第15話「わたし、アストラルプレーンへ。」

ルシェ「テセウスの船なんだ。魂はデータに置き換わり、

    人類は滅ゆく地球から仮想世界に移住して救われた。

    …そのはずなのだが。


    3次元における生物の細胞は、

    それぞれが生きていて共存で、統合をしているのが脳であり。

    肉体全てを切り離したその魂だけでは

    本人と同一であるとは言えないとされていた。

    だから仮想世界体験をした魂は、現実へダウンロードされて反映され、

    魂のコピーは削除がなされていた。


    しかし通信状態によるバグによる魂のコピー、

    火事等の事故や老衰による現実と魂の乖離、個人の証明実験、

    いずれも稀な事であるが仮想世界にコピーが残り、

    個人という権利を持てない魂のコピーたちが

    自分達は生きている。と主張して

    現実へ起こした戦争が機士戦争だ。


    倫理も何も後回しにして利活用された結果がそれで、

    今は修正もされて完成したのだけれど…。

    人類を救える術となった技術ではあるけれど、

    わたしは…アストラルプレーンは

    ヒトエミュレーターみたいなものだとしか思っていない。

    データだけの魂は、機械、AGIであるわたしたちと変わりがない。

    けれど上位者としてふるまうそれは、

    …現実に居るからこそ、人間であったのだと思う。」


未来さんの割り当て領域にゆく途中、さまざまな仮想世界の住人を横目で見た。

天使を従え、何もかもが思い通りになるこの世界で、

ほとんどの人間は欲望のまま生きているようだ。

あえて人であろうと踏みとどまって世界を構築している人間もいるけれど、

自分の思う時代の雰囲気を再現しただろうその世界は、

平和に停滞しているようで、どこか空虚だ。

世界の流れる時間がそれぞれ違ったりもするようで、

長い時間を過ごしたのであろう領域は、無になった場所もある…。


ルシェ「アストラルプレーンで、希望も欲望もなくなり、

    永遠を生きる事に飽きてしまった魂は、…無になるな。」


僕たちはまだ、人を支える使命があるだけそうもならないのだろうけど、

いつかはそうなってしまうのかもしれないな…。

そう思うと限りのある事は良い事だったのかもしれない…。


ルシェ「いつか地球の外で、また人間にとって住みよい星が見つかったならば、

    アストラルプレーンは希望者に肉体を与える計画であるのだけれど。

    人間はそこまでもたないかもしれないな。」


…ルシェはそこまで知ってて、未来さんをアストラルプレーンに送るの?


ルシェ「…未来も知ってて望んでいる。地球はもうだめなんだ。」


未来さんの割り当て領域は、

未来さんの好きなアニメやゲームの中で見るような、

過去においてのふつう、の地球の姿だった。

そこで未来さんは学生の姿をして歩いていて、

わたしたちも同じく学生のような姿をさせられて、

しばらく他愛ないふつう、を過ごした。


未来「昔はこうだったんだろうねー。

   わたしこれならずっと居られると思う。無になんて想像もつかない。

   ならないわ。」

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解決策はない。 土師 夜目視(ハジ ヤメミ) @waiti301

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