003:逆らえない、この地獄の道が……!
「これがステータスなのか? 比較対象が無いから、いいのかよく分からないな」
「酷いよ! かなり酷い部類に入るステータス!」
「なら……ふーむ。なぜ満桜の職業が分からないんだ?」
「こっちが知りたいわい! 『アーカイブ』にも書いていないし!」
ついに満桜は言葉を着飾る事なく、ツッコミを入れた。本来の口調に戻ったのである。
そもそもの所、どんなに調べてもこの「職業:???」というのが分からず仕舞い。
神様が人類の参考にと書き残した記録盤『アーカイブ』は、全ての職業とスキル、アイテムが詳しく記載しており、誰でも閲覧可能。
だが何度見ても、『アーカイブ』には満桜の不明な職業について何も記していなく、一切分からなかった。分かったのは扱いが難しいスキルのみ。
ただ分かるのは、そこに書いてないのならば、碌な目に遭ってしまうのがほぼ確定事項だった。
当時の満桜は祈った。
ああ、神よ。どうして私にこのような試練を与えるのですか。
などと嘆きたかったが、白状した所で滅されるかもという思いが強く、怖い目に合いたくなかった。
ならばいっその事、ステータスに関わらないで一般市民になればいいのだと決意し、職業バレせぬよう裏で怯えながら隠し通して早数年。
なぜ神はこんな物を与えたのか、殴ってでも問いたくなっていた。
もう満桜に残っている精神残量はゼロに等しいのであった。
◇◆◇
悲観的になっている満桜を余所に話を戻そう。
レイティナの動力を補充するには、必ずしもダンジョンでモンスターを倒しに行く。
弱いモンスターを倒して数をこなす手はあるが、それだと消費する速度の方が早いだろう。
結局の所、満桜自身がダンジョン探索に行かなければならない。
それを邪魔するのが、とてもピーキーな能力値を持つ満桜。武器と防具を装備しても、到底勝てそうにないステータスだ。
何としてでも満桜の致命的な能力を活かすアイデアが必要だった。
満桜のPCから『アーカイブ』内の知識を粗方読み終えたレイティナは、どうにか戦える案を練ろうと考える。
「何をしようにも、スキルの制限が枷になって思うように行かないか……。満桜は凄いな、今まで生きているのが不思議でならない」
「褒め言葉として受け取ってやるからな」
レイティナの口から開いたのは、褒め言葉を装った罵倒だった。
もはや無理なのでは? と思う満桜。だが、このまま命の恩人であるレイティナが置物になってしまうのは、余りにも忍びない。
出来るならば、継ぎ接ぎだらけの体も綺麗に直したい気持ちもあった。
満桜は心優しき人間だ。
例えゴミみたいなスキルを持ってしても捻くれた性格にならず、真っすぐな心を保っていた。
少なくとも、坂道で困っているご老人を助けようとする気遣いぐらいはある。
自分の力で助けられる範囲ならば、つい行動する性格なのだ。
「一つだけ、手段はある。ずっと考えていた……。けど、それが合っているのか正直分からない……」
だからこそ、満桜は見捨てることが出来ない。
満桜が切り出した言葉には、とても重く圧し掛かっていた。
それはそうだ。満桜のステータスが解禁されてから現在進行形で悲惨な目に合っている人間筆頭だ。
それでも、満桜は理不尽な生き方を打破しようと、絶望的で狭き道を探そうと模索していた。
これが唯一の対抗手段なのだという強き意思が、その言葉に宿っている。
「――……いっその事、装備とアイテム類は全部自分で作ろうかなって」
その満桜が編み出した
実に馬鹿げた考えだなと、軽く笑う満桜。
しかし、その表情を無視してレイティナは高速で思考演算していた。
「……いや、悪くないぞ。過程が凄く大変だが」
導き出された答えは、案外いいアイデアだろうという結果だった。
意外にも肯定的な返事に、満桜はきょとんとする。
「えっ? 本当なの? マジ?」
「サブ職業を駆使すれば可能だ。生産する素材をたくさん用意出来れば、私の知識にある物が作れるはずだ」
「それって……」
話の途中で一拍おき、レイティナは満桜の
「――そう、装備品は使い捨てで、大量の武器を作る。上手く回れば……強くなる!」
「おお! 希望の光が!」
まさかの大量生産と大量消費。まるで産業革命のような現象を自分一人の手でやるとは思うまい。
レイティナの追加案は、満桜にとって大変魅力的だ。
嘆いていた満桜の目に輝きを取り戻し、希望が生まれた。
「満桜! まずは炭鉱夫になろう」
「…………ん?」
あれ? 嫌な予感がするのは何で?
そう思ってしまった満桜なのだが、もう逃げられない。
満桜は薄々、これから先の起こりゆる未来から目を背け、計画の第一歩を踏み出す為のタスクを尋ねる。
「……レイティナ、説明を頼んでもいい?」
「満桜が大量の素材を採取し、満桜がたくさんの武器を作る。理解した?」
「……そこまでやる理由は?」
「採取スキルと生産スキルには、満桜の貧弱ステータスを補強する優秀なスキルがある。だから――」
「……だから?」
「やるべき事だ」
満桜は宇宙猫状態に陥ってしまった。目が点になり、虚空の先を見つめている。
レイティナが行おうとする内容は、まったり系のシミュレーションではなく、過労死待ったなしのデスシミュレーションなのだと判明した。
今さらになって後悔したと思いきや、更なる悪魔の道を進むことになる。
「まずは携帯用の武器を作っていこう。目標は100丁だ。春休みが終わるまでには制作して欲しい!」
「……はっ!? えっ!? んん?」
後1週間で春休みが終わっちまうのに、この歳でブラックなぞやりとうない。
恐ろしき職業体験など避けたく、満桜はお断りのメッセージを――
「――今日は疲れたから明日から、でいいかな?」
「わかった。必要な道具と採るべき資源ダンジョンのピックアップは私に任せろ」
――言えなかった。
満桜にとってこの発案は、理不尽な外敵を退ける唯一残された手段だからだ。
さぞかし魅力的な提案であり、同時に満桜の趣味にも影響を及ぼすものだった。
悔しいが、満桜はこのデスマーチに賛同してしまった。明日の満桜の手にはツルハシを持つのが確実になったのだ。
決して無表情のレイティナが、わくわくしている仕草に魅入られてないですよ、と心の中で言い訳をするのである。
*次回からは18:20、1話ずつ投稿します
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