の一部を使えるよう許可を得た。
ボロボロのレイティナを見せて私の友達なのですよと、情で訴えかけての説得により、比較的いい契約を結べたのだ。
若干レイティナは不貞腐れてるが、必要な犠牲というものである。
これでひとまずギャザラー作業は終了。
部品加工が職業の内に入っていないのは不幸中の幸いだった。あったら満桜は泣いていた。
というか12歳のお子ちゃまに、そんなことをやらせるなと言わせたい。
「――――…………あれ?」
どういうわけか。なぜ満桜の感傷深い思い出は、ついさっきの1週間になるのだろうか。
つい疑問に思ってしまった満桜は、涙を小さくポロリと流したのであった。
◇◆◇
特に入学式はつつがなく終えて、時刻は11時を廻った。
あとは帰宅する予定なのだが、
「やあ、未来のツルハシマスター」
「――――ぐぼっふぁっっ!?!?」
誰かさんが不名誉な二つ名を言われ、満桜は盛大にお茶を噴き出した。
せっかく冷静さを装って普通に過ごしたというのに、これでは目立ってしまう。
これから軽い連絡事項を聞いて放課後を過ごすだけなのに、どうして事が起きるのか。
「ギャザラー界隈の噂であったよ、やばそうな呪言を唱えている少女が炭鉱夫してるって」
「あーいません。そんな人はいませーんよー」
「満桜ちゃんでしょ?」
「……チガウヨ?」
「やっぱり満桜ちゃんだ」
別に満桜は噂のことなぞ気にしていなかったが、誤魔化すのは少し苦手であった。
満桜にとって気にする問題は、「どう自分のスキルを広めていくのか」である。
それは怒涛の生産活動を終えた後、レイティナと話して決めたことだった。
これからの方針を話し合ったところ、やはり仲間は欲しいという話になった。
全くステータスを公開しないのは逆に不自然。むしろ知る為に、しつこく追って来るかもしれないから面倒だという結論に。
レイティナが言うには、「不遇だからあまりステータスを教えたく無かった」というシチュエーションが理想らしい。
「おーい、大丈夫?」
うつ伏せで顔を隠していた満桜は、噂の確認をしていた友人をちょっとだけ見る。
黒髪ショートボブのお嬢様、
どう変わっているのかと言えば、不思議ちゃんな人だ。
時折、着ぐるみらしき服装で学校に登校したり、なにもない遠くの景色を見たりと満桜も読めない感性を持っていた。
今回は結構でかめなリボンを両サイドに結んで、猫耳コスプレまがいの恰好をしているのだが、それは抑え目である。
「そういえば、部活動どうするの? 帰宅部はだめらしいよ」
その不思議ちゃんが満桜をじっと見つめ、部活動について相談する。
「ダンジョン探索の部活動にする」
「……おかしい。ダンジョンなんて興味ないぜで、風来坊な満桜がダンジョンに興味を持つなんて」
「何だそのあだ名は」
「たった今、思いついた」
「うーん、こいつは」
満桜は三由季の頭をコツンと当てると、「あてっ☆」という効果音が出る。
満桜の視点では、今日の三由季は読み易く、なぜかハイテンションになっていた。
両手を上げて万歳のような仕草をしていて……これは喜びのポーズを表現しているのだろう。
「満桜たやんよ、ぜひ私たちのクラブに入るがよい」
「たやんは何処から出て来たの? そして何で偉そうな口振りを?」
「ふっふっふっ……。今宵の私はとても遥かな気分である」
「キャラが行方不明になってるよ」
とにかく、凄い喜んでいるらしい。
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