第8話
『人生と向き合う』ということは、毎日の生活をギリギリで生きている健斗にとって、そう簡単なことではなかった。大きな夢、目標、を持つということは、そこに投資するだけの多額の資金も必要になってくる。健斗には、夢を見ていられるほどの、時間的余裕も、金銭的余裕もない。いつからか健斗は自分の人生を悲観するようになっていた。自分の未来に輝くような世界が待っている、など到底思えないし、その日その日を生き延びられればそれでいいと思っていた。だから、今回の貴婦人の提案を聞いた時、最初に抱いた感情は「逃げたい。」だった。2年後の自分の状況が最悪なものであったとしても、今のこの逃げられるチャンスを逃していいものか。貴婦人の口ぶりから考えると、今逃げたとしたら2年後は必ず被害届を提出し、徹底的に健斗を追跡することだろう。そうなれば、実刑判決は免れない。それでもいいか、とも思った。健斗は夢も、希望も、何もなくただ生きるという毎日を送っていた。きっとこの先も、そんな毎日だろうと思っていた。それなら今ここにとどまって何かをさせられるよりも、2年間適当に生きて刑務所生活になった方が、むしろ楽なのではないかと考えた。
ただ、気がかりなことが一つある。
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