2話〜華の学園生活は一体どこへ〜

「ようこそ、オカマ研究部へ」


 嫌な予感が的中した。オカ研部はオカルト研究部ではなく、オカマ研究部だったのだ。


 日本語をあまり読めないミゲル君であっても、部室の雰囲気で気づいただろう、ここがオカルト研究部ではないことくらい。


 ミゲル君とはかれこれ2週間くらい一緒に生活しているが、彼のあんな表情は初めて見た。絶望感を具現化したような表情であった。顔は青ざめ、漏らしてはいけないものを漏らしてしまった時のような顔で俺を見てくる。


「落ち着け、ミゲル君。」


 俺はまずミゲル君を落ち着かせようとした。幸運にも教室のドアはまだ開けたままである。よし、緊急脱出を試みようではないか。


 部室にいたオカマたちにバレないように、ミゲル君に指でここから脱出しようと合図した。指で3、2、1と数えるとすぐさま俺たちはドアの方に走り出した。


「よし、行けるっ。」


そう呟いた瞬間、ちょうど部室に入ってきた性別不明の学生に入り口でぶつかった。


「あらあら、君たち入部希望ねっ。」


入り口にいた白髪のポニーテールオカマがそう言ってきた。


「いや違います!教室を間違えました。」


とすぐさま否定し、ミゲル君も頷いた。


「だーめーよーんっうふふ、この部室に入った瞬間から、君たちはもうオカマ研究部の一員よっ。」


 俺は絶望の淵にいた。ミゲル君も白髪ポニーテールオカマの発していた言葉は理解できなかったが、今置かれている状況を察し、涙を流し始めた。そして、しまいにはドアを白ポニオカマに閉ざされてしまった。


◇ ◇ ◇


 俺たちは強制的に他の部員と共に輪になって、自己紹介が始まった。


「3年1組、オカマ研究部、部長のシンデレラよ。シンちゃんって呼んでねっうふふ。」


 さっきドアで俺たちを止めた白ポニオカマがまさかの部長だった。


「同じく3年1組、副部長のメアリーピックフォードよ。メアリーって呼んでねっ。」


 どう見てもメアリー顔じゃないゴリゴリのマッチョがメアリーって呼んでって言っている。恐怖を感じた。


「3年3組、コスモポリタンよ。ポリちゃんって呼んで〜。」


 コスモポリタンのどこ取ってんだよ。なんでポリを取ってんだよ。何がポリちゃんだよ。

そう思ったが、口に出してツッコむ勇気が全く出なかった。多分ツッコまなくてよかった。


「2年1組、パラダイスよ。パラちゃんって呼んでっちゅうの〜。」


 このオカマは普通に綺麗な人だ。でも語尾のだっちゅうの〜がめっちゃ気になる。


 お、次の人は圧倒的なオネエ感が出ているぞ。多分名前はとんでもなくオネエだ。どんな名前だ。


「2年3組、剛田権蔵ごうだごんぞうだ。」


…マジかよおい。


一番キューティープリンセスみたいな名前のこいつが剛田権蔵って何事だよ。しかも渋すぎるくらいドスの効いた声で言ったぞ、おい。


フラミンゴレディよ。ヨロシク。」


違う、お前はただのミゲルだ、ミゲル。


「アー、変な名前言うゲームダトオモッタ。」


 まずいことになったぞ。ミゲル君に日本のオカマ文化を体験させてしまったら、日本のことを勘違いされてしまう。仕方ない、ミゲル君だけでも俺は助けよう。


「俺は桜花明臣おうかあけおみだ。こいつはミゲル。ミゲルは日本に留学をしにきているんだ。間違えてこの部活に入っちゃったみたいなんだ。だからこいつだけは見逃してやってくれ。」


「あらら、桜花ちゃん。わかったわ、でも条件はよ。」


 白髪ポニーテールのシンちゃんがそう要求してきた。俺はミゲルのために、ここに残ろうではないか。仕方ない。ミゲルは日本文化を学びにきているのにこんな意味のわからない部活に入ってしまったら、色々と勘違いしてしまうだろう。


「わかった。条件を飲むよ。ミゲル君はもう行っていいよ。」


 そう俺は言うと、ミゲル君は嬉しそうに、かつドンマーイみたいな顔で部室を後にした。ミゲル君が出て行った数分後にはチャイムが鳴り、俺たちも解散した。


その2日後


「おはよー!」


「おはようー」


「オハヨウ」


 ミゲル君と学校に行くと、すれ違う同級生たちがミゲル君に話しかけ、なぜか俺のことはゴキブリを見るような目で見てきた。実はミゲル君は俺の知らないところでサッカー部に入っていたみたいだ。昨日行われた新入部員対サッカー部スタメンの練習試合でミゲル君はなんとハットトリックを決め、学校中の話題の人物となっていたのだ。


 なんという裏切りだ。ミゲルはもうブラジルに追い返すべきだ。


 それだけではなく、ミゲルは俺がオカマ研究部に入部したことを学校全体にバラしたというのだ。このままでは俺の楽しみな学園生活が台無しだ。女子もいるのに、その女子からはゴミ扱いされるなんてあっていいことではない。

 

 なので放課後、俺は迷わず、サッカー部の顧問にミゲルの退部届を提出し、ミゲルを拘束。オカマ研究部に強制連行したのだ。


 ミゲルに必要なのは日本のオカマ文化だ。サッカーなんてブラジルに帰ってもできるだろう。そうだ、彼には日本のオカマ文化を体験してもらおうではないか。楽しい学園生活はこうでなくては。

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